力を求め、波動を極める

朱色の光の一匹狼

彼は今日も力を求める


全ては、大切な主を守る為に










Jewel.13













《――――…今日はひとまず此所までにしよう。お前は少し身体を休ませた方がいいぞ》

《いや、まだだ。まだ私はやれる》







此処は、シンジこ

シンジこの中でも人間もトレーナーも侵入する事は難しい、野生のポケモンの憩いの場に、彼等の姿があった







《闇夜、続けてくれ。次のジムリーダーは鋼タイプを使用すると聞く。我等が戦わずにして誰が戦う》

《…だがしかし、酷使した身体では実力も発揮出来ない。適度に休憩は必要だと主が言っていたのを忘れたか》

《私に休憩など必要ない!》







次の街、ミオシティにあるミオジムにて次のバッチを取得する為にも、自己練習として修業をしていたポケモンが二体

それは黒銀色のダークライの闇夜と、朱色のルカリオの朱翔。水辺の近くで互いに拳を交えているも、休憩しようと持ち掛ける闇夜に朱翔は頭を振ってなお組み手を続けようとする。しまいにはふざけるなとばかりに闇夜の言葉を遮り躍起になる朱翔の姿に、闇夜は小さく溜め息を吐いた






《…朱翔、お前は一度落ち着いた方がいい》

《何を言う、闇夜。見ての通り、私は至って落ち着いている。普通だ》

《訂正する。お前は一度はどうだんの構えを解け。お前のその技を食らってしまったら私は一発で戦闘不能になってしまうからヤメロ》

《だったら何も言わず続けるぞ、闇夜。文句は言わせない。一分一秒も時間は惜しい。この時間を使って力を付けて、……マスターのお役に立つ!覚悟しろ!》

《断る。というか言いながらはどうだん連発するな。当たってしまったら私の命が危ない》







ドドドドドッ!と朱翔は遠慮無く手加減無しに赤い色を放つ得意技の一つでもあるはどうだんを闇夜に向かって連発する。闇夜は闇夜で得意な回避力と素早さを駆使して降り懸かるはどうだんを避けていく。ちなみに言うが闇夜がこの技を食らってしまったらかなりの致命傷でもあるから色んな意味で危ない

一向に自分の攻撃に当たらない闇夜に苛つきを覚えたのか小さく舌打ちをする朱翔。今度は接近戦に持ち込もうと思ったのか攻撃の手を止め、脚力を付けて素早く闇夜との間合いを詰める。組み手の再開だと言わんばかりに腕を振り上げる朱翔に、闇夜はやれやれといった様子で組み手で対抗しようと己の腕で攻撃を受け流そうとした


――――その時、ガキィン!と強い金属音が響いた








《――――――…朱翔、闇夜の言う通りだ。少しは休憩すべきだ》

《!…―――刹那か》







見えない"何か"によって遮られ、朱翔の拳は闇夜に届く事叶わず

ゆらりと姿を現れた"何か"は具現化された等身大のスプーン―――そして完全に姿を現した"ソレ"は、説明しなくてもお分かりだろう。現れた刹那に朱翔は一瞥した後、仕方無しに拳を降ろす。それを確認した刹那もスプーンを降ろし、具現を止めてスプーンを消した

刹那の無感情の瞳と無機質な声が朱翔に向けられた







《時間になっても主の元へ帰ってこないから探しに来てみれば、お前はまた闇夜イジメか。タイプの関係あまりはどうだんを闇夜に向けて放つなど言った筈だが》

《…いや、刹那、私はこれといって朱翔に苛められているつもりはないんだが》

《フン、どうせその優れた能力で私達の事を見ていたんだろう?白々しいにも程がある》

《あぁ、とりあえず一通り見ていた》

《刹那よ、見ていたら早く姿を現してもらいたかった》

《すまない、つい癖で》

《どんな癖だ、どんな》








こういった光景は、闇夜が仲間になり、朱翔も仲間になった事でよく目にする日常になりつつもあった

闇夜と朱翔、パーティの戦闘員としてよく駆り出される彼等はこうして道中で修業といって組み手等をして互いに切磋琢磨し合っていた。しかし、たまに(いや、いつも)時間になっても帰って来ない二匹を連れ戻す為に刹那が探しに行けば、大概朱翔が闇夜に向かってはどうだん連発。どうしてこうなってしまったかは以下省略

不機嫌だと言わんばかりに腕を組んでそっぽを向く朱翔。そんな朱翔に刹那は《主が心配していた》と言えばピクリと耳を震わせた








《……マスター、見ているのか?》

《いや、シンクロはしていない。だが心配していた事には変わりはない》

《…………》

《主は先程この湖の主と会っていたんじゃないのか?》

《エムリットというポケモンか。あぁ、そのエムリットと今日は夕飯を共にするそうだ。今はソイツも主のそばに居るはずだ》

《…………刹那、言っておくがエムリットはある意味では神に仕えるポケモンだと人間の間でもポケモンの間でも有名だぞ。そのポケモンをソイツ呼ばわり…》

《そうか、それは知らなかった。てっきり私は蒼華と時杜のお友達だと思っていた》

《…分かった、もう色々とツッコまない事にする》








淡々と話をする刹那に頭を抑えてやれやれと頭を振る闇夜。そうだ闇夜、色々とツッコミを入れてしまったらキリがないから諦めた方がいい

先程まで不機嫌だった朱翔が、ミリという自分の主の名前を出した事で急に押し黙る。すると急に二匹に背を向けると、《マスターが私を呼んでいるとなればすぐさまマスターの元へ!》とそう言ったものならドビューン!と弾丸の如くにその場から立ち去ってしまう

取り残された二匹はただ朱翔の走り去る後ろ姿を見つめるしかない。ちなみにコレも彼等にはいつもの光景でもあるので、置いて行かれてしまうのも、もはや慣れ









《相変わらず朱翔は力と強さと主になると回りが見えなくなるな。普段は物静かで回りの輪の中に入らないのに》

《……巻き込まれるこちらの身にもなってもらいたいものだ》

《無理もない、朱翔は人間年齢で言えばまだまだ若い。協調性のない人間の子供がそのまま成長した様なものだ》

《私の立ち位置はいつからアイツのお世話係りになってしまったんだ》








これも淡々と話す刹那に今度こそ闇夜はツッコミを入れる。しかし、二人はテレパシーで会話を成している為、傍から見れば既に姿を消した朱翔をただ黙って見つめている様なものだったりする←



朱翔は他のポケモン達と比べて、力、そして強さに固執していた



それ故に朱翔は誰よりも早く強くなりたいと修業に励むのだ。ボールから勝手に出て一人隠れて修業をするくらいに。そして彼は刹那が零した言葉通り、あまり仲間の輪の中には入らない、所謂一匹狼だった。出会った時はリオルで、まだあの時の方が愛嬌があって幾らかマシだったが、ルカリオに進化した途端にこの現状。勿論皆は分かっている為、あまり口には出さない



彼が何故力を求め力を求めるのか――――それには、理由があった

悲しい悲しい、辛い理由が











《闇夜、私達も主の元へ戻るぞ》

《あぁ》













力を求め、強さを極める

君はどうして力を求める?







(その眼は一体、何を見てきた?)


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