重く、強く、降り懸かった見えない重圧。まるで重力が何倍にもなって上から押し潰される重い圧力に加え、気温がまた一段と下がった感覚。鋭い刃が足背を深々と刺し、足下が竦んでしまう恐怖感。映像を見ているだけでもこちらもミリの放つプレッシャーにやられてしまうんだ、現場はそれ以上だっただろう

レンとゴウキは一度だけ似たような体験をしていた為、まだ平気だったが―――初めて見たミリの一面、軽々と恐ろしいプレッシャーを放つ姿を見た他の者達はそれはそれは驚き、恐怖しただろう。おちゃらけた雰囲気とは雲泥の差、【氷の女王】とも取れる姿を前に動く事が出来ないでいた

しかし、一人だけ

プレッシャーなど関係ないと、恍惚のした眼で映像を見つめる者がいた





「……流石は、ミリ様。やはり貴女は…俺が唯一認めた御方です」





強く、気高く、美しい

自分の放つプレッシャー以上のプレッシャーを放つミリの姿を、表情は変わらずとも何処か惚れ惚れした面持ちで見つめていた



映像は続く






ミリの放つプレッシャーにやられたのか、ランスの様子がおかしくなる。六年前に受けたダークホールのトラウマがミリのプレッシャーを受ける事で思い出してしまったのだろう。ガタガタと震える身体を叱咤し、踏ん張ろうとするも身体は意思を反して逃げ腰になっていき、やがては足が竦んでしまい、ランスは尻を着くみっともない姿を見せる事になる

嗚呼、馬鹿な男だ。このまま逃げ続けていればいいのに。逃げて逃げて、もう悪さが出来ないくらいにまで落ちぶれてしまえばまだ―――幸せだったのに

ランスの様子を見兼ねた刹那がテレパシーで会話をしたところでこの男の末路なんてしれている。ミリの許しが降りなければ、絡み付いた罪の鎖は解き放たれない。このアポロにも数時間もしたら同じ結末を辿る事になるというのに






「…もう説明しなくても我々が何故お前を狙っているのかは、きっとご存じなはず。そのミュウツーから全てを聞いているはずです」

「――――…14年前に解散した犯罪組織『彼岸花』…まさかロケット団が手を組んでいるなんて流石の私も予想外でしたよ」

「ミュウツーの話を聞いて私は勿論、彼等も随分と驚かされましたよ。流石、やはり腐っても女王、嘘や隠し事が通用出来る相手ではない」

「…それで?私の事を聞いた上司達はどんな対策を練っているのかしら?」

「さて、そこまでは。とりあえず私達はお前を捕らえる事だけです。あぁ、ランスはお前を倒すつもりらしいですけど」

「あらー、…その身体で?」

「ですよねぇ。流石に私も心配ですよ」

「無駄な心配は無用ですよ、アポロ。………ッ女王!任務では貴女を捕らえる事になっていますが、私は貴女を倒して、貴女を捕らえる!その点に関しては特別言われていませんしね。そして貴女を倒して、私は貴女という恐怖から解放される!私はその為なら、何だって………ッ!」

「…どうやら本気らしいね、彼」







嗚呼、本当に馬鹿な男だ

復讐の為にまた、自分を追い込ませるのだから

記憶が無いミリにとってランスの復讐は迷惑極まりないし、意味も分からない。しかしミリは弁解するわけでもなく憎しみの感情を振り切る真似もしなかった。六年前の"あの時"だったら無表情だったり見下げていたミリの姿が―――ただ静かに、まっすぐにランスを見つめかえしていて

嗚呼、主は本当に何も知らない

このまま何も知らないでほしい。忘れたままでいてほしい。あの忌々しい事件も、あの小島での討伐の事も、何も知らないままでいてほしい



今のミリは、闇夜の眼に―――あまりにも、輝き過ぎていた










「私はランスみたいにお前に恨みなんてありませんが、悪く思わないで下さいね。全てはサカキ様の為、ロケット団の復興の為の一歩にしか過ぎませんので」

「サカキ様の為、ねぇ…本当にそうかな」

「…何か言いたい事があったら受け付けますが」

「いえ、別に。ただ…サカキさんは本当にロケット団の復興を望んでいるのかなってね」

「知った口振りを…」

「知ってるよ、あの人の事。あの人が今、何処で何をしているかなんてね。これでも私達、仲が良いし」

「……――――だったら是非、お前を捕らえてゆっくりサカキ様の居場所を吐いてもらいましょうか」







アポロがパチンと指を鳴らす





すると草むらや岩陰、海から続々と出て来る野生のポケモン。巨体なポケモン、小柄なポケモン様々に、どのポケモンもギラギラと眼を鋭く光らせ、牙と爪をギラつかせていた

野生のポケモン達は一気にミリ達の回りを囲んだ。ミリは形良い眉を寄せ、続々と自分達を囲む彼等を静かに見つめていた

闇夜もまた回りを見渡し、数時間前にリゾートエリア外で起こっていた騒動が"コレ"だったんだと気付く。何せ自分はずっと影の中にいたのだから。敵が近付いている事に気付いたからこそミリを起こし、別荘から逃げ出せた。ギラギラギラつく野生のポケモン達に対し、これは少々手間が掛かるな、と闇夜は回りを見渡しながらそう思った






「お前には後でゆっくり話がしたいものですよ。お前が何故、そのミュウツーを従えているのかを。お前とナズナ様との関係もね。…美味しい紅茶なんかと一緒にね」

「あら、お茶のお誘い?嬉しいですねぇ、ですが気持ちだけ受け取っておきます」

「おやおや、遠慮深い方ですねぇ」

「「ブィィィィ!」」
「…」
「キュー」
「……」
≪この場をどう乗り切るか…≫

「それから……あぁ、お前にこの者達の説明はしなくてもいいですよね。先程そのミュウツーから意味深な話を聞きましたし、お前の事だからこの者の状態などすぐに気付いているでしょう」







そして二人はそれぞれ自分達のポケモンを繰り出した。

それが合図の様に二人のポケモンは、回りの野生のポケモン達は、一気にミリ達に襲いかかった


二人の歪んだ笑みが、ヤケに印象強く残っていた










「―――……レン達が言っていたのはこの事だったのか…」

「…まさに脅威だな。実際に見るのとでは迫力と恐怖が違う。これでゾンビの様に戦うのだから…恐ろしい」

「アポロ、ランス……絶対に許されるものではないぞ…っ!」

「「「…………」」」

「……ッミリ…」

「……ミリ様…」

《此処までは主の予想範囲内。本来だったら問題は無かった。…そう、問題は無かった》

「!……闇夜、それはどういう意味だ?」

《……見ていけば分かる》









金色の瞳とピジョンブラッドの瞳が、一瞬だけ重なった







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