人間は妄想する生き物だ


妄想とは一般的に言われるのは、二次元で言うと"好きな事を好きなだけ楽しみながら想像するもの"と言われている。それは私もそうで、よく妄想してはニヤニヤしていたりしていた(怪しい

しかし、本当の意味はまた違う

妄想は、"ある仮定を自分で勝手に決め込んでしまう事"を言う。例え話をすると、「アイツは俺がいるのにも関わらず夜勝手に出歩いて絶対に男と会っている」と言って、実際に違うのにそう決め込んでしまうもの。その妄想から人は殺人などに手を染めてしまう出来事が起きてしまう場合がある









「……………」





レンの瞳は、まさかそんな事をしてしまったなんて、という驚きと信じられないと言っている。目を張ってこちらを見るレンに、私は視線を逸らす

離して、と小さく呟くとレンはゆっくりと手首から手を離す。既に若干青くなりつつあった私の手首は、やっぱりレンの手型がクッキリと赤く写っていた。圧迫から解放された血液が急に活発に動き出したので、ジンジン痺れ始める。掴まれた手を擦りながら、私は数歩後ろに下がる






「やっぱり覚えていなかったみたいだね」

「まさか…俺は…」

「あぁ、安心して。……その為に、タライを落としたから」

「……」






伏せた事で横髪が垂れ下がり、視界が黒の髪で覆われる。髪で遮られた事で、レンの姿が視界から居なくなる

クシャッ、と聞こえたのはレンが頭を抱え、前髪を握り締めた音。それから後ろから深い息を吐く音が、ゆっくりと聞こえた






「……私は、あの後すぐに逃げた。頭が混乱していたし、負けず嫌いな性格が災いして、意地になっていた。……しばらく離れて、気持ちを沈め様と、時が解決してくれるかと思っていた。でも……」

「……」

「…さっきのレン…怖かった」

「……っ」





何とも言えない沈黙が、襲う

岩壁に打ち上げられる海の波の音が、此所で始めて耳に響く。心地よい風が吹き、私達の髪を弄ぶ

髪が靡き、フワッと視界が鮮明になる。チラリと横を見てレンの様子を伺う

表情は変わらないレン

けど、瞳は嘘はつかなかった。レンは後悔をしていて、今にも泣きそうに私は見えた






「(なんか、後味悪い…)」






被害者は私、なはず

だけどこんな姿を見せられると、怒りが嫌でも失せてしまう。逆に私が悪い様に思えてしょうがないのはどうして。いや、むしろ私が悪役みたいってか悪女みたいじゃないか!←



はぁ…もういいや







「そろそろ帰る時間帯になったね。……皆を回収して、マツバさん家に行こうっか。私、最後に家政婦さんのお手伝いしなくちゃいけないし」






このまま居ても(私が)いたたまれないので(私がね!)、私は切り出す。太陽の位置を見て考えたらそろそろ帰る時間帯だ

促す様にレンに言い、歩き出そうとした時だった



――――私は、レンに後ろから抱き締められた






「っ……」






逞しい腕が首に回され、首元に頭を埋める形で抱き締められた

横を向けば白銀の髪が太陽の光で綺麗に光り、フワッとレンの香りが鼻をくすぐった。いきなり抱き締められた事で身体が硬直し、しかもレンの力は強いので動くにも動けなくて






「……レン…」

「……ごめんな」





ギュッと一際強く、それでも優しく力を込められる

私はゆるゆると手を動かし、レンの腕に触れる。クッキリと後がついた手が痛々しく、その手をレンの手が優しく触れる

触れた手はキュッと握り締められ、温もりが包み込む。伝わる感情は説明しなくても、既に分かりきっていた。私も答える様にキュッと握り締めた






「痛かったな、手」

「…痛いって、言ったのにね」

「…そうだったな…」

「レン、」

「……」

「私の方こそ…ごめんね」

「お前は何も、悪くない」

「……………。コガネシティにある喫茶店、あそこ私結構好きなんだ。…一緒に行ってくれるよね?」

「あぁ、勿論」






指と指が絡み合い、硬く握り締められたお互いの手

優しく私を包み込むその温かさにとっても心が安らかになり、とっても居心地が良くて――そんな気持ちを隠す様に、私はもう片方の手を伸ばしレンの頭を撫でた

白銀の髪は柔らかくて、温かくて、ゆっくりゆっくり撫でていくとまたキュッと抱き締められた。まるで迷子になった子供が親を見つけて泣きすがる姿に見えて、どっちが年上なのか分からないと思いながら、私の口元にはいつの間にか微笑を浮かばせるのだった



















「もう、大切なものを…手放して、たまるかよ」









レンの呟きは海風と波風の音によって書き消され、私の耳には届かなかった






(リアル鬼ごっこ、終了)



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