「次の話に行く前に、サカキ―――お前に聞きたい事がある」

『何だ?』

「ミリの事だ」






ちょっとした戯れはさておき


唐突にレンはサカキに言う






「カツラがお前をミリの父親代わりと言った。実際にお前は父親じゃねぇ、だが父親みたいに接していたなら分かる。そんな事よりも俺が一番聞きたいのは―――ミリとはいつ頃の仲だったのか、だ」

『…………』

「俺達がシンオウに行った後の一ヶ月前、じゃねぇな。もっと前になる。ナズナがお前に顔を出しにいく話が出た時、アイツはお前の事を知っていた。…となるとさらにそれ以前になる、と俺は考える」






「なぁ、ミリ―――」

「――――…まあまあそうおっしゃらず皆さんに会ってあげましょうよ!サカキさん照れてないで!皆さんきっと喜びますって!それから―――」

「(サカキ?……いや、そんなはずは……流石にロケット団首領まで知り合いなわけねぇはずだが…)」








「白皇の疑問も分からなくもない。普通だったらさも気にする事のない内容、人の交友関係など首を突っ込んだら埒が明かない」

「フッ、なるほどな。あの御方は特殊な存在……お前の意図が読めたぜ、レンガルス」

「まぁな」

『…、あの御方って誰だ?』

『ミリ姫だそうだ』

『……アイツは総監よりも偉かったのか?』

『私は知らん』

「ナズナ、カツラ、お前等は何か知っているか?」

「…いや、ミリさんからは特別何も聞いていない。既に俺には父親みたいな人だと言っていた。正直かなり驚いたが…敢えて追及はしなかった」

『私もナズナと同じさ。特別何も聞いていない。君達がシンオウに行った後、何回かロケット団の事について話す事はあったが、サカキについて具体的な話は何も』






言われてみたら不思議な話だ。ミリとサカキが知り合いだったという事実を

昔まではミリを知らなかった事もあり、深くは追及する事はなかった。プライバシーに関わる事にもなる為、ナズナ、そしてカツラは今までこの件に触れる事はなかった。聞いたところでミリが詳しく説明するわけもないし、「サカキさんは息子想いの素敵なお父さんですよ」と言うだけ

ナズナはサカキと会っている。サカキ本人にミリとの関係性を聞いたが「息子の姉代わりだった」と言うだけ。あまり多くを語らない二人だからこそ、今まで追及せずにいたのだ



しかし、レンは違う

情報屋でもあるレンには、そんな曖昧は通用しない






『……俺からそんな話を聞いてどうする?白銀の麗皇よ。今の件とは関係無い話だと思うが』

「フッ、話したくねぇ理由でもあるのか?簡単な事だろ?何をためらう必要があるんだ」

『…理由を知りたい。でなければ答えん』

「………父親代わりと言うお前だから言うが、ミリは記憶喪失だ。【盲目の聖蝶姫】の件は抜きにして、アイツは【聖燐の舞姫】の異名がついたバトル大会以前の記憶が一切無い」

『――――!?』

「お前が出会った当時のミリが既に【聖燐の舞姫】だったら別に聞く必要がねぇ。しかし、それよりもっと前だったら話が聞きたい。…アイツの為にも少しでも手掛かりが欲しい」

「……………」





ミリには記憶が無い

流石にサカキはそこまで知らなかったらしい。目を張ってレンを見返した。レンを見て、ナズナを見る。それは本当の事なのか、と―――ナズナが静かに頷いた事で、事の重要さに気付いたサカキの表情は驚愕の色に染まる。しかしその表情は一瞬だけ、レンの意図にも気付いたサカキは押し黙った


レンは知りたがっている。ミリの事を、ミリの過去を

ミリが出会う様々な人達からミリとの出会いを探る事で、いつかミリの過去が明らかになると信じている真摯な姿。その道が長く険しいと分かっていながら、愛する者の為に少しでも情報を得ようとする



―――少し、レンを見るサカキの目が変わった事は確かだろう




サカキ、次に口に開いたのはゼルだった







「サカキ、命令だ。話せ、ミリ様の事を。当然お前には拒否権や黙秘権など存在しない事を忘れるな」

『…人はそれを職権乱用と言うのはご存じか?』

「ハッ、関係ねーな」

「……首領、俺からもお願いします。教えて下さい、ミリさんの事を」

「今、お前は迷っている。何を迷い、ためらっているかは知らんが、話して欲しい」

『サカキ、私の方からも頼みたい。彼等は信用してもいい。全てを受け止めてくれるはずさ』

『そうとも!』

『……………』






――――此処にいる者は、ミリの為に動いている

瞳を見れば一目瞭然。ミリに対する思いは人それぞれであるが、ミリを愛し、救い、守りたい気持ちに嘘は無い

仮に断ったところでこいつらが簡単に引くとは思えない。無理矢理でも吐かせようとする彼等の必死さが垣間見れる、そんな姿にサカキはやれやれと肩を竦めた



ミリ、お前は随分と幸福者だな。お前が思う以上に、人に愛されている

サカキは小さく笑った







『………いいだろう。しかし、お前達の望む答えになってくれるかは分からんが…そうだな、俺とミリは"随分前からの知り合い"だ』

「「「!!」」」
『『!!』』

「!…つまりそれは、【聖燐の舞姫】としてのミリではなく、【盲目の聖蝶姫】としてのミリでもねぇ。…そういう事か?」

『そう思ってくれてもいい』





【盲目の聖蝶姫】でもなければ、【聖燐の舞姫】でもない

ポケモントレーナーでもなんでもない、ただ一人の女として

だがな、サカキは続ける







『アイツは既にポケモントレーナーだった。当時ジムリーダーだった俺の目に狂いはない。アイツは立派なトレーナー、ポケモンを持っていなくてもバトルに対する熱意は俺の目を見張るものだった。実際に聞いたから間違いない、アイツは自分の事をポケモントレーナーだと言っていた






アイツは間違いないなく、【聖燐の舞姫】だった」









「――――いつかまた、サカキさんと再会出来る日が訪れたら…貴方とのポケモンバトルが出来る日が来る事を、私は切に願っています」



「私の大切な仲間達と共に、貴方の胸を借りるつもりで、正々堂々と勝負を申し込みたいです。その時は私のバトル、受けて下さいね?サカキさん―――」








『……?いまいちよく分からんが…昔に会っていながら、【聖燐の舞姫】…?』

「「……?」」

「…………」

『サカキ、もう少しそこを掘り下げてだね…』

「―――――ハッ、なるほどな。そういう事か」

『!ゼル、何か分かったのか?』

「簡単な話だ。【盲目の聖蝶姫】と【聖燐の舞姫】、この関係性は常識では考え辛い摩訶不思議な現象――――そしてサカキの件も、それと同じだと言う事さ」

「まさか、サカキも―――」

『―――お前達が何を知っているかは知らないが、敢えて深くは聞かないでおこう








今から11年前、俺とミリは会っていた。俺の息子がまだ2歳の時だった。歳も変わらない、容姿も全く変わらないまま、今の姿のままにアイツはいた』

















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