此所は、コガネ病院のフロント


平日のフロントはやけに静かだった。昼に入ったのにも関わらず、いつもなら人が沢山いる筈なのに今日に限って人は少なく感じた






『……今朝のニュースを見たよ。自然公園の事件…テレビで放送されていた被害者が、まさかミリちゃんだなんて思わなかった…』

『あぁ。…正直信じられない』





コガネ病院のフロントにあるテレビ映像付きの公衆電話に映るのは、マツバとミナキ

マツバは苦い表情を浮かばせ頭を抱え、ミナキは辛い表情を浮かばせ拳を強く握る。マツバとミナキの後ろに映るゲンガーとスリーパーも、悲しそうに眉を潜める






『…ミリ姫は、無事か?』

「あぁ。麻痺状態だった身体は治療で治った。輸血のお蔭で一命は取り留めてある」

『……そうか。何がともあれ無事でなによりだ』






ミナキの質問に答えるのは、レン

ミリの状態を聞き、少なくとも良い方向だと聞けた二人は安堵の溜め息を吐く






『…でも、その様子だと目は覚めていないみたいだね』

「あぁ…」






そう、


ミリはまだ、目を覚ましていない







「……………」

『………レン、お前…昨日寝たか?』

「…寝れたらどんだけ良かったか」

『…やはりね。薄くだけど、くまが見える。げっそりもしてる。……昨日がよほど衝撃的だったみたいだね』

「……………」







あれ程のものを見て、平然としていられる程の人間を一度見てみたい

昨日のミリの姿は、少なからずレンに衝撃を与えた



レンは寝なかった

否、寝れなかった


目を瞑る度に浮かび上がるあの光景。一睡も出来なかったレンは静かに眠るミリの手を握るしか方法は無かった。寝てしまったら、あの光景がまた浮かんできてしまう――







「…この事を知っているのはフィンとリランって言うトレーナーと、マツバとミナキ…お前達だけだ。ミリはアレでも有名だ。病院やテレビでは名前を伏せて貰っている」

『あぁ、分かっている。この事は他言しないよ』






マツバとミナキにこの事を伝えたのはミリの知り合いだからと、ミリが少なからず心を開き、慕っていた

一か月近くも同居していた仲だ。マツバもミナキもミリを大切な家族みたいに慕っていた。伝えない方が、おかしい







『レン、ミリ姫のご両親にはこの事は…?』

「いや…伝えるべきかと思ったが、連絡先が分からなくてな。とりあえずお前らから先に連絡を入れた」






ミリが病院に入り、一段落をついた後、喫茶店に戻りマスターに説明を入れてミリの荷物を病院に持って来た時…

バックを物色し、ポケギアを取り出してアドレスを開くとレンは目を張った。アドレスが数える程しか登録されていなかったからだ。もちろんそこには両親の名前はおろかその存在さえもなかった

トレーナーカードを見ても出身地はマサラタウンしか書いていなく詳細は、不明







「レンの気持ちは分かるよ。……私もずっと一人だったからね、人の温もりを知った時には寂しくもなったよ」

「…意外だな。お前の周りにはいつも人がいるイメージが大きいから」

「一人だよ、ずっと一人。…レンと会うまでは、白亜と黒恋と出会う前は、一人だったよ。…フフッ、別にこんな事言わなくてもいいのにね」


















「なるべく見舞いは避けてくれ。何かあったらこっちから連絡を入れる」

『分かっている。私達からも何かあったらそちらに連絡を入れよう』

「あぁ、頼む」

『…レン、これだけは言っておく。私達は何があったかは聞かない。お前が話せる時が来たら、聞かせて貰う』

「…………」

『僕もこれだけは言っておく。…無理はするな。そして自分を責めてもいけない。ミリちゃんが目が覚めても、レンが体調を崩してしまったら元も子もないぞ?』

「あぁ。……分かっている」












瞼を閉じれば、浮かんでくる










真っ赤な血、刻まれた服







冷たい身体に、眠る様に瞳を閉じるミリの姿――












「…………ミリッ」












あぁ、まだ







手の震えが――止まらない












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