全員は一旦サカキがいるリビングに戻り、先程の出来事をナズナからサカキに報告する事で事情を知らずにいたサカキを驚かす事になる

話を聞いたサカキは納得した様子で「確かに先程から騒音がうるさかった」とサカキは言い、「だからゲンガーとヨノワールが壁を抜けてこっちまで飛んできたのか」と続けた。いや、だったら助けに来いよと思ったのはレンだけではないだろう




それから暫くして、マツバが宅配ピザを頼んだりカツラとナズナが軽くおかずを作ったり、ミナキが人数分の飲み物を買いに行ったりと―――ちょっと遅い夕飯を、此処にいる全員が一緒に取る事になる




違和感だらけな組み合わせで、本来だったらありえない面子での夕飯。片や総監、片や元ロケット団首領、片やジムリーダー、片や博士、片やもろもろ―――嗚呼、キリが無い。此処には立場を越えた、不思議な空間が出来上がってしまった事には間違いなかった

彼等を繋いだのは、ミリの存在

ミリが居なかったら間違いなく出会う事もなければ、こうして夕飯を一緒に囲む事は無かっただろう

………といっても、いざピザが届きおかずが出来て飲み物を分けてさあ食べ始めたものの、食卓を囲む皆の口は無言になり沈黙に陥ってしまったが







「………ミリちゃんが今の僕らの姿を見たら、どんな反応をするんだろうね」

「………確実、驚くだろうな。ミリ姫の驚く顔が目に浮かぶ」

「………マツバ君、ミナキ君…君達から家族設定の話を出しておいて、今更そんな疑問は持ってはいけないよ」

「………そもそもミリさんはこの設定の話は知っているのか?」

「………知らないだろうな。…舞姫の事だからきっとこの手の話は受け入れるだろう」

「………だろーな。ま、ミリ自身きっと満更でもなさそうだし。いいんじゃねーか?」

「………本人の知らずに勝手に話が飛躍していって収集つかなくなっても俺は知らんぞ」

「………ミリ様の回りはアホしかいねーのかよ」







ぽつりぽつりと今の奇怪な空間に口を出し

しかしご飯を食べる手は止まらずに

沈黙に耐え兼ねたのかは分からないが、おもむろに呟いたマツバの言葉をキッカケに、話はとんとんと進んでいく








「………自分でピザを頼んでおいてアレだけど、こういう家族がいるからこそミリちゃんの手料理が食べたいよね」

「………マツバ、お前それ寝る前からずっと言っていたよな。私はカレーが食べたい」

「………だってミリちゃんの手料理、美味しいんだもん。煮込みうどん食べたい」

「………分かるよその気持ち。美味しいもんね、ミリ君の料理。肉じゃががいいかな」

「………なるほど。お前もアイツの手料理にやられた口か。…手作りコロッケが恋しいものだ」

「………首領、それはマツバだけの話ではありませんよ。少なくても此処にいる全員は該当します。俺はミナキと同じカレーで」

「………また、食べたいものだ。舞姫の、手料理を。…ドリの実入りのオムライスだな」

「………アイツが戻ってきたら作ってもらおうぜ。きっと喜んで作ってくれるはずだ。…あー…チーズたっぷりマトマの実入りのグラタンが食いてぇ」

「………、ミリ様の手料理……」

「………フッ、流石のお前もミリの手料理は食べた事ねーだろ?」

「………さて、どうだろうな」

「………あ?」

「………フッ、なんでもねーよ」







ピザを食べ、おかずを摘みながら、思い出すのはミリが作ってくれた手料理ばかり

いつも美味しいご飯を提供してくれた、彼女。何処から用意したか分からないエプロンを着て、何処からか調達してきたか分からない材料を使い、時間の概念を無視し、どんな隠し味を使っているかも分からない方法(全てが全てソレではないがちょくちょく挟んでいる)で、彼女はいつも温かい笑顔と共に料理を作ってくれた



此処に居ない人間を求めたところで現実が変わるわけはないのは重々分かっているが、こういう時にこそミリの存在がとても恋しい。もし仮に此処にいてくれたら温かい料理が目の前にあって、こんな沈黙になる様な状況も無く笑い合っていただろう

気付くと全員、同じタイミングで溜め息を零していた









《――――……》








そんな哀愁漂う彼等の姿を

闇夜は影の中から静かに見つめていた







―――――
―――











夕飯を食べ終えるのにあまり時間は掛からなかった

テーブルの上には食べ尽くして空になった皿の数々。隣に置いてあるゴミ袋の中は宅配ピザの紙容器やペットボトルが無造作に入っていた。まず皿を片付けろよ、と思ってしまうが彼等にとって最も優先すべきは皿を片付ける事ではない

自分達の目の前に、不自然に揺らめく影の中

不気味に輝く金色の瞳、影から頭部だけを現す闇夜に全員の視線は集中する







「――――……さっそくだが、説明してもらうぜ。あの日、あの時…ミリ様の身に、一体何があったのかを」





ゼルは言う

影の中にいる、唯一の真実を知る者に向けて


この時、この瞬間まで闇夜の口は閉ざしたままだ。いい加減、話を聞かせてもらいたい。闇夜の話は貴重で重大な話、絶対に奴等の居所を見つけ出す鍵になってくれるはず

闇夜を見つめる彼等の表情は真剣そのもの。雰囲気も重く、ずっしりとした威圧がこの空間を包んだ。誰も口を開く事はなかった。誰もが、闇夜の口が開かれるのを待った



ズズズッ、と

ゆっくり身体を現す闇夜の瞳が、鋭く全員を見据えた







《……口で説明しなくても、実際にお前達に見せてやろう》






スッ、とまた闇夜は一瞬の内に影の中に戻ってしまう

しかし、すぐに闇夜が潜った影の中から深い闇が広がりだした







「「「「!!!」」」」

「なっ!」

「また!?」

「チッ…!」

《安心しろ。危害は加えない》







数時間前同様に闇は一瞬で彼等を、部屋を覆い尽くした

全員に動揺が走り、先程の事もあり腰にあるボールに手を掛けるも、闇夜は闇の中から姿を現し全員に敵意が無い事を伝えた

かといってそう簡単に警戒を解く訳にもいかない。全員が未だボールから手を放さず身構える中―――彼等の前に、一つの光が浮かび上がる



眩しいとまではいかないが、若干薄暗く輝く不思議な光

光は、一つの"映像"として姿を変える







もくもくと黒煙が広がる、半壊した別荘

ソレを上空から見下ろす視界

視界の隅には白と黒のイーブイ達

そして視線を反らせば視界に赤橙色のワンピースがフワリと揺れる





肩越しに抱き上げた、儚い存在

長い髪を揺らし、下の存在を困惑した様子でアワアワと眺める―――――ミリの姿








「「!!?」」

「!…これは……」

「ミリ…!?」

《これは私の視点で映す、別荘が半壊した時の出来事だ》

「「「「「!!!!!!」」」」」」

《では、私と主が蒼華達と再会したところから時を進めよう。あの日、あの時、何があったか…お前達と出会う、経緯までをな》






真っ黒い闇の中、

眼前に浮かぶ映像を前に

闇夜は静かに、映像を見返した








映像が、真実を明かす





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