「レン…」 「やっぱ駄目だったか。…我慢していたんだが、身体は言う事を聞かねーな」 「……」 カタカタと揺れるのはレンの手。肩を抱く力が自然と込められていき、抱き寄せる力も強くなる 顔をレンの方に向けると、苦笑を零していてもやはり何処か辛そうに見える。くしゃりと前髪をかき上げるレンの瞳には、余裕の色は見当たらない 「…でも前よりは落ち着いているよね…」 「…これでも結構抑えている方だ」 ゴウキが居たからな…無理をした、と呟きながらレンは抱き締める力を強くする。もう少しレンの方に身体を寄せてあげると、レンは私の首に頭を埋める ゆっくりと手を伸ばして(後ろの岩に手が当たらない様に)、レンの白銀の髪に触れる。落ち着かせる様に頭を撫でてあげると、微量ではあるけど肩を抱く力が収まった気がした 「……っ…」 「…大丈夫だよ、レン」 「…ハッ……ミリ…」 「私は、此所にいるから」 理由は、分かっている レンの前から去るつもりは無かった。でも、私はレンの前から立ち去る発言に近い言葉を言い、一瞬であれレンの敵にもなった レンが何を思ったかは…分からないけど、あの時見たレンの表情を思い出すと…罪悪感が、沸き起こる 「ミリ、…っ俺は…」 「…何も言わなくて良いよ、レン」 「……ッ」 「………ごめんね」 こうなる事を分かって、私はレンを追い込んだ。それは…紛れもない事実 今更、言い訳出来る立場じゃない 「本当に…私ってしょうもない馬鹿だよね。…こんな方法でしか、皆を守るすべを知らない」 「……ミリ」 「それこそレンが言った…突き放す方法でしか、私はレンを守れない」 レンの頭に置かれた手を離し、印を組む キュイイイン――と鳴り響くのは回りに結界が貼られた音。今回は見えない結界に、人を寄せ付けない力も込めておいたから…しばらくは、大丈夫 それから私はレンを抱き寄せた 「ッ…ミリ…」 「さぁ、レン。私の"目"を見て…?」 「…っ」 「心を穏やかに…少しの間だけ、怖い気持ちを忘れなさい。…大丈夫、私は此所にいる。怖い物は…何もないよ」 レンを動かすのは、"恐怖" "恐怖"を取り除くには、"安心"させなきゃならない キュッと抱き締めてあげれば、同じ様にキュッと抱き締め返される。この時だけ、逞しい身体がか弱く見えてしまうのはしょうがない 頭を撫でながら、私はレンの頬に――キスを落とす 「…、ミリ…」 「…一眠り、する?」 「いや…このままで、いたい…」 「うん」 今度は髪を掬って、キスを落とす …やる方は恥ずかしいけど、これが一番の方法だと思えば朝飯前。前髪を上げて額にもキスを落とせば、レンが小さく言葉を漏らす 「アイツの前で…」 「…?」 「アイツ…ゴウキの前で、こんなみっともねー姿なんざ、見せられねぇからな…」 「そっか」 置いてきてしまったゴウキさんにどの様な印象を与えているかは分からない。レンがこの事を言わないのなら、私も言わない。言う資格なんてない。私はただ、こうしてレンの精神を安定させる事しか、出来ないのだから 「(本当に、私って…)」 馬鹿、だよね → |