「こちらミナキ。マツバ、お前の言う通りレンとミリ姫が居たぞ。…あぁ、今浜辺でリアル鬼ごっこをしているぜ。…あんな必死そうなレンは始めてみたぜ。もちろんスイクン達もいるぞ。相変わらず美しい…二匹もいるからもっと美しさが倍増だ…!……おおっと、スイクン達の美しさに見とれていたら見失ってしまった!すまないマツバ。だがあの二人の事だからなんとかなるだろ?気に食わんがな。…ははっ、見守るこっちの身にもなって欲しいもんだな。よし、私はとりあえずスイクン達と再会をしてその後あの二人を回収に当たるんでな。また後で会おうマツバ」


《あ、ミナキさんだ》

「「ブイー」」





――――――――
――――――
―――









潮の香りが心地よく鼻をくすぐり、岩に打ち上げる波音がメロディーとして耳に響く

海風が優しくそよぎ、草木や木々の身体を揺らす







「……よし、こんなもんか」






岩壁に背を預けた状態で私とレンは二人並んで座っていた

先程強い力で握り締められ赤い手型がクッキリ残った私の手首を、器用にも巻き付かれた包帯で隠される。既に血液の急な流れで痺れていた手は元に戻っていた。これならなんとか目立つ事は無いに越した事はないけど、逆に包帯が目立ってしまう

ありがとう、そうレンに言って私は手を退かし、もう片方の手で触れる。少し触っただけでズキッと痛みが走り、私はつい「うっ」と声を漏らしてしまう






「っ……」

「…悪い、ミリ。痛いよな」

「平気、って言いたいと頃だけど……うん、痛いね」






無意識で、しかもかなり力を込められた手はズキズキと痛みが波となって押し寄せる

握ったり開いたりする仕草はなんとか出来るけど(しかし刺激が…)、手首自体触っちゃうと…めっちゃくちゃ痛い(チクショウ男の力って加減を知らないんだから←





「…ミリ、少し痛むぞ」





いきなりそんな事を言い出したレンは、右手首にあった黒いリストバンドを取り外した。私の手を傷に触れない様に取り、その黒いリストバンドを私にはめだした

もちろん痛みは来る訳で、傷に若干の圧力もかかるので私は痛みに眉を顰めた。リストバンドはすっぽりと包帯に被さり、包帯の姿は無くなった

私は自分の腕につけられたリストバンドに触れる

多少の刺激は来るが、さっきみたいな強烈な痛み程感じる事は無くなった。少し温かいのはレンの温もりが残っていて、私はレンを見上げた






「それをしとけばなんとか痛みは軽減される筈だ」

「…なるほど、ギプスの作用を利用したんだね?」

「あぁ、そうだ。しないよりはマシになると思うぜ」

「そうだね。…ありがとう」





これなら包帯がある事に周りには気付かれないし、白亜と黒恋を抱き上げた時に多少の刺激はあっても堪えられる

私はよっこいしょっと立ち上がる(ババ臭いだなんて知らない)。あれから時間は経っているので足のふらつきは収まってくれて、いつでも走れる状態だ。レンも立ち上がり、私の隣りに並ぶ

見上げた空は、もうじきオレンジ色になろうとしていた






「此所、眺めが綺麗だな」

「そうだね」






周りなんて気にしていなかったから、改めて此所から見える景色を眺めて見ると、本当に綺麗だった。灯台があって、船があって、ポケモン達が仲良く泳いでいる姿がちらほらあった

その時、私の手が何かに包まれた感覚を覚える。――視線を下に向けて見れば、その正体はレンの手で、レンの男らしい手が私の手を握っていた。視線を上げてレンを見ると、レンは海の先を見つめていた。私はしばらくレンを見つめた後、視線を海へと戻した

伝わる感情は「安心」の一文字だった










「どうして勝手に居なくなった!?居なくなるならまだしもどうして勝手にアドレスを消しやがった!?」





「…どうして勝手に、俺の前から消えていったんだよ…」











「(分からない…)」







取り乱していた、レン

あの時のレンは、尋常じゃなかった


震えていた、私を握り締める手

消えてしまうのを拒む様に、消えてしまうのを恐れる様に





「レン」






人には誰しも闇がある


レンにはレンの、闇がある







「あの時シオンタウンで言った台詞……結局レンを悲しませちゃったね」

「……そう、だな」






闇は闇のまま、関与はしてはいけない

その人の闇を膨れさせてもいけない

その人を闇に飲み込ませてもいけない








「私にも、何かあったら言って欲しい。…私も結局、レンに悪い事しちゃったしね」

「…黙って消えなければ、それだけでいい。…"仲間"として、黙って消えて心配するのは当たり前だろ?」

「…そうだったね」







目的がただ一緒なだけの仲間に過ぎないけど、それでも立派な仲間で、大切な仲間

キュッと握る力を強めれば、答える様に強められた力。温かい温もりがまた、じんわりと広がった







「つーかむしろ、無茶な行動を少しは謹んでくれ頼むから」

「………ん?ちょ、私がいつ無茶な行動を起こしたんだって言うのさ!」

「あ?どの口がその事を言うんだ?まさか忘れたとは言わせねーぜ?よーし、今からその口を貸せ。塞いでやるから」

「いやいやいやいや!ちょ、さっきのシリアス雰囲気が台無し!そしてまさかの上から目線!…だぁあああ!逃げるにも手が離れなくて逃げれない!」

「ははっ、観念するんだな






…俺を此所まで焦らせたんだ。覚悟しとけよ」

「Σ!!!!」





ニヤリと不敵に笑うレンの顔が、いつものノリで近付いて来たかと思ったら……チュッ、と自分の頬に何かのリップ音が耳の中に入って来た

頬に感じた温もりにピキーンと私は固まり、耳に聞こえたリップ音にもピキーンと固まった。仕掛けて来た当の本人は不敵な笑みで、喉の奥で笑いを堪える様に私を見下ろしていた

流石に私も馬鹿じゃないので……今レンが私に何をしたかなんて、すぐに理解をした。羞恥で顔が真っ赤になり、私はキs(あぁあああ!)された場所を手で押さえた(あぁあああちょっとぉおおお!






「本当は口でも構わなかったが、今回はそこにしといたからな」

「〜〜〜〜〜!!!////」

「さーて、皆をさっさと回収して嘘を吐きやがったマツバでもフルボッコでもしてやるか」






何食わぬ顔で笑ったレンは、これこそ何食わぬ顔&何事も無かったかの様に私の手を引いて歩きだした。握られた手を離そうとはしないレンに、私の顔はきっと絶対真っ赤に違いない


うん、とりあえず


彼は懲りている様で懲りてなかった!








「(まぁ、無事前の様な関係に戻れたから、良かったかな……)」








頬が、あっつい






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