「ミリ!何で戻って来たんだ!此所は危ねーから戻れ!今すぐ戻れ!さっさと戻れ!」

「もどっ…!?そっちこそ危ないでしょーが!いくらゴウキさんが仲間に加わっても危ないものは危ないでしょ!」

「「ブイブイ!」」

「しかもこんなにえらい騒ぎに…!一歩間違えれば大変な事に…!…レン!私を叩き起こすなりなんなりしなさいよこのバーカ!一人だけ何かっこつけているのよバーカバーカ!」

「あ゛ぁ!?テメェどの口でそんな事が言えんだよ!疲れてぐったりしている人間を叩き起こせるか!第一お前仮にも元病人だろーが!ちったぁ自分の身体を考えろ馬鹿野郎!」

「はぁ!?それはそっちもそうでしょーが!何自分元気ピンピンピン子でっす☆だなんて言ってんのさ!?バッカじゃないの!?アンタも少しは自分の身体を考えなさいバーカバーカ!」





「「ブイブイ」」

《あぁ、そうだな。仲がいいな》


「…」

「白皇…いや、レン。お前ら少しは静かになれ…餓鬼臭いぞお前ら…」






お互い立っている場所から罵倒しあうレンとミリに軽く頭を押さえるゴウキに、隣では小さく溜め息を吐くスイクンと、白亜と黒恋を抱き抱えてのんびり二人の痴話喧嘩を見ている刹那

ミリの登場でさっきまでの緊迫した雰囲気がお蔭様でがた落ちだ。離れた場所で罵倒しあう二人の間にはバチバチっとした見えない何かがゴウキには見えた

やがて終盤を迎えたらしく、二人は同時に「「フン!!」」と言って顔を逸らした






《もういいのか?》

「いいの。埒が明かないから。……話を無理矢理戻すけど、刹那、一体これはどういう事?」

《何故私が姿を現わした、か?》

「貴方が私の前に姿を現す理由は分かっている。けど、どうしてレンにバトルを仕掛けたの?貴方はバトルを好まないんじゃなかったの?」

《それはそこの者が勝手に私に攻撃したまで。私は手を出していない》

「だったらどうして、」

《始めはお前とどうやって合流するか様子見をしていたが、お前と共に行動する人間に興味が湧いた。中々の勘の鋭さだ。スイクンを持つ者としては充分だろう》

「…」

「刹那、貴方結局気配を出した時点でチョッカイ出しているじゃないの」






本当にミリと刹那は知り合いらしい。ミリは驚くどころか普通に会話なんかしている。現状に着いて行けないらしいゴウキは、ミュウツーの刹那と会話をこなすミリに驚き目を張っている

それに刹那の腕の中にいる白亜と黒恋なんてケラケラと笑って尻尾を振る始末だ。どうやら刹那の言った事は本当らしい。レンは軽く舌打ちをした






「駄目でしょ!他人様に迷惑をかけちゃ!何もしていないなんて言い訳にならないんだから二人に謝りなさい!」

「…いや、待てミリ。そんな事言ってコイツが素直に謝る訳な…」

《すまなかった》

「「Σ!!?」」






即答で謝る刹那にレンもスイクンもゴウキも流石に驚く。しかし相変わらずの無表情に謝っているのかそうじゃないかが判別がつかないのは何故←

対してミリの方は「よく出来ました。えらいえらい」「「ブイブイ!」」と褒めているものだからこちらが拍子抜けしてしまう(無表情だけど照れる刹那)(尻尾が、尻尾が揺れている←






「……ちょっと待て、とりあえず待て、落ち着けミリ!」

「いや、お前が落ち着け」

「(無視)ミリ、お前…本当にそいつと知り合いなのか?…俺は何も聞いてねーぞ!」






今もなお刹那を褒めているミリにレンは声を荒げる。らしくもないその声色にミリはピシッと固まりレンに振り返る

さながらその表情は「(あ、刹那もしかして言っちゃった?)」とでも言っている表情だ。恐る恐る刹那に振り向けば、シレッと《私達が知り合いだとは言った》と答えたものだからミリはもう固まるしかない






「聞けばあの時…ふたごじまの時には既に出会っていたらしいな!それから再会したあの日も!……ミリ!一体どういう事だ!」






怒りに近い何かが言葉となりミリに降り懸かる

対してミリの方は…無表情だった。しかし無表情といっても何かを言いかけている様な…口を開いてもキュッと口を閉じたのを、二人は見逃さなかった

視線までは逸らさなかったが、ただこちらを見るミリにレンは怒りを瞳に宿し、ゴウキは沈黙を通す






「どうもこうも…刹那の事を言って、何になるの?」

「なっ…」

「確かに刹那と初めて出会ったのはふたごじまで、刹那と別れた後レンは高熱で倒れた。それでも言う機会はいくらでもあったけど、言う必要は何処にもない筈でしょ?」

「ふざけるな!必要とかそんな問題じゃねーだろ!?俺達は…少なくとも俺は…!」






仲間だと、思っていたのに――…‥














「レン、貴方は誤解をしている」

「………」

「私も、貴方の事は大切な仲間だと思っている。かけがえのない、大切な…。それは言わなくても、分かるよね?」

「だったら何で…!」

「…けどね、世の中には知って良い事があれば、知らなくていい事も、あるんだよ」

「…!」





レンは見た

ミリの瞳が段々漆黒から紫水晶の色に変化していくのを。スッと細められた瞳から感じるのは、背筋を凍る様な圧力――

それは此所から先へは入るな、という危険信号だった。紫水晶の瞳を見た瞬間、レンはゾクッとした何かが背中に走り、冷や汗を流した。そこにはいつも見ていた、笑顔が眩しいミリの面影は、無かった






《…聖燐の舞姫よ、私も一つお前に聞きたい事がある》






見えない威圧がレンを襲い、辺りを沈黙に陥れるミリに、無機質な刹那の声が響く






「…何?刹那」

《何故、お前は白銀の髪の者と共に行動している?エンジュシティの時、私の言葉を忘れたか?》

「…は?どういう事?」

《それにまさかお前と黒髪の者が顔見知りだとは知らなかった。…やはりアイツの言った未来は当たるモノなんだな。しかし、手間が省けたのはこの事だ》

「…刹那、一体何が言いたいの?」






訝しげにミリは刹那を見る。レンも、ゴウキも、意味深に言う刹那に同じ様な顔をして刹那を見る

刹那は口を開いた






《私はもうお前の事だから気付いているのかと思っていた。黒髪の者の方はともかく…






そこの白銀の髪の者は、紛れもない…【白銀の麗皇】だ》


「――――!!?」






バッとミリはすぐにレンに振り返る

驚いた様な、それで信じたくない様な、そんな表情を浮かばせて

対してレンの方は…今度はレンの方が、黙ってミリを見つめ返していた。否定の色は何処にもない――慌ててゴウキを見れば、ゴウキも黙ってミリを見つめていた

嘘でしょ、ミリの呟きが木霊する






「レン…貴方、本当に…?」

「…何でそんなに驚くのかは知らねーが……あぁ、ソイツの言う通りだ






―――紛れもねぇ、俺は白銀の麗皇と呼ばれていた」



「――!!!!」









(歯車が、グルグルと回っていく)



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