「そういえばゼルジース、あのガイルと名乗る執事の姿が無いが、置いてきていいのか?それにお前は仮にも総監の立場だ、こっちに来ても大丈夫だったのか?」

「あぁ、別に問題はねぇよ。アイツには俺の代わりに仕事を任せてある。本部の仕事より俺はこっちを優先したいんでな、いい身代わりだってことだ」

「…総監がそれでいいのか」

「よくねーな」

「開き直るな」









「―――あの、ガイル様……総監は……」

「総監は今、席を外しています。用があるなら私が引き継ぎましょう(……ゼル様、何度も言う様に総監のお立場を考えてから動いてもらいたいと何度言ったら分かるのでしょうか)」






総監の仕事<<<<(越えられない壁)<<<ミリ優先思考回路

犠牲者はガイル




―――――――
―――――
――











「――――……おかしい。僕はまだ夢でも見ているのかな?



 ドッペルゲンガーがいる」

「「ぶっとばすぞ」」







シンオウからやってきた四人がリビングに案内され、席を外すカツラとミナキを待っていた時だった

寝起きのマツバが現れた






「うそうそ、ゴメンって。今寝起きみたいなものだからさ、許してくれよ。………久し振りだね、皆。こうして会うのはもう二ヶ月振りになるのかな?」

「ったく…久し振りだな、マツバ。今回の件はサンキューな」

「話は聞いた。よくやってくれた、マツバ。ゆっくり休めたか?」

「お陰様でね。元気そうでよかった。…本当だったらミリちゃんも一緒だったらよかったけどね」






久々の再会、そしてミリの手持ちを見つけてくれた礼も兼ねて握手を交わしていく三人

二ヶ月前以来の再会。マツバと握手を交わしたレンは黒い笑みを深め「マツバ、俺をシンオウに行かせた事…忘れてねーからな」とガチガチと握力を強くするのを忘れない(マツバはヒッと悲鳴を上げそうになっていた

まあそんな冗談にも取れない冗談を交わしつつ、マツバは―――実際に会うのは初めての人物達に向き合う






「ナズナさんとゼルとはこうして会うのは初めてだったね。マツバです、よろしく」

「改めてナズナだ。マツバ、礼を言わせて欲しい。お前の千里眼の力を信じていた」

「信じていてくれてありがとう、ナズナさん。そう言ってくれると嬉しい」





画面上だけでしか会っていなかったマツバとナズナ。互いにどんな人物かは認知済みとはいえ、ミリを介して対面するものだと思っていたマツバは「まさかこうして会えるとは思わなかった」と苦笑を零しながらナズナから差し出された手を握り返す

ナズナもまた同じ気持ちだったのか、「仕方が無い事だ。今度はミリさんが居る時に改めて紹介してもらおう」と苦笑を零していた






「ったく、この俺にドッペルゲンガーって言ってお咎め無しなのはお前等くらいだ…まあいい。マツバ、ミナキにも伝えておいたが改めて言ってやる。総監として、お前の事を評価したい。お前の奮闘、このゼルジースが見届けた」

「総監にそう言ってくれるとなんだか恐縮してしまうね。ありがとう、ゼル。……、握手はしてくれないのか?」

「甘い。そう易々握手するほど俺は安くねぇよ」

「残念。次回に期待しよう」





この流れでいけばゼルとも握手を―――と思って手を差し出したマツバだったが、ゼルはその手を取る事は無かった

立場がそうさせているのかは分からない。特に気にしていないマツバは笑い、代わりにゼルの肩を軽く叩いた。ゼルからの反応は無かったが、その表情は小さくニヒルな笑みを浮かべていた


と、そんな時だった








「―――おやマツバ君、おはよう」

「マツバじゃないか!どうだ?すっきりしたか?」

「まあね。…サカキさんは?」

「別室で手持ちポケモンをパソコンから引き取り中だ。その内に戻ってくるだろう」

「そうか…。それじゃ僕が眠っていた間に何処まで話が進んだか教えて欲しい」

「いいとも。コーヒーでも飲んで聞いてくれ」







淹れてくれたコーヒーに口を付けつつ、マツバは自分が眠っている間にあった先程の話をカツラから聞くことになる

驚いたのはサカキとミリの関係性だ。11年前に出会っていて、息子シルバーの姉代わりとして二ヶ月間過ごした間柄。記憶が忘却されてしまったが、【氷の女王】の一件で断片的であり思い出しつつ、半年前に思い出せた―――【盲目の聖蝶姫】と同じ現象が起こっていた事に驚くマツバであったが、かといってこの話を否定する事なくすんなりと受け入れた

サカキがこの場にいたら少なからず驚いていたのは間違いないだろう





そして暫くすると――――その噂のサカキが全員がいるリビングに現れた









「―――戻ったぞ」

「やあ、サカキさんおはよう。それからおかえりなさいなさい、お父さん」

「……………、お父さん?」

「そう、お父さん。サカキさんはミリちゃんのお父さんみたいな存在なら僕らにとってもそうさ。カツラさんがおじいちゃん、長男がナズナさんで次男がゴウキさん、三男が僕で従兄弟がミナキ、それから可愛い可愛い末っ子がミリちゃんさ!…あ、けどサカキさんの息子のシルバー君が加わる事でシルバー君が末っ子になるって事か。まあそれはそれで楽しい話だよ!」

「マツバ…お前なぁ…」

「突然その話を持ってくるのかお前は」

「見ろ。首領が固まっているぞ」

「ハハッ、改めて聞くとかなりの大家族だね。養うサカキも大変だ」

「…………、なるほど。お前達が言う"家族"とは、そういう意味だったのか…」

「察しがいいね。でも悪くはないだろ?」

「………。だが俺はそこまで養える余裕は無ければお前達は既に成人している。自分達の事は自分達でやれ。俺はシルバーとミリで手一杯だ」

「手厳しいなぁお父さん」

「まさか公認するとは…」

「そうだ、ナズナは長男だから俺のパシりにしても構わないって事だな?昔みたいに」

「首領、勘弁して下さい」








「………おいレンガルス、なんだこのよく分からねぇ家族設定は」

「俺が知るかよ。殆どマツバの暴走から始まった事だ。話が飛躍過ぎて大家族になっちまってやがる」

「面白いだろう?そうそうゼル、ちなみにレンはミリ姫の恋人設定だ」

「愚弟テメェふざけんな殺す」

「愚兄ゴルァ話に翻弄されんな」

「ちなみにゼルはレンとは生き別れた双子の兄、一目惚れしたミリ姫を弟から奪おうとする設定にしようかと悩んでいるところだ」

「なんだそのドロドロな展開になりそうな設定は。却下だ却下、ミリが聞いたら困るだろ」

「ククッ、あながち間違ってねーな。いずれミリ様は俺が貰い受ける事には変わりはないんだからな」

「…あ゛ぁ?なんか言ったか愚兄野郎…聞き捨てならねぇな」

「フッ、愚弟の分際でこの俺とやるのか?あ?」

「だからお父さんは許さないになるんだぞ――――って聞いているのかそこの二人。仲がいいのは構わないがバトルだけはするなよ」








ミリがいたら笑っていた光景






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