リランとミリが走り去って行った場所は、とても重い空気が立ち込めていた





「「…………」」





近くにあるベンチに座るフィンに、背を向けベンチの背も垂れに腕を組み立つレンの姿

先程からずっとこの状態のまま、数分が過ぎている。二人の…いや、レンの近寄れないオーラやら雰囲気やらでポケモンもトレーナーもそこだけ避ける様に通り過ぎる

イケメン二人が、王子様の恰好をした二人が、一体そこで何やってんだろうと思いたくなる光景だ





「…まさか君がこの地方にいるとは思わなかったな」

「……」





フィンの呟きに、レンは返事を返さない





「噂は耳にしている。…が、ピタリと姿を消したと聞いてもいた」

「………」

「…まさかウォッチャーになっていなんて、回りの人が聞いたらどう反応するんだろうな」

「………」





フィンの言葉に、反応を返さないレン

気にした様子も無く、フィンはクスリと笑う。懐からある写真を取り出し、それをレンに見せる様に上に向ける

そこに写っていたのは、ミリだった





「まさか彼女と行動していたのにも驚いた」

「………」

「君は人とは交流は多くても、こうして誰かと行動を共にする事なんて無かったはずだ。…いや、むしろ拒んでいたらしいな。一匹狼だった君が、どういった風の吹き回しだ?」

「………」

「……まぁ、君が誰と一緒にいようが私には構わないが」

「……」





未だに無反応のレンに溜め息を付くフィン

持っている写真を懐に戻そうした時…黒い腕と白い手がそれを遮り、フィンの手から簡単に写真を奪う

目を張って写真が無くなった手を見て、視線をレンに向ける。レンの手には奪われた写真がそこにはあった

フン、と此所で初めてレンはフィンに反応を返す






「大切な奴がいる中でこれを持ってるとヤバいんじゃないのか?」

「…気付かれていたか」

「俺を舐めるな。お前があの女を見る色を見れば一目瞭然だ」





観察力が鋭いレンの前では、フィンとリランの関係もすぐに見抜いてしまう

気付いたのは多分バトルの最中だろうか






「一目瞭然なら、それは君も同じだろ?」

「………」

「私とリランは君を見掛けた瞬間に見抜いた。そして君達に声を掛けた。……そういったモノを見る目はそれなりにあるからな、吹っ掛けてみれば想像通り」

「……」

「私を敵と見なした君はモノを盗られるまいと牙を向ける狼そのもの」

「……黙れ」

「顔は冷静を装っても瞳は嘘をつけない。…彼女を見る君の瞳はそう、まるで…」

「黙れッ!!」







バサバサバサ――





レンの叫びが木霊する


叫びに驚きポッポの大群が空を飛び、風がバサバサと樹々を揺らす

レンのピジョンブラッドの瞳は怒りに燃え上がり、フィンを見下ろす。フィンは黙ってレンの瞳を見返し、一つ息を吐いて座り直す





「君が彼女をどう思っているかは、私達には関係無い」

「……」

「…ただ、一つ言えるのは…あの時も言った通りだ。そんなにカリカリしていると、本当にお前の元から去って行っちまうぜ」






フィンがレンに言った、あの台詞


その台詞は単にレンを挑発させる為では無かった。全てはレンから感じた…最悪な事にならないように、との忠告に過ぎない






「……させねぇよ、そんな事。もう、懲り懲りだ、理由は何であれアイツが…また俺の元を去って行くなんて」






小さくボソリと呟くレン

聞こえるにはあまりにも小さ過ぎて、風が声を書き消してしまう程の小さい声だった

その声はギリギリフィンの耳に届くか届かないか位で――フィンは蒼空を仰ぎ、太陽の光で目を細めた






「…それ以前に








彼女が、人を、君を信じていない時点でそれは難しい話だろうな」








レンの瞳が、悲しげに歪んだ






(突き付けられた、逃げていた真実)



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