ナギサを包む暗闇 ナギサに響く二人の怒声 今日もナギサは平和だった Jewel.23 バタバタバタバタ… バタンッッ!!!! 「クゥゥゥルアアアアァァァッッッ!!!!このデェェェエエエンジレェェエエエンジィィイイイイッ!!!!テメェェェまぁぁぁた何してくれとんじゃワレェェエエエエーーーーーーーッッ!!!!」 「あー、うるせぇ奴が来やがった」 「何だよその態度はよぉぉぉ!せっかく来てやってんのにその態度は何なんだよテメェェェ!お前停電起こす時はせめて昼にしてくれよお前マジふざけんな夜に停電起こす馬鹿が何処にいるゥゥゥゥッ!!!!」 「此処にいるがけして俺は馬鹿じゃねぇよ」 「馬鹿だろ!お前馬鹿だろ!馬鹿なんだろ!絶対馬鹿だろ!」 「相変わらず失礼なアフロだ。馬鹿じゃねぇよお前の頭と比べたら俺は至って正常だ。爆発なんてしてねーよ」 「アフロ関係ねーだろ!御託はいいからさっさと復旧作業しろやァァァァ!」 此処はナギサシティの町外れにある、小さな発電所 数年も経てばナギサ一番の名所となるナギサ発電所も、この頃はまだ無人だった発電所。その無人発電所の中で朝から晩まで一人籠っては作業していた青年、デンジ。数々の機材と回線を前にドライバー片手で何やら複雑な作業を始めていた彼を前に、電力オーバーでショートしてしまった機材の前でまたか、とぼやくもけして反省していない様子。そんなデンジの元にヒコザルの灯を頼りに早々と現れた青年、オーバ。ドアを強く開け放ち勢いのまま捲し立てる彼にデンジは素知らぬ顔で耳を塞ぐ するとまた発電所のドアが開き、金色の輝きが一気に部屋の中を包み込んだ 「ミロー!」 「Σうわ眩しっ!?」 「ちょっとデンジィィィィ!アーンタまーた何してんのよォォォオオオッ!」 「…」 「キュー!」 「……」 「おーミリ、よく来たなー待ってたぜ〜」 金色のミロカロスの鱗から放つ輝かしい光を先頭に、いつもの馴染みある三匹のポケモンを従えて現れた―――本来なら別の場所で旅をしている筈だった少女、ミリ ぷりぷりと怒りを表すミリをデンジは待っていましたとばかりに歓迎する。オーバもミリを歓迎するも、お前はさっさと復旧作業しろやァァァァ!とデンジの頭をバコォォッ!とひっぱたいた ――――…一週間に一度は必ず起こるナギサシティ大規模による停電 犯人は何を隠そうこの男、デンジ。反省の色を全然見せない余裕な姿勢は何回停電を繰り返しても変わる事は無い 今日も今日とて相変わらずなデンジに、オーバは勿論ミリもやれやれと溜め息を吐いた 「悪いなミリ、せっかく来てもらって。遅い時間に連絡しちまったが大丈夫だったか?」 「丁度ご飯食べ終えたばかりだったから大丈夫。皆もまだお寝むの時間帯じゃなかったからね。この子は若干お腹いっぱいで寝掛けていたけど」 「……」 「そりゃ悪い事しちまったな。にしても…こいつもはや停電起こしたらミリが帰ってくるって思ってやがる」 「あ?何言ってんだよオーバ。当たり前だろーが」 「断言すんな迷惑かけんなよお前はよォォォ!」 ナギサシティが停電を起こし、オーバが原因を叱りに行く前に一度ミリに連絡を入れる。遠い場所に居る筈のミリがどうやって数分でナギサシティに戻ってこれたかは置いておくとして 「全くもう。私達も暇じゃないんだから」 「んな事は知らん」 「こらこら。……………でもデンジ、どう?順調?」 「…ま、順調って言えば順調だ。この機械が簡単にショートしなきゃもっとスムーズにいくはずなんだけどな」 「だからって停電は駄目でしょ停電は」 「へーへー」 「…」 「キュー」 「……」 「ミロー」 「おいおいデンジ、お前食ったゴミは集めてちゃんと資源ゴミに出せよなー」 「めんどくせぇ」 キッカケは、そう、ミリが暴走族や暴力団をコテンパンにやっつけてナギサ住民が街起こしを積極的に始めた頃からだった デンジはミリの貰った言葉を胸に、ジムリーダーのトムに相談を持ち掛け、ナギサ住民の賛成も得て発電所の設計と改造を任された。若い青年が先頭となって発電所を立て直すとなれば街のPRにもなってくれる。不安要素だらけだがトムの推薦もあって決まった発電所改築。朝から晩までデンジは発電所に籠っては一人黙々と作業を続けていた。寝泊まりもしているらしく、部屋の中には様々な機材や設計図が描かれた模造紙の他にも寝袋や買い溜めしていた食料が無造作に置かれていた デンジが発電所へ住み始め、回線を弄り始めてから頻繁に停電が起こる様になった。始めは一体何事かと別の意味での危機を覚えたナギサ住民であったが、今となれば「まーたデンジ君かいな」とハハッと笑われる始末。暴走族や暴力団の脅威より停電など全然軽いと思う彼等ナギサ住民の心は広かったのが幸いだった しかし、ナギサ住民がよくてもオーバとミリはよくないとめくらじを立てる。いくら彼等が許してくれていても停電をさせるなんて迷惑だ、と。なので唯一デンジを叱る人間は特定され、回りにも「オーバ君とミリちゃんが何とかしてくれるよ」と任される始末。旅をするミリはともかく、幼馴染みもあってデンジの身の回りのお世話をするハメになったオーバの苦労が絶えない 「……」 「刹那、眠い?」 「……(コクリ」 「よしよし、もう少しの辛抱だよ」 「…」 「うん、そうだね。そろそろ戻らないとジョーイさんが心配するもんね」 「なんだよミリ、もう行くのかよ」 「行くよー、それに電気が復旧するまでナギサの皆さんに光を照らしてあげないと。皆さん暗闇の中で長くいられないし、不安にさせちゃいけないから。水姫、いつもの様によろしくね」 「ミロー!」 「泊まってけry(バコォォッ!」 「アホか!ミリに迷惑掛けてる暇があるんだったらさっさと回復させやがれェェェ!」 停電になり、真っ暗になってしまったナギサシティを明るく輝かしく照らすのも、毎回恒例になりつつもあり またも問題発言しかけるデンジの後頭部を集めたゴミの袋ごとひっぱたくオーバ。バチバチと花火を散らす二人に四匹は呆れた様子や苦笑様々に見守る。これもまた慣れ親しんだ光景でもあり、ミリはあらあらと苦笑を浮かべながら笑うのだった 「ミリ、悪いがいつもの様に広場で光、頼んだぜ」 「任せて。…―――デンジ」 「あ?」 「頑張ってね」 「…………おう」 ぶっきらぼうに言うデンジに、ミリは笑った 全ては、ミリの為 いつかその眼で、新しくなった発電所を見てもらいたい 「――――ミリの顔も見た事だし、さっさと復旧作業するか」 見えないなら、それ以上の光を 盲目の闇の奥に届くくらいの、強い光を ――――それが、今のデンジを動かす理由だった (喜ぶ顔が見たい、ただそれだけの為だけに) |