サカキは全てを話した

当時まだロケット団を結成していないしがないトキワジムリーダーとして暮らしていた時代。まだ2歳の息子、シルバーがジムの中から居なくなった為に慌ててトキワの森に捜索しにいったら―――泣き腫らしぐずるシルバーをあやしつつ、優しく抱き上げるミリの姿があった。それがサカキとミリとの出会いだった

トキワの森に迷っていたのはミリも同じ。本来だったら此処で別れるはずだったが、ミリを気に入ったのかシルバーが別れを拒んだ。そのまま自宅に案内しシルバーと遊んで貰った後、ミリの自宅に送り届けたはずだったがミリの言う"家"は存在しなかった。呆気に取られ途方に暮れるミリの姿を見兼ねたサカキが、条件付きで少しの間お世話をする事になった

その条件は、「暫くの間、シルバーの姉になってもらいたい」

ミリはシルバーの姉として、二ヶ月間自分達と共に過ごした。気付くと二ヶ月も経ってしまったんだと驚くくらい、ミリの存在は自分達にとって欠かせない存在になっていたのは間違いない

シルバー、そしてサカキはミリとの共存を望んだ

しかし、必ず別れがやってくる





「アイツは、自分の居場所へ帰っていった。自分が生きる―――"時代"へ」








「自分でもよく分からないんですが…私、未来から来たんですよ。シルバーが……13歳になるから、多分11年後でしょうか」


「自分でもどうして過去に来たのかは分からないんですよ。ですがこのお陰でシルバーに、サカキさんに出会えた。原因はともかく、今が楽しければそれでいいんですよ。私はね」








またの再会を約束し、

サカキが見送る中―――ミリは一人、森の中へ姿を消した

森に入った後の事は、解らないまま







そして、サカキはミリを忘れた

自分でも驚くくらい、呆気なくミリの存在を忘れてしまったのだ








「アイツを思い出したのは、六年前だ。それこそアポロが俺に【氷の女王】の捕獲の提案をしてきた時だ」






写真に写る小娘相手に、何故か情が生まれた

懐かしい気持ちにもなり、時が過ぎていくにつれ次第に―――断片的だったが、確実に大切な記憶を思い出してきて





「――――…完全に思い出したのは今から半年前だ。【盲目の聖蝶姫】が世間に思い出された時期と一緒だ。それから、俺はミリと再会出来た。アイツは、ミリは、全く同じ姿をして笑っていた。オレンジ色の、ヒラヒラした服を着た……アイツらしい姿をしてな」






それこそ此処にいる全員が初めて出会った時に着ていた"あの服"で

彼女にしか着こなせない、印象的な服装をけして忘れる事はないだろう






「また会いましょう、サカキさん―――」

















「…フッ、なるほどな。ある程度は理解出来た」

『…うむ。いい話だ』

『これぞまさに家族愛だね』

「しかし、普通なら考えられん内容なのは事実」

「だから言っただろ。ミリ様の話は仮定では成り立たねぇ、追及しても無駄な話だと」

「しかし、今後を左右する大きな手掛かりになってくれた。…首領、貴重なお話し有り難う御座います」

『……声にも出せないくらい驚いた、わけではなさそうだな』





サカキは少し驚いた

この手の話は通常なら理解しがたい内容だ。初めてミリからこの話を聞いた時は驚いたものだ。けれどミリの目には嘘偽りも無いのを見て、サカキは半信半疑でありつつミリの話を信じ、受け入れた

結果、ミリと別れ記憶が忘却され―――また新たに思い出した。経緯を経てサカキもミリには不思議なナニかを持っていて、誰にも打ち明けられない苦悩で生きているんだと気付いたというのに

目の前の彼等は黙り込む事もありえないと反論するわけもなく、真摯にサカキの話を受け入れた。少なくとも目の前の彼等はこの手の話は否定的だと思っていたのに、だ



小さくレンは笑った








「今更驚くつもりはねぇさ。元々アイツには不思議な力を持っている。ソレを何度も見ているんだ、それなりに耐性は付いている」

『そうなのか?私はあまり見た事ないぞ』

「…といっても正直戸惑っているのが本音だったりするがな」

「ナズナは科学者だ。科学で証明出来ない事を認めろと言われても難しいだろう」

『仕方が無い事さ、ナズナの気持ちも分かる。それに、この手の話を拒絶してしまったら…ミリ君を否定してしまう事にもなりかねないからね』

「ミリ様を拒絶し否定をしたらこの俺が黙ってはいないけどな」

『……………』







この出会いを否定せず

受け入れた彼等の表情には笑みが浮かぶ

尚且サカキを差し置いて議論を展開しようとする彼等の姿に―――サカキは喉の奥で小さく笑う










『――――なるほどな。アイツがお前達を慕い、信用し、信頼する理由が…これでようやく理解出来た』








納得出来たサカキの表情は、何処か嬉しそうで


独白に呟いた台詞はしっかり聞こえていたらしく、全員は「当然だ」と得意げに笑った













「――――実はこういう事、よくあるんですよ。だから今更驚きはしません。受け入れています。むしろ楽しんでいたりしますよ?何事にもポジティブにいかないとね!」


「サカキさん、この事は内緒にしておいてくれませんか?―――普通にこの手の話は、人に理解してもらえないのは分かっていますから………特に"何度も過去に来ている"、この事だけはなんとしてでも内緒してもらいたいです。お願いします、サカキさん―――」













『(―――約束通り、この事は話さなかったぞ…ミリ)』











唯一サカキが隠す真実に、全員は勿論気付かない





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