力が大事、力が全て

力が無ければ何も始まらない


今は、守る為に力が欲しい

大切な人を、守る力を







Jewel.14













私にとって力は全てだ。力が無ければ何も守れないし、力が無ければこの弱肉強食の世界を乗り切る事など出来やしない。強くなければ自分の存在さえも認めてくれない。この世界を生き抜くには、力しかない。だから私にとって力は全て。力が無ければ破壊も想像も何も生まれない

正直に言わせてもらおう。私は、はっきり言って人間が大っ嫌いだ

人間は勝手で傲慢で醜悪な奴等だ。勝手に命を造り出したと思いきや、簡単に手放す。神でも何でもない奴等は簡単に命を増やしていき、命を捨て、命を殺してしまう。そう、理想を掲げたモノが出来上がらなかったと分かれば、すぐに奴等は斬り捨てる。呆気なく、淡々と。己の目標の為には手段を選ばないその傲慢さは憤りを、そして人間が見せる表には無い裏の顔、取り巻く波動にはつくづく吐き気がする

嗚呼、気持ち悪い、嗚呼、気色悪い、嗚呼、醜い、嗚呼、憐れ、嗚呼――――――殺してやりたい

私を捨てた奴を、私を侮辱した奴等を――――嗚呼、この己の内に宿る怒りは到底推し量る事が出来ないだろう





人間も人間なら、ポケモンもポケモンだ



ポケモン―――どうやら人間共は我々の事を魔獣ではなくポケモンと呼んでいるらしいが、まぁいいだろう。所詮奴等も同じなのだ、人間と。奴等も自分より力が勝っていると分かれば優越感に浸り、我がものの顔で暴挙を振るう。自分が強い、自分が優秀だと示し付けて

嗚呼、なんて滑稽だろう。結局そいつらは力の差を思い知らせてやらないとそのちっぽけな脳味噌に焼き付けず何時までたっても学習などしない浅はかな奴等だ

人間も、ポケモンも、私は嫌いだ







「―――――…なんだよ、コイツ…固体値も能力値も全然ダメダメの、クズじゃねーか!んだよ、チッ…失敗作はお呼びじゃねーんだよ。俺が欲しいのはVとUなんだよ!」






キッカケなど、とうの昔

卵から孵り生まれたばかりの私に、何か不思議な物体を打ち込みながらデカい画面と私を見較べた人間は、私が他に生まれた同胞と劣っていると分かれば大きく舌打ちをした。その舌打ちは嫌でも耳に残っている

あの記憶は私にとって忌々しい記憶であり、過去である

初めて見た世界と卵の中から期待溢れていた世界が、人間の言動によって全てが崩れ去ったあの感覚を、今でも覚えている

勿論、あの言葉も






「しかも、なんだよその身体……まるで、血の色みてーじゃねぇか―――気色ワリィ」







――――…色違い

私の身体は同胞の青色ではなく―――…真っ赤で、血の様な鮮やかな朱色をしていたのだ





生憎科学的な話は流石の私も解らないので、どういった仕組みで生まれてきてしまう理屈を説明する事は出来ない

ただ解るとすれば色違いは異端で、忌々しい存在であってはならない存在だという事

お陰様で私は生まれたばかりな赤子のまま、人間に捨てられた。能力が低く、色違いなだけで、私は捨てられた。赤子でも、人間が私を捨てるんだとすぐに気付いた。だから私は必死になって人間にすがりついた。捨てないで、頑張るから、強くなるから、と。我ながら涙流してまであんな人間によく言ってやったもんだと笑ってしまいたくなるが。結局人間は私の懇願も聞かずに、妙な機械の能力で私は何処か遠い場所へ飛ばされてしまった。それが最初で最後の逢瀬だった(後になってソレはパソコンだと知る事になる

その後は悲惨で悲痛で最悪な日々だった

弱肉強食の世界で技の一つも覚えていない赤子を放つなど死を意味している。そうだ、死だ。死が待っている。私は何度も死にかけた。生きている方がおかしいくらいに。赤子で、しかも能力が低く右も左も覚えていない私は奴等の格好な的だった。野生のポケモン、ハンターの人間、経験値稼ぎの奴等など―――…

私は必死に逃げた。逃げて、逃げて、逃げて、逃げて―――嗚呼、本当、己の弱さをつくづく悔やんだ。力があれば、力さえあれば奴等に対抗出来るのに、力があれば、こんな、痛い事も苦しい事も、辛い気持ちにならなくて済むのに

そう、だから私は力を求めた。強くなろうと決めた。強くなって、奴等に反撃出来る様に、自分がもう苦しい思いをしない様に。自己流であったが、辛い修行にも耐え、強い敵にも立ち向かった。能力が低い事なんて、言わせない。能力が低くても、強くなれる――――そうしていつしか私はどんな敵にも対抗出来る力を持ち、一番になっていた。気付けば勝てなかった相手にも圧勝出来た。私は、強くなったんだ





そして私は一人になった





気付けば、回りには誰もいなかった

私を馬鹿にする者も、私を傷付ける者も

皮肉にも私が力を得た事によって全員、私の力を恐れた。酷い話もあったものだ。しかし、対して悲しくはなかった。何故なら私は最初っから一人だったから。孤独は慣れていた、しかし、何故―――…あの時、涙が止まらなかったんだろうか

今でも、よく解らない







―――――…ねぇ、知っている?



今、異端者を連れたトレーナーが活躍しているんだって―――








もっと力を求めて、私は土地を離れて旅を始めた。今度は、私の存在意義を、居場所を見つける為に

その時、野生のポケモンから有力な情報を耳にした

遠く離れた場所で、異端者―――つまり私と同じ色違いを従えた人間が活躍していると。その色違いのポケモンは無駄に強くて無敵無敗、その人間も凄い奴だと――――


そういえば少し前、遠くから強い波動を感じた

残念ながら当時の私はルカリオではなくリオルだった。ルカリオだったら波動で遠くにいる波動という力の原因を探れたかも知れない、しかし、当時リオルだった私は到底出来る能力ではなかった。強くて、圧倒的で、独特で、不思議で怖くない波動…―――もしかしたら、と私は気付く。もしかしたらその人間に会えばもっと強くなれるかもしれないと

私は旅をして、人間を、異端者達を探した。旅をするのは大変だったが、探すのは安易に簡単だった。波動が感じる場所を探してただ進めばいいだけの話だったから





そして私は見つけた

異端者達を引き連れた、強い波動を纏う人間を







「――――…こんにちは、強い力を求める子よ。待っていたよ、君が私の元に現れる事を、君が私にバトルを申込む事もね」







圧倒された。言うならば、そう、プレッシャーという特性を持つポケモン達の前に立っている感覚を。魅入ってしまった。人間の、その容姿は勿論間近で受け止めた力の凄さに

人間は女だった。オレンジ色が鮮やかに栄え、まるで向日葵の印象を与える…そう、太陽、まさに太陽の偉大な存在に見えた。初めてこちらに向けられた、人間の笑顔というものを見て、私は瞬時に悟った

この方なら、きっと強くしてくれると







「さぁ、バトルをしましょうか」








結局は、惨敗

私は指一本も触れさせる事叶わず敗北した

強かった。強過ぎた。私と同じ異端者達とは全然比べ物にならないくらい、圧倒的な力の差で負けた。初めて見る水色のポケモンと紅色のポケモン、緑色のポケモンに黒銀色のポケモン(後に伝説や幻や未発見だと知る)同じ赤色だからと名乗りを上げた小さなポケモンに、私は負けた。奴の素早さと回避力に翻弄され、それを逆手に取った戦法で私は負けた、惨敗だった

負けたのは勿論悔しかった。悔しかったけど、私は逆に驚かされた。何故なら戦闘不能になって動けなくなった私を女は―――私の身体を、抱き上げたのだ。驚く私を余所に女は手を翳した。すると、淡くて優しい光が私の身体を包み始めたと思いきや―――なんと、痛みが消えたじゃないか!傷付いた身体も癒えた事にさえも仰天、不格好に驚きを隠せなかった私に、女は微笑んだ

それはとても…優しい笑みだった






「――――…よく此処まで一人で頑張ってきたね。もう誰も、君を傷付ける事はないよ。だからもう、我慢する必要はないんだから」






初めて人間に抱き締められた

初めて人間に頭を撫でてもらった

初めて人間の温もりを知った

全てが初めてだった。この込み上げて来る感情も、涙も、全てが全て初めてだった。私は泣いた。まるで河川の栓が抜けてしまった様に、溜まっていた感情が溢れてしまった。止まらない感情、止まらない涙…そんな私を女は嫌な顔をせずに、私の身体を抱き締めてくれた。優しく撫でてくれた。優しく、褒めてくれた。「君は、強い子だね」と―――…






「君も一緒に行こう、私達と一緒に旅をしよう。私達ともっと強くなろう。一緒ならもう―――寂しくないよ」






嗚呼、そうか、私は寂しかったんだ。寂しかったから温もりが温かくて、嬉しいんだ

紅いポケモンが言った、《一緒に行こうよ、一緒に世界を見よう》。水色のポケモンが言った、《主人を守る為に今以上に強くなれ》。緑色のポケモンが言った、《お前ならすぐに強くなれる筈だ》。黒銀色のポケモンが言った、《共に行こう、同じ心の傷を負う者よ》―――…嗚呼、これも、初めてだった





「君の名前は、朱翔にけってーい」





あどけない口調で笑う女から与えられた名前も、初めてで

私は優しい温もりに抱かれる中、誓った。もっと強くなって、この御方を、仲間を、温かい居場所を守ってみせると――――…









―――――
―――














今でも覚えている

忘れる筈はない、否、忘れちゃいけない

リオルではなくルカリオになったとしても、あの時の出会いと衝撃と感動は今もずっと覚えている






《…マスター、》

「なぁに?朱翔」

《私は…強くなって、マスターのお役に立っていますか?》

「フフッ、愚問ね朱翔。心配しなくても大丈夫。朱翔がいるお蔭で、今の私達があるんだから」







そういえば、昔、誰かがこう言っていた。「トレーナーと力を合わせて戦うポケモンが一番に強い」と。昔は有り得ないと鼻で笑っていたが、この考えを改め直そうじゃないか

私はマスターというトレーナーを持てた事で強くなれた事を





《マスター》






親愛し、敬愛し、尊敬する我が主よ

どんな事が起きても、私は生涯貴女に尽くす事を誓います

喩え、貴女が【異界の万人】という偉大な御方で、異端者だとしても、私はずっと貴女に着いていきます







(だからどうか、)(私を見捨てないで)


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