人は色違いと言う

異端者と言って嘲笑う


それでも精一杯生きているんだ












Jewel.19













一見人間よりも純粋で清らかで真っ直ぐで真っ白な思考を持つポケモンだと見られがちだが、ポケモン達の常識は意外にシビアで残酷だ。色が違うだけで、仲間の対象から外れ、敵と見なし、迫害し、嘲笑い、相手に十分な程に傷を負わせる。そう、まるで人間と同じ。人間も同様に相手を傷付ける。自分より劣っていれば嘲笑を、相手が異質だったら冷笑を。恐ろしい存在だったらそれこそ離れていく…―――これはポケモンも人間も大してさほど変わりはないのだ

今回、新たに手持ちに加わった三匹も色違いだから故に忌み嫌われた。朱色のルカリオの朱翔、金色のミロカロスの水姫、橙色のアゲハントの風彩。朱翔は能力が低く色違いな事により捨てられ、水姫は色違いで醜い姿だからと仲間に孤立させられ嘲笑され、風彩は色違いだと人間に狙われた。勿論、黒銀色のダークライの闇夜もそうだ。主な原因は自身の能力の特性だとしても、色違いだという事がより一層相手に嫌悪を抱かせてしまったのだろう


色違い、何万分の確率で出るか出ないかの貴重な存在

見方が変われば捉え方は違う

色違いである事は奇跡に近い事だと、誰かは言った








『―――――…科学では、ポケモンの構築を成す細胞の核分裂などで起こる優性遺伝子が、極稀に何らかの突然変異で劣性遺伝子が生まれてしまい、毛色等が変わってしまう事が証明されています。これは極稀で、どんな状況で突然変異してしまう理由は明確に判明されてません。ですがこの事は本当に奇跡に近い事なのです。――――…しかし、優性遺伝子…つまり本来のポケモンより劣性遺伝子、色違いと比べますと能力や実力は優性遺伝子の方より劣ってしまいます。こちらも何故能力値に影響が出てしまうかも明確な根拠はありません。ですがその色違いを、彼女は手持ち全部に従えて、それでいて圧勝しているとなれば…―――私達の理論的考えは覆させたのか、または、彼等の能力を補う彼女の技量の賜物でしょうか。盲目なのに、よくやってくれますよ、聖蝶姫は』







テレビに映るコメンテーターが、最近有名になった「盲目の聖蝶姫」の強さについて解説とコメントを述べていて、持参しただろうボードで核分裂などの説明をしていた

テレビから流れる音声を聞き、心夢眼で視せてもらったテレビの映像を見て、ミリは普段には見ない嘲笑を浮かべていた




――――…馬鹿げている。知った風に言って、貴方達は結局何も見えちゃいない




理論的根拠など、そんなもの自分達には関係ない。自分という異端な存在の前では根拠なんて罷り通れると思っていたら大間違い

仮にもし、科学者が判明した推測や事実が証明し、立証されたとしても、能力値など努力一つでどうにでもなってしまうのだ。現に朱翔は血の滲む努力によって強くなっている。勿論、他の子達も。優性や劣性など、彼等には関係ない。そうやって計算した数字で相手を決め付けてしまうと、いつか痛い目を見る事になる。数字など所詮知識に過ぎない。大事なのは、今なのだ

それに間違えてはいけないのは、ミリは何も手を下してはいない。ミリはただ、彼等を勝利に導く助言をしているだけであり、全てはポケモン達の実力によって得てきた勝利なのだ。自分が身を張って戦場に出ているとは全くもって違う。自分の為に動き、戦ってくれるのは他でもない、ポケモン達だ。だから正直、ポケモン達を差し置いて自分がこうして有名になる理由がミリにはさっぱり分からなかった















「――――…どうしたミリ、久々に顔を出したかと思ったらムスッとした顔をして」

「そーそ。らしくもねーぜ、そんな顔」

「デンジ、オーバー…」







思案に暮れ、回想に夢中なあまり、現実から身を離れていた事に気付いたミリは慌てて二人に「ごめんね、何でもないよ」と苦笑混じりに言う

ミオシティで無事にミオジムリーダーのトウガンからマインバッチを取得後、久々に友達に会いに時杜の空間移動を使ってナギサ海岸に訪れたミリ達。浜辺でミリを待っていたデンジとオーバに迎えられながら、三人は空白の時間を埋めるべく楽しく会話をしようと思っていた矢先だった。珍しく様子が違うミリに、二人は顔を見合わせミリに問う

普段ならくだらない話でも親身になって聞いてくれたりいつも笑顔だったミリの表情が、今日に限って何故か不機嫌そうにムスッとした表情をしていた。慌てて何でもないと答えるミリだったが、その表情は何処か晴れない。何かあったな、絶対何かあったな。二人は視線を合わせた






「おいおいミリちゃんやい。せっかく久々に会えたっつーのにそんな顔はないんじゃねーか?」

「何かあったんだな。聞いてやるから話してみろって」

「いやいや、そんな大した事じゃないって。二人が気にする様な事じゃないってば」

「あのなー、こういう時こそダチってもんだろ?話しぐらい聞いてやるからさ。どーせ旅している最中になんかあったんだろ?それくらい分かるっつーの」

「それに、アレだ。お前が元気じゃねーと…調子が狂う」

「二人とも…」







二人はミリが旅をして、今まさに有名真っ盛りな事を、知っていた

だから不機嫌な原因は旅先で何かあったと瞬時に察した

三人は週二ペースで会っている。前まではほぼ毎日と言っていいくらい共に過ごしていた三人だったが、己の夢を打ち明けミリに助言を貰った次の日から、二人は自分達の道に進む決意をする。そんな二人よりも先にミリは旅を出た。置いていかれた感が否めない所もあるが、けれどこうしてミリはちゃんと自分達の元へ帰ってきてくれる。自分達にもやりたい事が見つけ出せた今、今の現状に満足していた

そんな久々なのに、本当に、調子が狂う。ミリの笑顔で元気を貰っていると言ってもいいくらいの力があるミリの笑顔が無いと、どうも落ち着かない。さっさと吐けやコラ、と無言の圧力で訴える二人に、ミリは苦笑を漏らしてやれやれと頭を振った。粘り勝ちだ。二人は互いにグッチョヴと親指を立てた







「…そんな、大した事じゃないんだ。本当に本当に、大した事じゃないんだよ?」

「分かった分かった。…で?」

「…………何で、私が有名になっているんだろう、有名になるなら普通この子達の筈なのにって…思ったんだ」

「「――――――…」」







どんな暗い話が来るかと思ったら――――なんだ、その程度

目が点になる二人。ミリを見て、お互いを見合わせ、ポケモン(浜辺で遊んでいる)を見て、ミリを見て…―――ブハッ!!!!と二人は同時に噴出した







「!?」

「おまっ…!なんだよミリおまっ…!」

「ハハッ!あーなんだよミリ、そんな事だったのかよハラハラさせんなよ!てっきりもっと深刻な話かと思っちまったじゃねーの!」

「ちょ、ちょっと酷っ!笑うなんて!大した事じゃないけどなんか笑われるとおねーさんプチッときてイラッてしちゃうよ!?しちゃうよ!?」

「あーあーはいはい」






悪かった悪かった、とデンジは喉で笑いを噛み殺しながらミリの頭を叩く様に撫でる。ビクリと身体を強張らすミリに苦笑を漏らすも、しかし内心はかなり安心していた。深刻な話、てっきりストーカー被害にあっているのかと思っていが、どうやら違ってくれた様だ

にしても、なんだその悩みは。随分と面白い悩みを持っているな、とデンジは勿論オーバも同様に思った

ミリの後ろでいつもの様に腰を落ち着かせていた蒼華も、まさか自分の主がそんな事で悩んでいたとは思わなかったらしい。お前は何を言っているんだ、とばかりの目線と紐でバシバシと容赦無くミリの後頭部を叩いている。いい音だ。影の中に潜んでいた闇夜も同様に、何を今更、と影の中から頭を覗かせジトーとした視線を送っていた。ミリは二人に気付かれない様にズボッと闇夜の頭を影の中に埋めさせた。早業だった






「むー…」

「…」(バシバシバシバシッ

「いたっ、あたたたッ!蒼華ちゃんいたたたた!」

「ハハッ、ほら見ろ。スイクンも変な質問してんじゃねーよってさ」

「あ、あはー…ボールの中にいる皆も同じ事言っている気がするよ…すっごくボールが揺れているし」

「…」(バシバシバシバシッ








おもむろに拳からボールをマジックの如く出現させた三色のボール。相変わらずびっくりするオーバをさておき

ボールはミリの手から零れ落ちてもおかしくないくらいカタカタカタカタッ!と揺れていた。特に朱色のボールが。これがボールから外に出ていたら物凄い剣幕でミリの言葉を訂正せんと言わんばかりの勢いだ。少し離れて二人のポケモン達を見守っている時杜と刹那もミリの言葉を聞いていたら…反応がとても気になるところ

はは、とミリは乾いた笑いを零した






「でもおかしくない?だって活躍しているのは皆なんだよ?皆が注目されるのは嬉しい事なのに、周りの人は殆ど私の話ばかり……自惚れている気持ちは全くこれっぽちもないんだけど、皆が認められていないって考えちゃうと…苦しくて、さ」

「…そりゃ、お前……なぁ?」

「あぁ……」

「聖蝶姫っていう名前はメリッサが付けた名前がまさかここまで広まるなんて思わなかったし。異名付けるなら普通蒼華とか闇夜とかさー、付ける相手間違えてるよー」

「(ポケモンよりお前のその容姿に注目しちまうのはしょうがねーよ)」

「(つーか鈍感、鈍感過ぎる)」

「それに皆があってこその私なのに、皆にすっごく失礼な気がするんだよ」

「…」(バシバシバシバシッ!

「そのスイクンすっごく否定してんぞ。つーかボールの揺れもハンパねぇな」







紐の叩くバシバシバシバシッ!とボールの揺れがカタカタカタカタッ!と忙しなく音が響いている

えー、とぼやくミリに二人は笑う






「ミリ、気持ちは分かるけどさ、それくらいにしとけって。これ以上言うとそいつらに怒られちまうぜ?」

「既に手遅れな気がするけどな」

「…」(バシバシッ

「えー…だって、」

「だってもなにも、そいつらはお前の為に戦ってんだぜ?だったら遠慮無くその気持ちを受け止めとけよ」

「そもそもテレビなんて気にすんな。アイツらは勝手に言わせときゃいいだろ。…らしくもねぇ、お前はお前の道を行けばいいだろ」

「…」(ペチン

「…そっか、そうだね」








そうだ、彼等は彼等で言わせておけばいい。今更テレビ如きで何をうだうだ考えていたんだか。彼等の評価なんてもうどうでもいいや!とミリは心の中で小さく笑う

今までそうだったから。そうやって気にしないで自分の道に進んでいた。ただ違うのはその評価の矛先がポケモン達なのに、何故か自分だということ。少々気に食わないところもあるが、この子達が気にしなければもう気にしないでおこう。既に揺れは収まったボール、紐で叩かなくなった蒼華をそれぞれ撫でた






「それに、スイクンとセレビィとミュウツーのコンビで【三強】って呼ばれてるんだ、ちゃんと周りに認められてんだぜ?」

「え(゜゜ )」

「え」

「………何、ミリ…お前、知らなかったのか?」

「……………そういえばそんな名前をよく聞く様な…」

「あぁ、そうか、知らなかったんだな。いや、違うな、興味なかったんだな」

「…」(ベシッ

「あ、あはー。精進します」








三人は笑った







(大切な仲間だから)


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