サカキから打ち明けられた話は本来なら理解に苦しむ話でもあったのは事実。サカキ本人もそれを分かっていた上で彼等に説明するのをためらった。しかしレン達はこの話を受け入れ、サカキという存在をも受け入れた。たとえ悪業高きロケット団の首領とはいえ、今はただの一般人、ミリが信用し信頼した相手―――信用に値してもいいだろう。レンは、ゴウキは、ゼルは、サカキの存在を認めた

少なくてもサカキの話はミリの過去や不思議な能力の手掛かりになったのは確かで、"今回"の―――【聖燐の舞姫】と【盲目の聖蝶姫】の関連性に重要な役割を担う事になるだろう。たとえ仮定とはいえ、核心を持つ彼等の中でこの話はさらに真相に近付けるものになったはずだ

とりあえずこの話は一旦保留にし、話は見つかったミリの手持ちのポケモン達に戻る事に――――








「ミリ様の手持ちが見つかった事は内密にしろ。コウダイとジンにはこちらから伝えるが、他の奴等に他言はするな。奴等の居所が掴めていない以上、安易に行動は慎んだ方がいい。『彼岸花』にとって俺達の行動は筒抜けだ、暫くカツラの研究所で治療させた方がいい。本部からジョーイを派遣させる」

『…奴等の手がこちらに来る事はないのか?』

「ナズナや本部で色々調べた結果、少なくともカントーには奴等の放つ怪電波は無い。野生のポケモンに襲撃される心配はねぇ。が、仮に奴等がお前等の前に現れたら―――叩き潰せ。そしてミリ様、『彼岸花』のアジトの居所を吐かせろ。やり方は任せる」

『分かった。それに元首領がいれば百人力さ、安心してもいい』

『任せろ。吐かせるのは得意だ』

『…分かっていると思うが、犯罪すれすれのところまでだぞ?本気を出すのは』

『……、分かっている』

『棒読みに聞こえるぞ』






ゼルという総監からの指示を受け、今後の方針を固める

『彼岸花』は高見の見物を徹底し、自分達の行動を嘲笑っている。とにかく奴等にはミリのポケモン達の存在を知られるわけにはいかない


それから、と

ゼルは話を続ける






「ミリ様の手持ちのポケモン達の容態を直にこの目で確認したい。今からそっちに俺のサーナイトのテレポートで行く」

「「「!!」」」
『『!!』』

『おぉ!ゼルがこちらに来るのか!大歓迎だ!マツバも驚くだろう!…そもそもゼルのサーナイト、シンオウからこちらに飛べるのか?』

「俺のサーナイトは全地方へのテレポートを可能としている。現に本部からこっちに飛べてんだ、カントーなんぞ余裕だぜ」

『…それは凄いな。流石は総監のポケモン、と言った方がいいか?』

「当然。俺をナメるな」

『ナズナさん達はどうするんだ?』

「あ?お前等は此処で待機だ」

「ふざけんな連れてけ」

「ハッ!レンガルス、それが人にものを頼む時の態度か?」

「ふざけんな連れてけ」

「ふざけんな改めろ」

「…俺達もそちらにいく。そのつもりでいてくれ」

『歓迎するよ』





それから一言二言会話を交わし、全員カントーに行く事が決まり、一旦テレビ電話を切る事に

プツンと切れた回線。大画面が一気に真っ黒に染まる。一気に静寂に包まれた部屋の中、用はないと踵を返そうとするゼルに―――ナズナは静かに問い掛ける






「…待て、ゼルジース」

「あ?何だよ」

「……お前、まさかあのイーブイ達を…」

「フッ、何の事だか。そもそも俺は――――あのイーブイ達に用は無い」

「「……………」」

「…お前、何がなんでもしらを切るつもりか?」

「何度も言わせんな。お前等の言いたい意味が俺にはサッパリだ。それ以上の追及をするんだったら、こちらも黙っているわけにはいかねぇぜ?」

「…ミリが戻ってきてもか?」

「……フッ、何の事だろうな」






相変わらずゼルの意図は読めないまま

総監の立場として振る舞うも、こちらが戸惑うくらい友好的な姿勢になる時もあれば、手のひらを返す様に権力を振り翳す

こうして四人で集まったとしても、一線が引かれているこの関係。レンとゼルは相変わらずギスギスしているし、ナズナとも腹の探り合い、唯一ゴウキが対等に接している辺りまだ救いだろう。これがもしミリがいたらどうなっていたか―――




ゼルは腰からボールを取り出し軽く投げた

現れたのはサーナイト。優美に現れたサーナイトは静かにゼルの後ろに控え、主と指示を待つ







「サーナイト、仕方無ぇからこいつらも一緒にカントーのふたごじままでテレポートだ」

「サー」

「その前にすまない、義母さんに出掛ける事を伝えて起きたい」

「そうだったな…一言声を掛けてやらねば」

「つかゼルジース、お前靴はどうするんだよ。一旦こっちに戻って帰るつもりか?顔を出すついでに靴も取りに行くぞ」

「……………。別に靴の存在を忘れていたわけじゃねーからな。サーナイトに回収させようと思っていたところだ、勘違いすんじゃねぇ」

「(図星か)」

「(図星だな)」











* * * * * *













目を閉じると思い出す

かつて六年前―――悪夢にうなされていた主の姿を





弱い身体を震わせて

見えない何かに怯える姿

強く立派にあろうとする普段の姿とは全く違う




何故主が苦しみ続けたのか

何故主が怯え続けたのか




結局ミリの口から真相が語られる事はなかった

しかし、悪夢にうなされているミリの口から、うわ言の様に苦しむ声を確かに聞いていた






「――――ヤメ、テ……おね、がい…よばないで……わたし、は……あなたたち…なん、て………しらない……」








タイミングが悪かったのだろう

悪夢にうなされて、

悪夢に苦しみ続け、

忌々しい事件に遇い、

愚かな人間達の討伐を遂行し、


どんどんミリの心は闇に堕ちていってしまう




しかし―――――








「――――……闇夜、私は君の事は知らない。けれど君の瞳に嘘偽りは無い事を信用し、白亜と黒恋を守って欲しい。今、頼めるのは君しかいない。お願い、出来るね?」







自分の知る大好きな笑顔で

自分の知る温かい抱擁で


ミリは笑う、優しい微笑を浮かべて









「――――また会いましょう、闇夜」























《――――…………》

「――――おはよう。目が覚めたみたいだね、闇夜。よく眠れたかい?」

《…マツバか。久し振りによく眠れた。…お前の方は?》

「お陰様でね。これ以上眠ってしまったら逆に眠れなくなりそうでね」

《…他の人間達は?》

「違う部屋にいる。…僕はそろそろ行こうかと思っているけど、君も一緒に行くかい?」

《………いや、此処にいる。この子達の傍にいてやりたい》

「分かった。また後で」

《あぁ…》






懐かしい記憶と一週間前の記憶の中に揺れていた闇夜が目を覚まして真っ先に目に入ったのは、窓から差し込む月光。差し込む一筋の光の先には、金色の髪をした男性がこちらを見つめていた

それがマツバだった。マツバも寝起きだったのか、何処か口調は緩やかだ。軽く会話をしたマツバは闇夜を置いて先に治療室を後にする

闇夜は静かに治療室を見渡した

聞こえるのは仲間達の傷を癒す液体回復保管機の機動音と、心拍数を湿す様々な機械。コポポ、と呼吸の気泡が零れる音が静かに治療室を響かせる。闇夜は保管機の前に立ち、酸素ボンベやチューブに繋がれた仲間達を見上げる

彼等は静かに眠りについている。しかしピクリとも動こうとはしない姿はまだまだ安心出来ない

視線を移す。次に目にしたのは白亜と黒恋の姿。包帯に巻かれ、ブランケットに包まれた二匹は規則正しい呼吸で深い眠りについている

闇夜は小さく安堵した









《……主、無事でいてくれ》







二匹の身体を撫でながら


闇夜は一人、月を見上げて主の無事を祈るのだった









(貴女は強くて)(弱いから)



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