「――――…まぁ、なんという事でしょう…やはり、"また"このような現象が起こってしまっていたなんて…。今の【私】は力が膨大、それゆえに不安定なのは重々理解してはいましたが……こうも簡単に、手放す事になるなんて…普通では考えられません」





遠くに輝く、三つの光







「……お願い、無事でいて」





三つの光は、何の光?



――――――
――――
――









レンの長い脚は容赦無くミリの頭上へ振り落とされる。動揺と困惑の姿に固まっていたミリだったが、瞬時にレンの攻撃を受け流す事で何とか攻撃を受けずに成功する

しかし、振り落とされた脚がミリの左腕に煌めく白銀色の腕輪に直撃したらしく、ピキピキィッ、とヒビが割れた

攻撃を受け流されたレンだったがすぐに態勢を立て直し、身体を捻らせ再度また蹴り上げようとした。これもまたミリは迫り来る脚を自身の腕を使って受け流し、攻撃を回避させた。柔の使い手だからこそ出来る業に、そう簡単にミリに攻撃を当てる事は出来ないだろう

しかし思わぬ出来事が起きる

またレンの脚がヒビ割れた腕輪に当たってしまう。腕輪は割れる事は無かったが―――スルリとミリの腕から外れる事になる

一瞬の隙。ハッとするミリ。レンはその隙を見逃さなかった。勢いを殺さず、脚を回転させ―――所謂回し蹴りをミリに一発決め込んでしまう。レンの脚はモロにミリの細い腹部に直撃し、苦痛に歪めたミリを軽々と蹴り飛ばした

簡単に蹴り飛ばされたミリ。細い身体が宙を舞う。地面に叩き付けられる寸前のところで闇夜がミリの身体を抱き留めた事で難を逃れた






《主!平気か!?》

「―――ッありがとう闇夜、危機一髪ってところかnッゲホゲホッ!」

「…!」
「キュー!!」
「……!」
「「ブイブイ!」」

「おっと、お前達の相手はこちらですよ?デルビル、ヘルガー、かえんほうしゃ!」

「ゴルバット、かまいたち!マタドガスはスモッグです!」

「「「「「!!」」」」」






闇夜とミリに駆け寄ろうとした五匹の行く手を阻む魔の手が襲う。アポロとランスはすぐに手持ちのポケモン達に命令をし、二つに分断させる

五匹は動揺していた。ミリに攻撃してきた敵を、レンを。ミリの事を愛する男が、まさかミリに攻撃してくるなんて―――到底信じられるものではなく

しかし忘れてならないのは敵はレンだけに限らず、アポロとランスもいる。そして―――蒼華の力で氷付けになったポケモン達以上に、続々と新たな凶暴化したポケモン達が現れ始めたのだ。次々に降り懸かる猛威に、五匹は応戦に入るもミリとの距離が離れていくばかり

――――形勢逆転されたと言ってもいいだろう

闇夜の腕の中でミリは震えた





「な、んで……レンが、こんな事を…」

《!》

「ッレン!どうしちゃったの!?どうして、どうして貴方が此処に…!?ゴウキさんとナズナさんと一緒じゃなかったの!?」







ミリはレンに向かって叫ぶ

よほど信じられないのだろう。先程の冷静だった姿が嘘みたいに、嫌だ嘘だと震えている

続々と野生のポケモン達が迫り来る中―――レンはミリの腕から外れた腕輪を手に、歪んだ笑みと共にニヤリと不敵に笑っていた

闇夜は何故そこまでミリが動揺している理由が分からなかったが、仕方が無い事だ。ミリとレンは電話で再会を果たしたとはいえ、実際に会ったのが一ヵ月振り―――愛しい人との再会が、まさか、まさかこうした形で再会するとは全く予想していなかったのだから


何処かで男の声が嘲笑った






「クックックッ…愉快愉快。人の心配よりもまずは自分の心配をしたらどうかね?まずは、自分のポケモンのやられる姿とかな」

「!!」








ニ ヤ リ

レンの顔がさらに歪む

レンが突如跳んだのだ。人間とは思えない脚力でその場から跳んだ。そんな事が出来るのはミリくらいなのに、だ。驚くミリと闇夜を余所に、高くジャンプしたレンは―――野生のポケモン達と戦う五匹の群集の中に突っ込んでいく


群集の中に入る瞬間―――レンの姿が一瞬だけ歪んだ


気付いた時にはレンの姿は群集の中に入ってしまう。ミリ、そして闇夜の視界の先から群集の中へ消えていき―――その直後、凄まじい嵐が群集を襲い、鋭い閃光、轟く咆哮、悲痛な悲鳴が地響きと共に降り懸かった。嵐の所為で一体あの中で何が起きているかは分からない。しかし、凄まじいバトルが起こっている事は間違いなかった


―――暫くして、

巻き起こる凄まじい嵐の中から、三つの光が弾き出されて地面に叩き付けられる

その三つの光は―――





「蒼華!時杜!刹那!」





あの嵐の中で、何があったのか

無惨な姿に成り下がってしまった、あの三匹が、息も絶え絶えな姿になってしまっていた。身体はボロボロ、苦悶に歪む顔、血だらけの身体―――闇夜も、ミリも、まさかこの三匹が負けるなんてそれこそ想像していなかったのだから





「皆!しっかりして!」

《お前達…!》

「そんな…!三匹が倒れるなんて…!」






三匹に駆け寄り、すぐさま容態をチェックに取り掛かるミリ。その表情は青く、焦りを見せていた。闇夜はミリを視界に入れつつ、敵から皆を守る盾となって前に立つ

ミリの表情がさらに青くなった





《主!三匹は…》

「…マズい、これは危険。一体何の手を使ったかは分からないけど…このままいけば死んでしまう!……ッ今からすぐに私の力で、」

《待て、奴等に力を使っている姿を見せてはいけない。見せてしまったらさらに主を狙う事になってしまう。それだけでも避けなければ》

「でも!私の事よりこの子達が!」

《主!!》

「ッ!!………分かった。ひとまずボールに戻すよ」





闇夜の必死の瞳を見て諦めたミリは、手からボールを三つ出現させて、瀕死の三匹をボールに戻す

―――が、



ビキビキビキィィィ…




「――――……ッ!!!!」






ミリの耳に嫌な音が響いた





「嘘…ボールに、ヒビが…!?」






一体、何があったのか

ボールが勝手にヒビが割れたのだ。特別何も手を加えていなければ粗末な扱いもしていないのに、ミリの手の中でボールも無惨な形になってしまう

ミリは目を張り、闇夜もボールを凝視した。こんな事はありえない、と。まるでボールから出る事も回復する事さえも拒む様に。まだボールにヒビが割れただけで壊れてはいないのが幸いだったが―――とにかく、これは危険だ。闇夜は悟った


すると突然―――ミリの目の前に紅い空間が現れた


その紅い空間は闇夜も認知していたモノで、当然ミリも知っている。しかし何故突然―――紅い空間を開かせるポケモンは瀕死の状態だというのに―――空間が、弱々しく開いたのか

答えはすぐに分かった

弱々しく開かれた空間から―――緑色のバリアーで守られた、白亜と黒恋が現れたのだから






「白亜!黒恋!」

「ッブイ…!」
「ブイッ、ブイ…!」

「…ッ、二匹を庇って、あの子達は…!」








ぐったりとした様子でバリアーの中で浮かんでいた二匹。先に瀕死になった三匹と比べたら傷は浅く、意識があった。あの嵐の中で何があったかは分からない。しかし確実に言えるのは―――三匹は、自分達の命より二匹の命を守ったという事だった

ミリの腕の中に収まった緑色のバリアーは、ユラリとその壁を歪ませ―――事切れるかの様に、一瞬で消えた。闇夜にはまるで刹那の命の灯火が消えた様に見えてしょうがなかった

ミリの方も同じ考えだったのか、悲痛な表情を噛み締める横顔が見えた。そんな姿を隠す為か、白亜と黒恋の身体をギュッと抱き締めていた







《――――ッ主!危ない!!》

「ッ!!」







そう簡単に感傷に浸らせてはくれない


また新たな一撃がミリと闇夜に襲いかかった











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