ナギサ恒例行事 そう呼ばれてしまった現象 人々は、こう呼んだ 暗黒世界と Jewel.22 包み隠さず暴露させてもらうが、ナギサシティはシンオウ地方の中でも最も治安が悪いと顰蹙を買われている街No.1トップだ ナギサの海岸から見える広大な海はとても美しく綺麗で絶景とも言える晴れ晴れさだが、視線を変えれば一辺し―――誰もが見てもその閑散としたギャップに驚くだろう。光を感じさせない、どちらかと言えば暗闇がどっしりと蠢いているそんな雰囲気。電気が通っていない所もあるのか、そう、全体的に暗い街だった。幽霊が出てもおかしくないくらい しかし分かってもらいたい事がある。デンジとオーバを見て分かる通り、そんな街でも住民達は元気に、街をもっと明るくしたいと地域起こしの活動を積極的にしている所もあるのだ。ナギサ住民は前向きで、一丸となって頑張っていた しかし、一向に変わらない原因がナギサシティに生息していた 原因はそう―――暴走族や暴力団といった、迷惑極まりない集団だった シンオウ全土から集まる暴走族の集団。恒例の如くナギサシティに集まっては住民に多大な迷惑を与え、『ナギサシティは暴走族の溜まり場』というレッテルを貼られた挙げ句、街起こしとして頑張ってきたナギサ住民の努力を踏みにじっては排気ガスを残して帰っていく。残っているのは、もはや残骸でしかない。マナーが悪い、を通り越した非道な彼等にナギサ住民は苦渋を飲まされ続けた そして極め付けに、此処には暴力団もアジトを構えていたのだ。しかも堂々と。タチの悪いと噂されていただけあって、彼等も彼等で裏ではかなり騒動を起こしては、表にも影響を与えナギサ住民に迷惑を掛けまくっていた。こちらも日々ナギサシティに恐怖と迷惑を中での生活を余儀無くされていたのだ 喩え―――この街にジムがあり、ジムリーダーがいても、そういった迷惑集団への恐怖は拭い切れない しかし、光が差した そう、盲目の聖蝶姫の存在だ 数ヶ月前にナギサシティに現れた彼女。彼女の存在はナギサ住民の耳と目に届き、一躍有名になっていた。美人で優しくて温厚で、盲目なのに立派な姿には感服し、彼女の従わすポケモンに圧倒されたりと、その不思議な魅力と雰囲気に彼女達は次第にナギサ住民に受け入れられていった 彼女が盲目の聖蝶姫としてシンオウで活躍していく姿を、勿論住民達は知っていた。応援していた。しかし、逆に恐れていた――――ナギサシティに潜む暴力団達の存在を知って、彼女が街から離れていく事を ナギサシティは閑散とした街だ。けして綺麗な街とは言えない。ジム巡りをするトレーナー達は、あくまでジムが目的で街には興味すら湧かずに去っていく。何故なら彼等は眼が見えるから。見えるから、閑散とした街になんて興味など湧くわけがない その点、聖蝶姫は盲目だった。こんな街の様子など見えやしない。聖蝶姫は純粋に街を気に入ってくれた。だからこそ住民達はいたたまれず、怖かった。暴力団の存在を知り、閑散とした街に失望して立ち去ってしまう事を けれど、その思いは気宇に終わる 「――――はーい、君達もナギサ住民の皆さん達に土下座しましょうねぇー。地面に額擦り付けてしっかりきっちり謝りましょうねー、感情を込めてねー、もう悪い事はしません今までごめんなさいって懇願しなさーい」 「「「「「(本当にやりやがった…!!!!)」」」」」 数時間前の暴走族の土下座から、今度はまさかの暴力団の土下座をしでかした盲目の聖蝶姫に、ナギサ住民は開いた口が塞がらない その日―――今日も今日とて集まった暴走族集団に嫌気が差し、早く帰ってくれと朝日を待っていた矢先だった。突如聞こえた複数の悲鳴に飛び起きた住民達は、なんだなんだとナギサ広場に集まっては驚愕。巨大な氷の柱の中には暴走族の人間やバイクやポケモン、その前ではズラリと並んだ暴走族の彼等が見事な土下座をしては泣きながら懇願していたのだ 原因はすぐに分かった 久々に帰ってきた聖蝶姫―――笑っていたから 彼等ナギサ住民も、暴走族集団も、暴力団集団も、月日が経ってもきっと忘れる事はないだろう。あんな、背筋が凍える程怖くて美しい笑顔なんて ――――彼女の活躍のお蔭もあり、その後のナギサシティは平和になってくれた 暴走族はきっと、再びナギサシティに来る事はないだろう。泣きながら尻尾撒いて逃げる憐れな姿を見てしまえば、尚更 暴力団のアジトも数日もすればいつの間にか取り壊され、跡形もなく無くなっていた。一体彼等の姿は何処へ。噂によれば改正して真っ当な道に進み始めた、と聞くが…本当かどうかは真相は闇のまま ナギサシティは変わろうとしていた 暴走族や暴力団という、恐怖の対象がいなくなった (騒音にキレた)聖蝶姫の活躍のお蔭で 居なくなった、今が好機とばからにナギサ住民は活発に動き出した。今までは暴力団などに目を付けられない様にひっそり生活する必要もない。ナギサ住民は互いに手を取り合い、街起こしに専念した。もう、暴走族集団に壊される心配もない 聖蝶姫の怖い笑顔を見たとしても、彼女は街を救ってくれた事実は変わらない。彼女の恩を返す為にも、彼女の眼が見えた時に―――変わったナギサシティを見てもらいたい そして、いつかこの街が光溢れる街になって人々に笑顔と希望を与えたい ナギサシティはポケモンリーグ協会シンオウ支部の窓でもある。それこそ光の力でリーグ挑戦前のトレーナーを励ましてやりたい 「―――デンジだったら…そうだね、デンジの特技で何か人の役に立つ物を造ってみたらいいんじゃないかな?ほら…さっき言っていた機械弄りってのでさ。このナギサシティの為に貢献出来る物を造って、皆を笑顔にさせてみるとか」 ふと過ぎる、あの時の言葉 軽い気持ちで、しかし、彼女の求める自分の姿を知ってみたくて 「手軽に発電所とかデンジの専門分野だったりしてね」 「発電所、か……なるほどな」 バチィッ… ビビッ… ブツン―――― ナギサシティが一瞬にして暗闇に包まれた (静寂に包まれて、そして) |