強烈な電撃はスイクンを襲い、有り余った電撃は辺りにも直撃した。迸る電撃は蒼華がふぶきで氷結し、結晶になったソレにもぶつかり、破壊した。砕け散り、電撃がバチバチと氷に反射されるその光景は幻想的にも見える

しかし、その電撃の中心にいるソレは幻想的な"げ"の字も無かった。大量な電撃を受けたスイクンは声にならない叫びを上げながら、腕をなぎ払われてそのまま後ろに吹っ飛ばされてしまった

ドガァアアッ!と強烈な音が響く。パラパラと落ちるのは岩壁に激突し、砂と氷の欠片。スイクンはドサッと地面に落ちてしまう





《…安心しろ、手加減はしたつもりだ》

「スイクン!!」






弾き出す様にレンはスイクンに駆け寄った。近付いて、スイクンに触れてみれば麻痺状態を起こしていた。しかも体力をかなり削れてしまったらしく、きっと一発食らってしまったらすぐにでも戦闘不能になってしまう。よほど刹那の攻撃が強かったのだろう、スイクンは防御力及び特殊防御力に関しては強い方だったから

足に力を込めようとも痺れて崩れてしまうスイクン。しかし今もなお立とうとするスイクンに、良くやったとボールを取り出そうとしたレンにスイクンはソレを拒否した。小さく唸るスイクンをしばし見つめると、小さく息を吐きながらバックからかいふくのくすりを取り出した






「悪いなスイクン。…もう少しだけ、頑張ってくれ」

「…!」






ゴウキとカイリキーもレンとスイクンに駆け寄り、カイリキーは三人を守るべく構える。ゴウキはレンの隣りにしゃがみこみ、バックからオボンのみを取り出してスイクンに食べさせてやる




徐々に回復していくスイクンを、ミリはただ静かに眺めていた。何も攻撃を命じずに、紫水晶の瞳に二人と二匹の姿を写していた

フワッと地面から離れ宙に浮いた刹那はそのまま上昇していき、方向を変えて蒼華がいる所まで移動する。オボンのみを食べ終わらせたゴウキは立ち上がり、刹那に視線を写して口を開く






「違うタイプの技でもかなりの威力。流石、と言うべき…か」






視線の先にいる刹那は悠々と宙に浮いている。隣りにいる蒼華は優雅に佇んでいる

…正直、隙が見当たらなかった

二匹のプレッシャーがかなり重たく感じ、カイリキーが逆にプレッシャーにやられて、戦ってもないのにほとほと参っている状態だ

流石、伝説と最強と呼ばれただけの事はある




ゴウキは腰からボールを取り出して、ボールを何個か投げ付けた。リズミカルな音が響き渡り、ボールから眩い光を放つ

現れたのはフライゴンにトリデプス、そしてアーマルドにジバコイル。カイリキーに並ぶポケモン達は皆、ゴウキと共に歩んで来た仲間達。やる気がいっぱいだと言わんばかりの咆哮を上げながら構える






「ゴウキ、お前…」

「正々堂々が俺の中のポリシーだったが…今回はそういう訳にはいかん。レン、お前もポケモンを出せ」

「…あぁ」





レンも腰からボールを取り出して投げ付ける。同じ様にリズミカルな音と共にボールから眩い光が現れる

現れたのは見慣れたメンツばかりで、先程出ていたアブソルとハピナスとミルタンクとトゲキッスはレンの前に並び、彼らを守る様に構える。ボールから様子を伺っていたらしいのか、彼らに戸惑いはあまり見られなかった

しかし、今まで仲間として仲良くしてきた相手がまさか敵になってしまった衝動は、かなり大きいだろう。回復の手当てを終わらせ、スイクンは立ち上がり、レンの隣りに並んだ。レンも静かに立ち上がり、遥かに強い相手を見上げた






「…」

《なるほど、単体では我らに勝てないから大勢で我らに歯向かうつもりか。…妥当な考えだ。お前達の瞳には、逃げる意思は何処にもない》

「…」

《しかし、逆に好都合》






蒼華と刹那はジリッと構えれば、降り懸かるプレッシャーがまた強く彼らに降り懸かる

蒼華の回りに浮かばせるダイヤモンドダストの光と、その額にあるクリスタルが輝きを増す。刹那は武器をスプーンに具現化させ、構える。対するポケモン達皆も、士気を高め負けじと警戒心を高める












「……レン、ゴウキさん」






今まで黙っていたミリの口が、動く






「一度刃を交えただけでもお分かりになったでしょ?貴方達では私達に勝つのは難しい。いや、出来ない。けど、現実を分かっていながら闘志を無くさず立ち向かうその姿勢は称賛に値する







 よって貴方達に、選択肢を与えます」






ミリの肩にいた時杜が、フワリと宙に浮いた

対峙する丁度中心部にやってきた時杜は空中で一度立ち止まる。レンとゴウキ、そしてポケモン達をそれぞれ見回した後、クルンと一回転をした

空中で回転をしたと同時に現れたのは一つの大きな空間で、ソレの先は紅くなっていた。最初はこれが何の空間かは誰も分からなかった。眉間に皺を寄せ警戒心を露にする彼ら全員に、ミリは静かに口を開く






「見えますか?その空間の先を」

「これは…」

「特殊能力は白亜と黒恋、蒼華だけではありません。時杜もまた、その身に宿る力があります。その力は――【時空と空間の力】」

「「!!!」」

「二人はシンオウ地方に行った事があるなら分かるはず。シンオウには伝説にして神話に描かれているポケモン、パルキアとディアルガがいます。彼らは空間、時空を司っています。…この意味、お分かりですよね?」

「…なるほどな。そいつはすげぇ能力だな。…なら、その先に見える空間は、何だ?」

「貴方達の、帰る場所」

「「!!」」

「特別時杜には、貴方達が強く思い入れがある場所や、勿論人間の場所にも移動してもらえる様にしてもらってます」






ゆらゆらと揺らめく紅い空間


二人には見えていた

その先に見える空間の先が



自分達が、もっとも思い入れのある場所や、人を










「私達は深追いはしない。貴方達が全てを忘れ、一切関与しないとなら、この空間を潜って元在るべき場所に戻るが良い






しかし、ソレを拒むと言うならば――貴方達を容赦無く、叩き潰す」














「ふざけんな!!!」






レンの叫びが、木霊する



今日で何度目の、叫びになるのだろうか






「確かにソイツらの実力は半端ないのは認める。時杜の能力にも正直驚いている。…が、こんなもんを見せて…俺達が、俺が、そう簡単に諦めると思ってんなら大間違いだ!!」






その台詞は、ここの全員も一緒だった

皆レンの言葉に、頷いたり鳴き声をあげたり各々の反応を見る。静かに沈黙していたゴウキもレンに視線を向けて、フッと笑う

――やはりレンは変わった、そう思いながら






「それに、残念だったな。…俺には、元々帰る場所が無い。…いや、無いと思っていた





…けどな、時杜の能力のお蔭で…俺の帰る場所が見つかった」

「…」






その時のレンの表情は何処か穏やかで、それで嬉しそうにミリには見えた。視線は静かに空間に映る、"帰るべき場所"を見つめていた






「…なら、安心して。貴方達を容赦無く叩き潰した後はちゃんと貴方の言う帰るべき場所に帰してあげるから」






パチン、とミリは指を鳴らした



刹那は飛び出した

蒼華も駆け出した


来るぞ!とゴウキの叫びが上がった













「大いなる竜巻よ、その無慈悲な吹雪と共にこの全てのものを包み、なぎ払い、無二帰しなさい」








光が、氷が、爆発した





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