空間の神、時の神、冥府の神

創造の神より上回る存在

それが、【異界の万人】












Jewel.21













喩えば、時間の流れを自在に操る能力を持ち、時の流れを生み出したとされた魔獣がいるとする

喩えば、空間の繋がりを自在に操る能力を持ち、空間を拡げ世界を生み出したとされた魔獣がいたとする

喩えば、この世の裏側に存在する時空の捩じれたもう一つの世界に棲むとされ、この世の安定を担う魔獣がいたとする

喩えば、何もないゼロの状態から生命を生み出す力を持っており、千本の腕で世界の全てを創造した魔獣がいるとする




全ては一匹の魔獣―――混沌のうねりの中に現れたタマゴの中から出現した最初の生命体が全ての始まり。後に生み出された三つの分身である三匹の魔獣が空間を造り時を造り裏で安定を担う。そうやって世界は着々と生み出されていき、さらにその後生み出されたタマゴから三つの魔獣が誕生した

それからだ、今の魔獣や人間が在るべき姿となって存在しているのは









《――――…喩え、人間から私達の存在を神と崇められたとしても、私達にとって神と呼ばれし者はただ一人。私達の存在そのものを超越し、全ての異世界の頂点に君臨せし空間と時の安寧を測る存在こそが、尊くも偉大な私達の主》








それは何千年も変わらない

どんなに姿を変えたとしても、その魂は、聖性は、自分達の知る力でもあり

自分達が敬い、崇め、

またその者の存在が無かったら自分達は生まれなかっただろう








《―――…よくぞ、私達の世界へ帰ってきてくれた》









テンガンザンの山頂付近にある遺跡、通称「やりのはしら」

赤い空間の亀裂、青い時空の亀裂、黒い冥府の歪み、そして眩く神々しい光の亀裂から現れた――――シンオウ地方で神話として存在する、神々のポケモン






一つは、深い藍色の全身に青白く輝くラインが走る、胸部の中心に輝くダイヤモンドの結晶が特徴な【時を司る神】と呼ばれし魔獣

一つは、紫がかかった白色の身体には紫色のラインが入る、両肩の真珠の球体が特徴な【空間を司る神】と呼ばれし魔獣

一つは、銀色の全身に三本の赤いトゲが付いた黒い一対の翼、六本の足を持ち金色のリング状の装飾を持つ【破れた世界の王】と呼ばれし魔獣

一つは、細くしなやかな純白の身体、宝石の様なパーツが埋め込まれた金属的な質感の装飾を持ち白馬を思わせるシルエットを持つ【創造の神】と呼ばれし魔獣




彼等の前に立つのは…―――










「――――我が名は【異界の万人】が十代目、ミリ。真の名はミリレイア・フィール・レイチェル。この世の神と呼ばれし者達よ、何千年との歳月を超えての再会を、私は、【私】も嬉しく思う」









彼女は、自分達の新たな主となる存在


姿や声は違えど―――太陽の象徴とも言える鮮やかなオレンジ色の衣装を身に纏い、その堂々とした純粋で純白で清らかで交じり気のない魂と力強い聖性は、確かにあの時の【かつての主】を思い出させる


彼女の隣りに並ぶのは、かつての同胞


【かつての主】から生み出された【北風の化身】、【かつての主】から救われた【時の妖精】―――なるほど、やはり彼等には叶わない。自分達より早く、新たな主と再会出来たのだから。そんな小さな嫉妬を抱きながらも、【創造の神】は自分を見上げる同胞を見返す







――――彼女は自分達の主でもあり、


同時に、最愛の母でもある――――









何故自分達が彼女を主と呼び、何故母と呼ぶのかは―――今はまだ、語る時ではない

しかし自分達にとって彼女の存在は説明しきれないくらい特別なのだ。いくら自分達より小さく脆く儚くて、弱いと見てもおかしくないくらい危うくても―――その存在は大きく、そして凛々しくて









「改めて、これからもよろしくね」








こちらを見上げて微笑むその優しい微笑も、温かい存在も脳裏に過ぎる【かつての主】そのもので

彼女の腕が伸ばされたので、【創造の神】は自分の頭を屈ませ彼女の手に自身の頬を添えた。柔らかくて細く淡い感触。まさにそれは以前触れてくれた感触そのもので、心の中でジワリと温かい何かを【創造の神】は感じた

彼女は【創造の神】の他にも、順番に【時を司る神】と【空間を司る神】と【破れた世界の王】の身体に触れていく。巨体な身体と小さな身体、それでも三匹の神は嬉しそうに声を上げて彼女との再会を喜んだ。勿論、かつての同胞である二匹の再会を喜び合うのも忘れずに







「そうだ、お近付きの印として君達に名前を付けよっか!」










ディアルガ、君は永久<トワ>

パルキア、君は久遠<クオン>

ギラティナ、君は冥王<メイオウ>

アルセウス、君は皇臥<コウガ>


うん、これから君達をそう呼ばせてもらうよ!ねえねえ蒼華、時杜、刹那、中々素敵な名前でしょ〜?









そう言って名前を付けた彼女に、四匹は少なからず驚きを隠せなかった

名前、【かつての主】は自分達に名前を付けなかったから

無論、何故昔【かつての主】が自分達に名前を付けなかった理由も知っている

だが、しかし―――【かつての主】と【今の主】は同じでも、違う。眼下にいる彼女は、楽しそうな子供っぽい笑みを浮かべている。昔だったら、ありえないその表情に―――改めて二人は同じだけど違うのだと実感する

しかし、それでも―――










《―――…素敵な名をもらった。礼を言う、我が主よ》

「ディァアッ」
「パルゥウッ」
「ギャアアッ」

「フフッ、気に入ってくれて私は嬉しいよ!あ、それじゃ皆に私の仲間を紹介するよ!皆いい子達ばかりだから安心してね〜!この子は刹那!それからこの子は―――――…」











遥か昔―――何千年の昔、我等は【かつての我が主】を失った。今でも覚えている。自分達の過ちと喪失感と絶望は忘れていない。否、忘れてはいけないのだ




嗚呼、主よ、我が主よ

姿を変えて帰ってきた我等の主よ




あの日から―――蓄積された人間への憎しみは変わらないが、それでもお前が許すのなら、私達は人間を許そう

しかし、また人間が主を傷つけたとすれば―――…









「皇臥、永久、久遠、冥王




 一緒に世界を楽しみましょうね」









優しく触れてくれたあの時の感触と、そして今の感触を、今度こそ守ってみせる

喩え――――この世の全ての人間が、滅んでしまったとしても








(おかえりなさい、我が主)


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