いけないことは分かっている でも、これしか方法はない 「な…にが…!?」 「ッ……!?」 地割れとも言える、大地の裂け目 大きくそれで恐ろしい程深い一本が、地を抉る 二人は何が起きたか分からなかった レンは驚愕し、ゴウキは唖然とする 一体、何が起きたというんだ 「―――あぁ、大丈夫?とりあえず手加減はしておいたつもりだったんだけど…良かった、久々だったから腕が鈍ってうっかり貴方達を怪我させる所だったよ」 ミリは笑う 愉快に、楽しそうに、愛しそうに 綺麗な笑みが、いつもの様に笑い、いつもの様に優しいまなざしだったソレが、どうしてだろうか ――とても、恐ろしいと感じてしまうのは 「自然は大切にしなくちゃいけないって良く言うよね〜。でも安心して。すぐに治してあげるから」 例えばこんな風に、とミリは変わらぬ笑顔と変わらぬ調子で指を鳴らした パチン、と鼓膜を揺らすその音がやけに大きく、それでいて長く響いた気がした。深く抉られ、自然の原理とは思わせないソレは――白い温かな光が辺りに包む様に現れたかと思ったら、地割れで深かったソレが、…なんと元に戻っているじゃないか その摩訶不思議な光景を、誰が想像したか。これを見て、驚かない奴等は何処にいる 冷静なレンも、何事にも動じないゴウキも、流石にこれには驚き、ど肝を抜いた。確かに目の前には深い恐ろしい程の亀裂が走っていたのに、まるでさっきまでの亀裂が嘘の様に丸々と元に戻っていた。幻覚でも見ているのだろうか…我が目を疑った 「かの有名な白銀の麗皇が、こんな程度で驚いてどーするの?」 「………!?」 いつの間に移動したのだろうか 瞬きをした、たった一瞬に…ミリはレンの目の前に居た。結構な距離があり、しかも人間がそんな素早く他人の懐に入れるなんて、出来るのだろうか。突然の事で驚き、凝視するレンにミリは面白そうに笑った すると腕を伸ばし、レンの頬に手を添える。背伸びをし、耳に口を近付けて、小さく妖艶にクスリと笑った 「今更驚く事はないデショ?――それとも、怖い?」 「……!?」 「しょうがない、か。そうだもんね、怖いもんね。…足、すくんで動けないみたいだし」 ミリの言う通りで、レンは本当に足を動かせられないでいた。例えるなら見えない針が深々とレンの足背を刺す、あんな感じに 動きたくても、動けない 見えない重圧が、降り懸かる 妖艶に笑うミリが恐ろしいと感じた 頬を撫でる手が麻痺をし、とても冷たいと感じてしまう 「…馬鹿も休み休みに言え。俺がお前を怖がる?それは新手の冗談か?だったら笑えない冗談だな」 表情は変えずに不敵な笑みを向けるレンであったが、悲しきかな、強がりを言う事しかレンには成す術がなかった 自分は、ミリを恐れている 恐れて、しまっている 目の前にいるのに、こうして自分に触れてくれているのに―― その微笑すら、恐ろしい 《聖燐の舞姫、》 「ブイ」 「ブイ〜」 「えぇ、今そっち行くよ」 「!?ま…!」 刹那達の言葉にミリはレンに背を向ける。レンは驚愕し、その手を動かしミリの手を取ろうとした――が、レンにはそれが出来なかった 何も出来ないレンを置き、ミリは軽々とジャンプをして刹那の隣りに降り立つ その軽やかな姿は魅力的で美しいのに、こちらに振り向く笑みは綺麗なのに…その手を取れなかった喪失感が、レンを襲った 「ブイ〜」 「ブイブイ」 「白亜、黒恋」 「「ブ〜イ」」 何も動けないレンを目の前にし、ミリは白と黒のボールを出現させる。刹那の腕に抱かれていた白亜と黒恋はミリの前にちょこんと座る。ミリは微笑み、二匹の頭を撫でるとボールから赤い光線を出し、二匹をボールの中へ戻した 立ち上がり、手にあるボールをキュッと握って拳を開けば、あった筈のボールがいつの間にか消えている。小さく息を吐くミリは、沈黙を守り続けていた刹那に振り返る 「刹那、少し手を貸して欲しい」 《理由を聞こう》 「決まっている。…二人を巻き込ませない為に、ここで彼らを倒す」 「「!?」」 さっきまでの微笑とは違い、真剣な表情で言い放つミリ。その言葉を聞いてそれこそ二人は驚き、間合いを取る(お蔭で見えない重圧からなんとか動ける事が出来た ミリはボールをまた一つ出現させる。目の前に軽く投げ付ければ水色の光を放ちながら蒼華が現れた。まさか色違いのスイクンが出てくるとは思わなかったゴウキは目を張る。優雅に現れた蒼華は、伝説だと言わんばかりの重圧と咆哮を上げた。ビシビシと来るのは刹那と同じプレッシャーで、咆哮は大きく木霊していき、遠くでポケモン達が逃げ出して行く ゴウキはすかさず腰からボールを取り出してカイリキーを出す。四本の腕を逞しく振り上げ気合いを入れるカイリキー。コロシアムよりまた一段と強くなったと見える。対してレンの方は、ボールを取り出しアブソルをボールに戻した後また新たなボールを取り出した しかし、投げる事はせずただ真っ直ぐにミリを見る。向こうも真っ直ぐにレンを見つめていた。その表情は本当に真剣で、レンも真剣な表情だった。お互い反らされる事はない瞳は、一体何を写しているのか 「…ミリ、一つ聞く」 ゆっくりと、口を開く 「お前はまた、俺の前から居なくなっちまうのか…?」 ミリが怖い ミリが恐ろしい しかし、そんな事よりもレンは一番に恐れている事があった ――ミリが、自分の元からまた居なくなってしまう事 「…もはや、言葉は無用」 本当は色々と聞きたかった 何故、刹那とミリが知り合いなのか 何故、自分が白銀の麗皇と知った瞬間こんな展開にまでいってしまったのか 何故、どうして―― 「全てを知りたくば覚悟を決めなさい。絶望を跳ね返す屈強の覚悟を、全てを受け入れる覚悟を。私達は、貴方達を阻む壁となる ―――私を倒せ、レン」 舞台は切って降ろされた → |