ナズナさんの光に導かれ、手に感じる不思議な温もりを感じながら…ひたすら私は暗闇を歩いてきた。気付いたら私は私の"体"に戻っていて、私は一気に身体の怠さを感じた

背中が、腰が、寝過ぎた様に、痛い。ズーンと何かに沈み込む様に、重い。頭なんて全然回転なんてすぐにしてくれるわけないから、今私がどんな状態なのかも…分からない






「…………」





目が、見えない…


単に部屋が暗いせいなのか、分からない。私の瞼が開いているのかさえも、分からない。でも、開いているのは…微かに分かる

目の前は真っ暗な暗闇

一か月前のふたごじま辺りで視力が低下している事に気付いた私は、己に宿る力をフルに瞳に持って行き視力を補助し続けていた。でもどうやら今その力の効力が行き届いていないのか、全然見えない(本当に、視力を失った気分)

ゆるゆると、なんとか重い腕を動かして自分の手を目の前の位置に持っていく。……やっぱり、自分の手が…見えない


分かっていた。でも

軽い、絶望感―――






「…………」






左手が、温かい

あの時感じた不思議な温もりが、左手に残っている。……誰かがずっと握ってくれた様な、そんな温もりがあった。どうやら誰かが座っていたらしく、ベッドの一部が妙に温かい


それには頬も同じだった





…私は、この温もりを知っている









「……………、レン…?」












* * * * * *









自動販売機の光りが降り注ぐ

お金の入れる音が響き、ボタンを押す音が鳴る。しばらくしてすぐにガッシャンと落ちるのはサイコソーダのジュース

ケースを開け、手を突っ込んでそれを取り出す。蓋を開けるとプシュッと炭酸が抜ける音が鳴る。結構冷やされているらしく、冷気が目で確認出来る






「………」






虚ろでそれを見るレン

開けても、一向に飲もうとはしない






「…眠り姫はキスで目覚める、か」






あんな事を言っておいて、頬にキスしておきながら、今更何を言い出すのか

嘲笑った様に、鼻で笑うレン


自分の行動がよく分からなくなってくる。いや、自分自身がよく分からなくなっていった。自分は、こんなに弱くなかった筈なのに。自分は、もう少し頑丈な筈なのに。実は心が繊細でした、だなんて…呆れて物が言えない


サイコソーダを一口飲むが、以前の様に一気飲みが出来ない。飲みたいと頭では訴えるが、喉はそれを拒否していた






『…レン、これだけは言っておく。私達は何があったかは聞かない。お前が話せる時が来たら、聞かせて貰う』


『僕もこれだけは言っておく。…無理はするな。そして自分を責めてもいけない。ミリちゃんが目が覚めても、レンが体調を崩してしまったら元も子もないぞ?』


「…それに、レンさん。あなたも少しは休まれた方がいいですよ。…でないとレンさんが倒れてしまいます。ミリさんを此所に運んだのは、レンさんの為でも…」

















色々な人からの言葉が、木霊する


しかしすぐに頭を振る


俺は、平気だ。大丈夫だ、とまるで自分に言い聞かせる様に呟く






「…………戻るか」






全てを振り切り、ミリが眠る部屋に戻ろうと踵を返した











――――フワッ
















レンは気付かない


その腕に着いているオレンジ色の腕輪が




徐々に光りを帯び始め、亀裂が、ゆっくりと修復されていく事に―――












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