「ゼェ…ゼェ……お、おいミリ…も、もう満足したか…?」

「ハァ…っ、えぇ…お陰様で…」






センターから離れた、場所

此所は、レンと再会して負いかけっこを終わらした見晴らしの良い沖。岩壁に手をつきながら私達は乱れた呼吸を整える






「ミリ…っ、お前仮にも元病人だぞ…昼なんか太陽登った時にはへばっていたくせに…大丈夫なのか…?この…馬鹿」

「馬鹿って…此所まで追いかけてくるそっちも馬鹿じゃん……」

「ハッ…言ってくれる…」






センターから此所まではだいぶ距離がある。勿論センターからここまで猛ダッシュで走って来たから、疲れるのは当たり前。よくまぁここまで走って来た自分に拍手を送ってあげたい

むしろずっと追いかけて来たレンに言ってやりたい






「…ちょっと休憩。もう駄目、疲れた」






私は岩壁を背にして地べたにしゃがみ込む。身体を丸めて息を整えていると、レンも隣りに座った

チラッと隣りを見てみると、ほとほと参っているみたいでレンも眉間に皺を寄せながら息を整えている。こちらの視線に気付いたらしく、小さくククッと喉で笑った(あーチクショウ格好いい奴め←






「…ミリ、もう質問は勘弁だからな」

「……は〜い」






ブスッと返事を返し、視線をプイッとそさしてやると向こうが苦笑を零した声が聞こえた



逸らした視線の先にあるのは一面広がるオレンジ色の海原。前にこの場所で見たのもオレンジだった気がする。変わらずに空にはペリッパー達が飛び、海にもポケモン達が仲良く戯れている



私は数時間前の事を思い返した








「(時杜、空間を繋げた場所を…彼らの、帰る場所へと移動させてあげて)」

《ミリ様、それは…》

「(我が儘なのは分かっている。けど、こうでもしないと…特にレンは…、レンこそ避けなくちゃいけない。…だから時杜、お願い。もう…私達と会わない様に、彼らにとってとても心地よい場所へ)」

《…分かりました。繋げます、彼らの帰るべき場所を、空間を、心地よい場所へ》







そうお願いして、時杜はすぐさま空間を開いてくれた

空間は二ヵ所開かれた。こちらからは紅い空間の歪みにしか見えなく、二人の帰るべき場所は見えない。表情を見る限り、彼ら二人にはちゃんと自分達の帰るべき場所が見えていたのは、分かっていた。二人の驚く顔が面白かったのも、覚えている



あの空間に入ったら、逃れる事は不可能だ

それはもう、嫌でも理解していた。時杜は空間を開く際に、私達を包む強いバリアーを張ってくれる。以前セキチクシティの元ジムリーダーであるキョウと戦う際に時杜のバリアーに白亜と黒恋が攻撃を仕掛けていた。けどバリアーは傷一つも負う事はなかった。時期をずらし、今度は私が時杜の張るバリアーに攻撃をしてみても、傷を負っても消える事はなかった。それほどまでに強いバリアーに、逃げ場はない

バリアーにはちゃんと意味があって、これが時空だったらの場合は歴史を変えさせない、変な時空に引き寄せられない為。ただの空間移動だったら、同じ様に別の空間に移動しない為の、守りのバリアーでもある



…だからこそ、どうしてレンが空間に入ったのに同じ場所に舞い戻れるかが、不思議で不思議でしょうがなかった
















その時、ポンと頭に温かい何かが置かれた





「綺麗な海だな。……前見た時もこんな色をしていたな。お前の着ているそのオレンジ色をした、あの海の色を」





優しい表情をして同じ方向を眺めるそのピジョンブラッドの瞳はとても穏やかで、優しくて温かい色を写す。私の頭を触るその手も、存在も、全てが温かい

私はしばらく眺めた後、不意にレンに寄り掛かる。トン、とレンの肩に頭を乗せればピクリと反応が返ってきた。海からこっちに顔を向けたレンの表情はやっぱり優しくて、頭に置いてあった手が私の肩を抱いた






さっきまで、この温もりを手放そうとした

けど、手放しきれなかった私は…一体いつになったらこの微温湯から抜け出せる事が出来るんだろう



危機感が、私を募らせる――















「……チッ、震えが来やがった」

「…!」








小刻みに、私の肩を抱く手が震え出した





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