「…………遅い」

「…遅過ぎる、な」





男女別々に別れて数時間


一向に自分達の元へ帰ってこない二人






「女同士の華を咲かしているのにはかなり時間経ってんじゃねーか?」

「…リランにはあまり時間を掛けさせるなと言っておいた筈だが…」






心配になったフィンはベンチから立ち上がる。レンも背も垂れから身体を起こし、フィンの隣りに出る

フィンは袖を引き腕時計を確認する。やはり時刻はかなり過ぎていた。レンもポケギアを取り出して時間を確認し、そして眉を潜める


どう考えても遅過ぎる






「…やれやれ、困ったものだ。リランの話は長いからな、きっと彼女も大変だろうに」

「フィン、一つ聞く」

「何だい?」

「どうして俺とミリを引き離した?」






抱き締めるか弱き存在を引き離され、意図も簡単に連れ去られたミリ

手を伸ばしてもフィンが邪魔をしてそれは叶わず、ミリはリランに引っ張られるままに群衆の中へ消えて行く…

……気分は最悪だった






「それはもちろん、君達を引き離す為だ」

「……何故だ」

「君達の気持ちを知る為だ」

「…お前らには、関係ねーだろうが」

「あぁ、確かに関係ない。それはさっきも言った通りだ」

「だったらそれこそ…」

「他人だからこそ、聞ける話もあるんじゃないのか」






他人は、他人

他人だからこそ、自分達と無関係だからこそ、己の心をさらけ出せれるのではないか






「もし、彼女の気持ちを知りたければリランに聞けばいい。リランは恋沙汰には鋭いからな、良い話が聞けるんじゃないか?」

「…俺は別にそんなのには興味は…」

「フフッ、そうか。余計な世話だったみたいだな」






もう一度腕時計で時刻を確認し、「そろそろ二人と再会しよう」とレンに振り返るフィン。フィンの言葉に頷くレンは、持っているポケギアでミリに電話すべくアドレス帳を開こうとした



その時だった






「ねぇ…さっきのヤバくない?」

「ちょっとヤバかったよね…」





不意に聞こえる女性二人の声

振り返るとそこには心配そうに自分達の隣りを通り過ぎ様としていた






「あの人達ってさっきそこでポケモンバトルしていた綺麗な人達だよね…?何であんな人通りが少ない所でポケモンバトルしてるのかしら」

「てかヤバいわよアレ!ポケモンバトルはあの人が有利だとしても相手が悪いって!どうして女二人を相手にあんな人数で囲んでいるのよ!」

「ねぇ…アレ本当にヤバくない?…【聖燐の舞姫】さんだとしてもあんな人数はそれこそ最悪な事になっちゃうんじゃない…?」

「それに彼女、腕を庇っていたわよね…?ヤバいってアレ!ジュンサーさんに知らせた方がいいよね!?」







二人は血相を変えて駆け出した






* * * * * *











場所は変わって、



此所は人気の少ない自然公園








「白亜、ブースターに進化!レアコイルに向かってかえんほうしゃ!黒恋、ゴローンに向かってアイアンテール!」

「「ブイ!」」

「させねぇよ!レアコイル、でんじは!ブースターの動きを封じてやれ!…もちろん、トレーナーの動きもな!」

「ゴローン、まもる!それからがんせきふうじ!…トレーナーを逃がすなよ!」

「ッ…!」

「「ブイ!?」」

「ははっ!お前らひでぇことするなァ!…ゴルバット、二匹ごとエアカッター!もちろんトレーナーごとな!」

「ッ!」






レアコイルのでんじはが白亜に向かう。白亜は指示で避けるも、計ったのかでんじはは私の身体に直撃してしまう

痺れで片膝を付く私に容赦無く岩が振り落とされる。黒恋はなんとか躱せたが、痺れで動けない私は身を固める。岩は私の回りに落ち、完璧私は逃げられなくなった

こちらに慌てて駆け寄る白亜と黒恋に追い討ちをかける様に、ゴルバットのエアカッターが炸裂する。見えない風の刃が二匹を襲い、二匹は叫びを上げながら吹き飛ばされる。風の刃は無慈悲に私にも襲いかかり、黒いドレスを無惨にも切り裂いていく。顔を手で防御するも、腕やら肩やらが風の刃で切れ、痛々しく赤い鮮血が噴く

痛みに顔をしかめる私に、三人のチンピラはニヤニヤした笑みでこちらを見る






「おいおい、お前こそゴルバットのソレはやり過ぎじゃねーのか?」

「んだよ、お前こそ痺れさせた時点で鬼畜だろーが。ま、お蔭で必中出来たから良かったぜ」

「なぁ、それは俺に言う台詞だろ?俺のがんせきふうじが見事相手の逃げ場を失わせたんだからな」

「おー、サンキューな相棒!」






若い成人に近い歳の男だろうか

ルール違反だというのにも関わらず、どうして平然とこんな事が出来るのだろうか





「聖燐の舞姫!」

「リランさん、貴女は動かないで」





先程彼らが私達に絡んで来た時、リランはすぐさま私の手を引き去ろうとした

しかしそれが逆に気を良くしたのか一人のチンピラがリランの腕を強く握り、また抵抗しようとしたリランの頬を叩いた。地面に叩き付けられたリランは足を捻ったらしく動けなかった。リランを庇った私にポケモンバトルを申し込んだチンピラ達だったが…まさかこんな事になるとは

私が動けばリランに全て当たってしまう。彼女は私の後ろにいる。それを分かって奴等は私めがけて攻撃を命ずる


動きたくても動けない

動こうにも痺れて動けない






「あーあー、こんなに血ィ流しちまって」






一人のチンピラが私に近付いて来た。睨み上げる私にニヤリと笑うと、左手首を取る

そこは昨日レンに強く握られた部分でもあった。掴まれた事でズキンと痛みが走り、私は声を荒げそうになった

腕から出る血はダクダクと流れていき、腕を通り下に落ちる。地面に小さく赤い血の跡がポツポツと滴り落ちる






「かの有名な聖燐の舞姫ちゃんでも、三人にかかればこんなもんか?」

「…ッァア!」






ギュッと手首を握られる

痛みがまた強く響き、私はあまりの痛みに小さく声を荒げる

身体は痺れて自由が聞かないし、ドレスは岩の間に挟まれ動けない。……しかも少量かと思っていた血は結構流れているらしく、肩は真っ赤で腕も真っ赤だ。地面にはもう血の池に近い状態だ。後ろではリランが顔を真っ青になる姿が見えた






「ブイィィイイ!!」

「ブイーーーッ!」






エアカッターで吹き飛ばされた白亜と黒恋が凄い勢いで駆け出し、私の手を掴むチンピラの腹目掛けてとっしんを決め込む

チンピラは無様にも叫びを上げ、ズザササーっとスライディングを決める。他のチンピラとポケモン達が慌てて駆け寄る中、白亜と黒恋は私に駆け寄った





「ブイ!」

「私は大丈夫。白亜、私に近付かない方が…あー、ほらみなよ真っ白が真っ赤になっちゃったじゃん」

「ブイブイ!」

「本当に大丈夫。私は平気よ」






心配そうに、涙目になりながら私を見上げる二匹に微笑みながら頭を撫でる

正直、さっきのは助かった

左手首がズキズキする。切られた場所はジクジクして血が流れていくのが分かる。まだ倒れないのは自分の力のお蔭だろうか。でも、今その力を使うと視界が見えなくなる恐れが…

白亜と黒恋も疲労で疲れている。エアカッターで傷ついている。…最悪、時杜の空間移動でどうにかするしか…






「リランさん、無事ですか?」

「…それはあなたに返したいわ。どうしてそんなにボロボロなのに平然としていられるか不思議だわ」

「…リランさん、キレイハナの他に手持ちは?」

「…今日に限って持っていないわ。まさかこんな事になるとは思わなかったから…」

「分かりました」

「テメェよくもやってくれたな!」






先程とっしんで吹き飛ばされたチンピラが凄い形相でこちらに叫ぶ。腹を擦る所を見ると、かなり効いたみたいだ

ポケモン達もチンピラ達も本気を出すみたいだ。この調子だとポケモン以外にもトレーナーが殴り掛かって来るに違いない

恐怖で震え、チンピラを睨み付けるリランの手を私はやんわりと掴む








「…大丈夫です、私達が必ず…貴女を守ります」








なのでどうかお願い


その瞳を、少しの間だけ閉じて欲しい








「…お願い、出来ますね?」

「わ、分かったわ…」

「良い子」






とにかく、回りの人達が来る前に




私が、倒れる前に












「…さて、どうしましょうか」







私は水色と赤色のボールを取り出した









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