あんな映像を見せられ、黙っていられるほど冷静ではいられない。全員は、否―――本人であるレンは映像の光景を信じられない面持ちで食い入る様に見つめていた

ありえないのだ。何もかも。闇夜が何故レンに対し敵意を向けた理由はこれで判明されたはいいが―――これは、一体どういう事だと。正直言って、こんな出来事が本当に起きていただなんて…到底信じられるものではなかったのだから





「―――…改めて聞く。白銀の麗皇、お前は奴等の敵ではあるまいな?」

「…ハッ、当然だろ!変な事を聞くな。…この俺が、ミリを相手に攻撃するわけねーだろうが!!」

「だが、映像に映るアイツは何だ?俺には全く同じ人間に見えるがな、白銀の麗皇よ」

「違う!!ッ、俺は…!!」

「落ち着け!レン!!」





サカキの鋭い視線と強い口調に、普段から冷静なレンでもカッとなってサカキに迫ろうとする。いち早くレンの様子を瞬時に気付いたカツラに押さえ込まれる事で、辛うじて未遂に終わったが…誰も止めなければサカキの胸倉を掴む勢いだっただろう

それだけレンは憤慨し、荒れていた。仕方が無い事だ。自分じゃない"誰かが"自分に成り代わり、大切な人に牙を向けた。蹴り飛ばした。けして許してはならない愚行に、レンは怒り心頭な様子だった





「…首領、そこまでにしてやって下さい。麗皇は敵ではありません。ミリさんを攻撃したのが麗皇だとしても…辻褄が合わない。同時刻、麗皇はゴウキと一緒にポケモンセンターにいましたし、この麗皇がミリさんの敵になるとは到底考えられません」

「……フン」

「麗皇、気にするな。首領はお前を試しただけだ。…誰もお前を敵だと思っていない。気持ちは痛いくらいに分かるが、まずは落ち着け」

「チッ!!!!」





荒々しい様子を包み隠さず、レンはソファーにドカッと座り込む

前髪を掻き上げ、グシャリと握り締め、頭を抱える姿は冷静を見失っている証拠。誰も何も、レンに声を掛けれなかった

レンの姿、それから映像に映るレンの姿をしばし見比べながら―――今まで沈黙を通していたゴウキが、重い口を開く





「……確実に言えるのはこの白皇…人間ではないと俺は思う」

「!…人間ではない?」

「白皇の実力はこの俺が一番よく分かっている。…この映像を見た限り、この白皇は少々人間離れをしている。…ただの人間にしては不自然だ」

「ゴウキの推測はあながち間違ってはねーな。俺も同意見だ。レンガルスがあんな動き、到底出来るものじゃねぇ。……今は黙って続きを見るぞ」

「…ッ」

「「「「……………」」」」」





でなければ、レンがあの三匹を相手に出来るわけがない。あの嵐の中で、何があったのか―――今の映像では、まだ真実には辿り着けない


映像は続く






新たな光線が一つ轟いた。それは凶暴化したポケモンが放った攻撃、はかいこうせん。直撃したら大変な惨事になっていただろう。しかし、闇夜の声に反応したミリの咄嗟の回避で何とか直撃を免れる事が出来た

しかし、爆風までは避け切れなかった。ミリの軽い身体は簡単に宙を舞い、漆黒の長い髪とワンピースがバサリとはためいた。腕に白亜と黒恋を抱いて。驚いた闇夜はすぐさまミリの救出に向かうも―――突如、自分の身体に別のポケモンの一撃が当たり、闇夜は吹き飛ばされてしまう





《――――ッ!》





思わぬ一撃が、意外に強く当てられたらしい。闇夜は地面に叩き付けられた。ダメージはそれほど大きく負ったわけではなかったからまだよかったが―――完全に自分達は、敵に囲まれてしまっていた

闇夜が辛うじて見えた視界の先は―――受け身をとって無事に地面に着地出来たであろうミリが、またあの歪んだ笑みを浮かべたレンと、攻防戦を繰り広げていた

腕にしっかり白亜と黒恋を抱いて、レンの長い脚で繰り出す攻撃を軽やかなステップと共に避けている。熟練した者でしか出来ない完璧な機動の読みで何とか攻撃を避け続けている姿は圧巻だ。ミリにならレンの攻撃を避け続ける事が出来るだろう。しかし、腕には白亜と黒恋、裸足の回避で傷付く素足、バランスの悪い状況での戦いはミリとてかなり厳しいものであろう。長くは続かないはず

敵はそれを待っているのだろうか。相手は絶えず不敵な笑みを歪ませてミリに容赦ない攻撃を繰り返している




「この者はお前の愛する者なのでしょう?…どうです?愛する男に攻撃される気持ちは?」

「ククッ、…いい眺めですよ女王…!」





あの男は一体何者か。闇夜には分からない。ミリにとって親しい者だったとしても、今の闇夜にとってレンは立派な"敵"でしかなかった

アポロはミリに"愛する者"という言葉を発していた。少なくてもこの言葉でおおよその関係が想像出来るはずだったが―――闇夜の耳には全くアポロの言葉が入ってこなかった

なにより―――





「お願いレン……目を覚まして!!」






辛く、悲しい表情を歪ませ

それでもなお、相手を信じて必死に訴える主の姿を―――闇夜は見ていられなかったのだから


…と、思いきや





「―――ッ、ゴメン!レン!!」






ゴッッ!!



…何を思ったのかは分からない

遂にミリもレンに一撃を食らわした


―――股間に、向けて


細い脚から繰り出したとは思えない威力で、レンは後ろに吹き飛ばされた






「あああぁああああゴメン!レンちゃん本当にゴメン!当たり所が悪かったら本当にゴメン!もし駄目だったら駄目で私が責任持つから!!まあヒールの靴を履いてないから多分大丈夫だと思うよ色んな意味で!」

「……意外に容赦無いですね。流石の私も同情しますね、アレは」

「……なんて恐ろしい事を…」






遠くで一部始終を見ていたアポロとランスは流石になんとも言えない表情を浮かべ、テヘペロッ☆な表情をするミリを眺めていた







「「「「…………」」」」

「……まぁ、その、なんだ。こんな時に言うものではないが…」

「…レン、ドンマイだ」

「うるせぇよ」

「流石です、ミリ様。今の蹴りは素晴らしいモノでした。…ハッ!よかったなレンガルス。ミリ様に蹴ってもらって。有り難く思えよ?」

「うるせぇよ」

《…………》



映像は続く







ミリの思わぬ攻撃のお陰で、闇夜は隙を着いて身体を起こし、ミリの元へ猛スピードで飛び―――その細い身体を抱き上げて、上空へと飛んだ

息を切らすミリは闇夜の救出に「ありがとう、助かったよ」とお礼を言いつつ下の光景を見る。完全に下は、島は、無惨な姿に成り果てて、荒れ放題になってしまっていた。完全に凶暴化したポケモン達に囲まれ―――下にいるアポロとランスはこちらを見上げ、蹴り飛ばされたレンは悠々と立ち上がってはこちらを見上げていた

よかったーレンちゃんとりあえず無事だったかーあっはー、というミリの呟きの内容についてはスルーするとして―――その見下ろす横顔は何かを考えている様な鋭い視線を向けていた





「ブ…ィッ!」

「ィッブィ…!」

「!白亜、黒恋…」

《その子達はまだやれる、と言っている。無論、私もまだまだいける》

「………」

《しかし状況はかなり悪いとみる。三匹の事もある、一旦引いた方がいいと私は思う》

「…――――――」

《……主?》

「…………闇夜、貴方の力を貸して。少しの間だけ、めくらましをお願い」

《!…分かった》






ミリの眼が闇夜を見た。真剣な表情で、強い光だ。漆黒の綺麗な瞳は闇夜を写す。昔では有り得なかった事だ。ミリは何かを閃いた。それを実行したい。闇夜は瞬時にミリの意図に気付くと―――自分の大っ嫌いな忌々しい能力を、存分に発動させる



闇夜の身体から、突如闇が生まれ

瞬く間に夜の暗さを越える漆黒の闇で、島ごと包み込んでやった











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