私は自分で足が速いと思っている


それは自分に宿る力がそうさせて、なおかつ様々な世界に行った事により鍛えあげられ、しかも足がよりもっと速くなる方法も知っている。正直な所、この力を組み合わせれば駿足と言われる蒼華とスイクンと同じぐらいな速さで走る事が可能だ。他にも使用方法は様々で、空を蹴ったり宙を蹴ったり壁を蹴ったり垂直に立ったり水面を歩けたり結構色々出来ちゃったりする。元々走るのは好きな方で、力を使わずに走る場合でも私は平均より速いと自覚している






「はぁ、はぁ……!!」






しかし、今私には己に宿る力を足に持っていかせる余裕はない。今その力は全集中をかけて、もう見えないと言ってもおかしくない瞳に注ぎ込まれている。なのでなんとか視力は通常まで見える様にはなったけど、そのせいで私の身体能力はガクッと落ちてしまうはめになった

…いや、本来の私自身の能力に戻ったと言った方が良いかもしれない

元々私は足が速くても、持久力が無い。つまり短距離型のタイプで、長距離は苦手だ。体力はあるにはあるけど、集中が切れると嘘の様に無くなってしまう。力のお蔭でそれは克服され、足が速くしかも疲れを知らず、長く走っても多少疲れても全然平気だった。しかし、今回は全くその逆で……浜辺で、しかもブーツで走る事で足は取られ、全力疾走も長い時間走り続ければ疲れはピークに達する訳で





「き、キツい…!はぁ…!ど、どんだけだよ…!も、もう駄目……!!」





がむしゃらに走っていたらいつの間にか浜辺からかなり離れ、気付いたら崖の岩場近くまで来ていた。私は大きな岩に隠れる様に避難を忘れずに、岩に手を当て息を整える

久々の全力疾走で、足がガクガクして力が入らない。ズルズルと腰を降ろし、座り込む(あぁ、座ったら緊張が抜けてもう走れなくなってしまう…)。力が無くなったお蔭で、普通なら簡単にレンから逃げ出せたというのに(いや、元々彼は速かった)(てか速過ぎだ)(不覚だった)。あぁ、もう駄目だ動けない。足がまるで棒の様だ

なんとか逃げ切れても、見つかったら絶対に逃げれずに捕まってしまうのは目に見えていた事で、私はもう溜め息しか出て来なかった






「(一か月、か…)」






あんな事件(ふぉぉぉ!)が起きて一週間が経ってジョウトに行ってから、きっと丁度一か月が経ったんじゃないかと思う

久々に見たレンは、やっぱり変わらなくて、憎たらしい程元気で(←)……一度目が合ってもやっぱり直視が出来ないかもしれない。てか直視しろって方が無理だ

一か月経っても、許してなんかいない

状況がなんであれ、許してたまるもんですかチクショウ。乙女の心を踏みにじりやがってバーロゥ←←






「(よし、とりあえず皆を回収してアザギからさっさと帰って逃げよう。まだ鬼ごっこは終わっていないしね!)」






足を擦って息を整えて約数分。なんとか足にも感覚が戻ってきた。ゆっくりと立ち上がるが、まだ足が言う事を聞かない。けど走れない事は無いので大丈夫だろう

今頃皆は何してんだろう。走っている最中視界に見た時は仲良く遊んでいたから(チクショウ助けろ特に蒼華←)、今から行けばなんとか逃げれるはず






足を動かし、さぁ行こうぜ!と意気込みを入れようとした時、何かがこちらにやってくる足音が聞こえ、気配を感じた。確実にこちらにやってくる存在に慌てて腕輪に目を落とせばやっぱり淡い光が光っていた

ヤバい、そう瞬時に感じ取り、震える足を頑張って動かそうとした時にはもう遅く、岩の後ろに現れたソレは私の腕を掴み、強い力で私を押さえ付けた。簡単に岩に押しつけられ、若干背中が痛くて逃がさないとばかりに掴まれた手は普通に痛い

それでも逃げようともがいてみても私の手を掴むソレはピクリとも動かない。私は睨む様に――レンを見上げた






「残念だったな。…お遊びはこれまでだ」








ニヤリと歪んだ笑みに近い笑みを浮かべるレン(悪人ズラとも言える←)に、もし力があったらボッコボコにしてやりたい気分だ









「…お遊び?何の事だろうね」








負けず嫌いな私はレンを睨み上げながら挑戦的な笑みを浮かばせた…が、すぐにフイッと視線を逸らす

やっぱり見上げてみても首から上は見る事が出来なく、それがレンの怒りに触れた様で雰囲気が変わったのが分かった









「……いい加減にしろ」








ギュッと、強く握り締められた






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