本来だったらこんな状況に追い込まれたら動揺し困惑し、すぐにでも戦闘態勢に入って奴等の撃退に入るだろう。アポロの襲撃に遭い、同じ状況に合わされたレンとゴウキとナズナの様に。自分達の命を守る為、ひいては奴等の思惑を打ち崩す為にも

しかし、ミリは違った

ミリは全てを知っていた。全てを分かっていた。そして蒼華と時杜と刹那の三匹も分かっていた。向かって来る野生のポケモン達などに臆する事もなく、怯む事なく、全てを見通した眼を持って敵と対峙していた

美しい姿だった。闇夜の視点から流れる映像に映るミリは、こんな状況になってしまっても変わらず美しく、堂々と―――まさにポケモンマスターとも取れるそんな後ろ姿だった







「―――――…此処に来る前から、シンオウには"何か"があると思っていた。キッカケを作ってくれたのは私のお友達からの手紙からで、友達の為にも突き止めようと思った。実際に船に乗って、シンオウへ向かう最中に感じる妙な予感…嫌な予感さえ感じた。最初はこの嫌な予感は聖蝶姫絡みかと思っていたけど、違った。原因はそう、貴方達の存在だった」


「闇に蠢く不穏な影…それからシンオウ全土に感じる嫌な予感の元凶を探る為に、私は密かに三匹を放った。この子達は動けない私の代わりに眼となって、くまなくシンオウを巡り、探してくれた。人間では無理がある場所や、人間では知り得ない情報など様々に、ね。それに此処のポケモン達が積極的にお手伝いしてくれたから、より濃厚な情報を入手してくれた。そして私達は見つけた。貴方達という、存在を」


「随分と手の込んだ事をしていたみたいね。誰にも気付かれずに、誰にも悟られずによくも此処まで浸蝕出来たね。怪電波…貴方達が放った微量の電波は着々とポケモン達を蝕んでいった。…見事なものよ、指一本で数多のポケモンを従えるまでになってしまっているんだもの








でも、それも今日で終わり」









全てはシンオウに住む人々やポケモンの為、友達の為、皆の為に

ミリは冷静だった。誰よりも冷静だった。盲目の聖蝶姫絡みで巻き込まれ、不自由を余儀無くされてしまったとしても、ミリは動いていた。誰にも伝える事もなく、知らないところで、見えざる敵と戦っていた

きっとまた自分達に内緒で調べ始めたに違いない。全く、ミリの悪いところだ。何故、いつもいつも自分達を頼ってくれないのか。言い様のない怒りがレンやゴウキ、それからナズナの心中に湧いたのは間違いない


映像は続く





蒼華の咆哮一つ、それから淡く輝くクリスタルから放たれた冷たい冷気がまるで光が爆発したかの様に全土一帯に破裂する

その光を浴びた瞬間飛び掛かろうとしたポケモン達の動きが止まった。パキッ、と何かが凍る音がしたと思った瞬間には、ポケモン達の身体は氷が張り付き―――気付けばポケモン達は氷付けにされてしまっていた

まさに一瞬の出来事


相変わらず、蒼華の力は恐ろしい脅威だ。闇夜は六年振りに見るリーダーの後ろ姿を眺める。蒼華、時杜、刹那と並ぶ姿は六年前と変わらない姿に、闇夜は一人懐かしい気持ちに浸っていた






「元々貴方達を倒すつもりでいたからね、ただその日が早まっただけ。貴方達の目的は分からない。貴方達がどうして私を狙う理由もね。私を狙うだけなら好きに狙えばいい。私は逃げない。でも他の人間やポケモンを巻き込むのなら話は違う。その為に人を簡単に殺してしまうなら、尚更。―――…私は命を粗末に扱い無下にする行為を絶対に許さない」


「だから私は…いえ、私達はポケモン達の為にも、シンオウに住む人達の為にも、友達の為にも、そして皆の為にも貴方達を此処で倒す。だから貴方達の企みに負けるつもりはない。…――覚悟しなさい」







合図が来た

ミリからの、合図が

ミリの意図に忠実に従い、蒼華と時杜と刹那は駆け出した。蒼華はクリスタルを輝かせ、時杜はリームストームを、刹那は具現化した武器を。白亜と黒恋も三匹に負けじと小さな身体で果敢に立ち向かう。闇夜もまた、ミリの影から出て刹那と隣に並び、奴等をダークホールに取り込ませてやろうと迫っていく

しかし二人は変わらず歪んだ笑みを浮かべている。随分と余裕な姿に闇夜は苛立ちを覚えるも、ダークホールをぶちまけたらすぐに終わる話。問題はない。【夢魔の影】として責任持ってお前達を闇に突き落としてやろう。二度とミリを、主に歯向かう事が出来ないくらいに



闇夜は、蒼華は、時杜は、刹那は、白亜は、黒恋は―――奴等に攻撃を仕掛けようと、少しでもミリの元から離れた


それがいけなかった











「――――…天晴れ天晴れ。実に興味深い話だ」






何処からか、男の声が聞こえた






「流石は我等が聖蝶姫、我等が女王。その推理力と洞察力、この状況に対する冷静さ、そして昔と変わらぬ強者の眼は惚れ惚れしてしまう。ククッ、愉快愉快。なら是非とも我々と共に同行し、ゆっくりと茶を交えようではないか。時間はたっぷりとあるのだから」










闇夜はミリを振り返った

そして、見てしまう




主の背後に現れた、一人の男



月光に煌めく、白銀色の髪

妖しく光る、ピジョンブラッドの瞳

端整な顔に浮かぶのは、歪んだ笑み




振り返るミリ

初めて見せる、驚愕に染まる表情



男は勢いを殺さず、長い脚を振り上げて―――何のためらいも無く、ミリに向かって振り下ろす


闇夜の眼には―――まるでスローモーションの様に見えていて






《―――主ッッ!!!》














「「「―――ッ!!!!」」」

「これは…!」

「う、そ…だろ……!?」

「なん、だと…!?」

「な、何故だ…何故!






 ――――レンがいるんだ!」





映像に映る、新たな刺客

それは紛れも無い―――レンと全く瓜二つの姿をしていたのだから








(彼は一体何者?)



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