鋭い視線を感じる


確実に怒っているのが分かる




キリキリと、握られた手首が痛い


しかし視線は逸らし黙ったままの私



それがレンの怒りにまた触れる

それを知ってまだ視線を上げない私






……さて、どう逃げようか










「…痛いんだけど。手が」






逃がさないとばかりに掴まれた手首が、キリキリと悲鳴を上げる。普通なら悲鳴を上げたい所だけど、ここは我慢

手を振り払おうとしても、私の言った言葉を無視してなお私の手首を掴むレン

フン、とレンが鼻で笑った







「ざけんな。手離したらお前、逃げんだろ?」

「よーく分かっているじゃん」

「フッ、そんなガクガクした足でどうやって俺から逃げるつもりだ?」

「私に、逃げられないものはないよ」







視線を逸らしたまま、フッと笑ってやる。その私の行動にまたレンの怒りに触れる






「そんな事はどうだっていい。…お前には、色々と聞きたい事があるしな」

「黙秘権を使います」

「情報公開を求める」

「…遊んでいるの?」

「言い出したのはお前だろ」






今の台詞でピッキンと来たのか、私の手首を掴んでいない開いている手を動かし、私の顎を掴んで無理矢理顔を合わせられた

久々に見たレンの表情は完璧に怒っていて、瞳は鋭く光る。ピジョンブラッドの瞳が私を捕らえて離さない







「…一つ、聞く」

「………」

「何故、居なくなった?」

「………」






問うレンの瞳はまっすぐで、真剣そのもの。その曇り無き瞳から見て…どうやらあの時の事は覚えていないみたい

良いんだか悪いんだか…。あー、女として複雑の様なムカつく様な………←

視線を落として溜め息をつこうとするが、グイッとまた視線を合わせ様とするレン。その行為が何処か違和感を感じさせる(そう、まるで焦っている様な)。でも二回もレンの顔は見れなかったので、視線だけを逸らした






「……質問を変える」

「……」

「あのタライは何だ?」

「落とした」

「…………………」






つい正直に口から出た言葉に、レンが引きつった笑みを見せたのが視界の隅で分かった

深く深呼吸して、そしてギロッと私を睨み付けまた強く握り締めた






「…(痛っ…)」

「お前、自分が何をしたのか分かってんのか!?」

「っ」

「お前が居なくなったあの日頭に意味わかんねーたんこぶがあるしエルレイド達は妙に冷たくなったし連絡入れようともアドレス消えてるしジョーイさんに聞いても見てないって言うしカントー捜しても消息がつかねぇ!ジムに言っても誰もお前を知らねぇって言うし誰もお前の存在を知らないっていう様に言ってきた!もしかしたらと思ってジョウトに足を踏み入れてみれば予想通りお前の噂ばかりだ!見つかるかと思ったら全然見つかんねーし、周りのトレーナー共にも聞いても見た姿は何処にもいない。…いない筈だよな、見事な変装だったんだからな!その変装なら誰だってあの聖燐の舞姫だと気付く訳がない!」

「………ッ(痛い痛い痛い!」






キリキリ…

いや、そんな可愛い程の力の込めようなんかじゃない。もう骨が鳴ってもいいくらい、痛い。レンが言葉を荒げるたびに痛みが膨れ上がる私の手首は、強い圧迫のせいで白くなっている。この調子でいけば、手が青くなってレンの手型が残ってしまう

痛みのせいで、あまりレンの言葉が耳に入らない。とりあえずいい加減手首を離して欲しい(じゃないと手首が死ぬ






「どうして勝手に居なくなった!?居なくなるならまだしもどうして勝手にアドレスを消しやがった!?」

「っ、ちょっと…痛いって…」

「口答えすんな!今質問しているのは俺だ!!」

「ッ!」






あぁ、今レンに何を言っても止まってくれない

普段から冷静だったレンが、見境が無くなって意地でも私に問おうとしている


今のレンは誰からも見ても怖いから、私でもレンの瞳を見る事が出来ない。だから今レンがどんな表情かは、分からない。キリキリと手首を握ってくるレンから伝わる感情はまさに怒りの感情――――






「ちょ、本当に痛いんだけど…!」

「どうして!」

「っ」

「…どうして勝手に、俺の前から消えていったんだよ…」

「…!」






急に弱々しくなったレンの声色。手から伝わる感情は先程の激しい怒りとは打って変わって…哀しみ、不安、そして恐怖を感じ取った

急にそんな感情を感じ取りもちろんこっちは驚く訳で、逸らしていた目線を恐る恐るレンの方に向けた

私はここで初めて気付く



今にもレンが、泣きそうなくらい恍惚とした光を瞳に宿していたのを








「……やっと、目を合わせてくれた」

「レン…」

「やっと、俺の目を見て呼んでくれた」

「……」






安堵の溜め息を零し、くしゃりと笑うレン

そこで私は自分の手首を掴む手が、何処か震えているのにも気付いた






「(どうして…?)」






それからレンは顎を掴んでいた手を退けて、弱々しく私の頬に触った

まるで、そう、存在を確かめる様に






「……一通り怒ったからこっちはスッキリした。…が、お前の話は聞いていない」

「……」

「頼む。…答えてくれ」






どうしてこの人は


こんなにも、必死になっているの?






「…一か月前、私がカントー地方のジムバッチを制覇したあの日」

「………」

「…居酒屋に行った事は、覚えている?」

「あぁ」

「そう。…………なら、その後酒の飲み過ぎで私を襲った事は覚えてる?」

「………!!?」









レンの瞳が驚愕の色に染まった






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