ピキッ、ピキィィィ…







パキッ―――――………















「――――…っ、………ッ!!?」









今、何が起きた










耳を霞めたのは何かの亀裂が走る音

小さな音、しかしレンの鼓膜に嫌に大きく響かせた




すると次には左手首に違和感を感じた




スルリと自分の手首から落ちたソレ

否、自分の手首から擦り抜けたのではなく、まるで真っ二つに割れて落ちたオレンジ色の腕輪





キィィン、キィィィンと響く二つの音

それは地面に落下して跳ねた、小さな小さな音…





―――それを意味するのは、












「…な、………!?」






愕然と、レンは今起きた現象が頭に認識出来なかった

どうしてオレンジの腕輪が、突然真っ二つになって地面に落ちた?

今となれば付けてないと落ち着かない程になったオレンジ色の腕輪。愛しい人から初めて贈られた、大切な腕輪。離れ離れになっている今、自分達を繋ぐ唯一の手錠でもあるソレ。本人は善意で贈ったわけだが、まさか今となれば互いを繋ぐ役目になっているなんて、きっと想像しなかっただろう。今では良い思い出だ

この腕輪は特殊な物だった。対になる腕輪が近くにあればある程、淡い光を放つ。近くにあればある程、お互いの存在を認知し、実感出来る。ミリの力の一部で構成されたソレはどういう原理で造られているかは分からない。ただ分かるのはミリにしか造れない腕輪で、世界に二つしかない大切な腕輪。レンはどんな時でも肌身離さず持ち歩き、とても大切にしていた。ミリはいないが、まるでミリが近くにいてくれる実感がレンの心を優しく包み、満たしていた

守りの保護とミリは言った。腕輪を付けていれば対象者を守ってくれる。そして探知機の役目もあるソレは、どんなに遠くにいても互いが無事な事が分かる不思議な腕輪。だから、この腕輪から感じるミリの存在を、レンは確かな核心を持ち―――彼女が無事でいると、信じていた




そんな腕輪が、割れた











「う、そ……だろ…!?」






腕輪には、もう一つの意味があった


"どちらかが身の危険に遭った時、対になる腕輪が壊れる"


半年前、それは既に起きてしまっていた

忘れもしない、あの日

低俗な奴等に襲われ、出血多量で生死を彷徨う事態に追い込まれたミリを知らせたのが、対になるオレンジの腕輪だった。あの時はオレンジの腕輪は亀裂が招じた。強く光る腕輪は今まで以上に光を放ち、まるで命の燈火を燃え上がらす様に、そして命を絶つ亀裂が真っ直ぐに入っていた…あの時




しかし、今回は違った






崩れる様に膝を着き、恐る恐る拾いあげた腕輪は―――何の光も浴びないまま、ただの残骸に成り果てていた

真っ二つに割れた、オレンジの腕輪

冷たかった。恐ろしいくらいに。あの時とは違う、まるで命が一瞬にして消えた感覚。冷たい腕輪からは、何も感じられなかった

そう、何も…














「――――そんな、馬鹿な…!」






茫然とし愕然とするレンを余所に、少し離れた位置にいるゲンが驚愕の声を上げる

ゲンは先陣切ってルカリオ二匹と共に波動を使ってミリを探していた。しかし突然声を荒げ、ありえないと被りを振るゲンと動揺を隠せないルカリオ達に回りの彼等は一体何があったとゲンに問う。困惑の表情はそのままに、ゲンは歯を食いしばって深く帽子を被った



嫌な予感がレンに追い討ちを掛けた






「っ、ミリの波動が…消えた」

「………は?」

「え、ゲンさんそれって…!」

「言葉通り…さっきまで感じていたミリの波動が、突然…突然消えてしまった。今はもう、嘘の様に…何も、感じられない」

「「「――――――ッ!!!」」」

「ッ!おい!それは本当なのか!?ミリの波動が、消えたって事は…!!」

「そんな、嘘よ!…ルカリオ、嘘よね?ミリの波動が消えただなんて、そんな…!」

「………ッ」







一キロ圏内まで、後僅かの所だった

波動を辿ってミリを追い、後少しの所でピタリと彼女の波動が消滅した。突然、まさに突然と。先程まで感じていた波動が、どうして突然消えてしまったというんだ


波動が分かるからこそ、信じたくなかった

何も言わずに帽子の唾で顔を隠すゲンを、視線を伏せるルカリオ達を―――…レンは遠くで、何かが壊れる音を聞いた気がした







「…――――、っ…ぁ…」












「―――…そういえばレン、いつもソレ…付けてくれているよね」

「まぁな。お前からの初プレゼントだしな。…返せって言われても返さねーよ。これがあればどっかの誰かさんが急に居なくなっても無事見つけ出せるんだから、なぁ?」

「あ、あははは…」







嘘だ







「…でも、嬉しいなぁ」

「何がだ?」

「だって贈った物をそういう風にちゃんと付けてくれるんだもん。くすぐったいっていうか、なんて言うか…フフッ」

「…"ブレスレットはお互いを繋げる手錠"」

「?」

「所謂、束縛アイテムだ。指輪は結婚指輪、ただ一人だけを愛するっつー意味がある。ネックレスだったら首輪だな。所有する独占欲ってやつだ。んで、ブレスレットは手錠。お互いを離さない鎖…しかもお揃いだったら尚更な」

「………………うそーん」

「何だ、お前にしては珍しいな。こういうのはもっぱら得意分野だろ?」

「…ぜ、全然知らない…!何それ初めて聞いた…!最近の若者の間にはそんなジンクスが広まっているのか…!侮れない…!」

「…そりゃお前、今まで興味がなかったからだろ?興味無い事にはトコトン興味無いからな、お前は」

「はい、おっしゃる通り。耳にも入りません」

「入れろや(でこピン」

「あたっ!」









嘘だ








「レンちゃーん、返「却下」…えー」

「だから言っただろ。返さねぇって」

「ええええ…だって、」

「だってもねーだろ。俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」

「まさかのジャイアニズム!……もしかして、最初から分かって受け取ってくれたの?」

「いや、後々になって知った。小物にそんなジンクスがあるなんてな、驚いたぜ」

「……嫌じゃない?誰かに束縛されるのって。面倒臭いとか、うっとうしいとか…」

「……確かにそうだな。前までの俺だったら死んでも御免だった。昔は色々あったからな…」

「だったら、」

「でもな、ミリ。お前だったら全然構わないと思った。束縛だか何だか知らねぇが、悪くはないって思えた。ただそれだけの事だ。…こんな事、深く考える必要なんてねーんだよ」









嘘だ









「つーか、俺達の関係は何だ?ん?むしろ当然の事だろーが。束縛も執着も相手の事が好きだったらむしろ喜ぶべき事だろ。あ?」

「Σうっ////…それは、そう…だけど…」

「…まさかお前、この俺の愛を受け止めたくないと?…へぇ、いい度胸してんじゃねーか」

「近いでーす!レンちゃん無駄に近くて無駄に怖いでーす!……でも、」










「―――…あ…………ぁ、……」












    うそ だ               







    嘘だ            







       ウソダ    





  嘘だ     










    嘘 だ       















う   そ   だ















「あぁあああぁあああああーーーーッッ!!!!!」











「……わ、私もレンの事…大好きだから……多少の束縛は、許してね」

「…上等」











頼む、誰か嘘だと言ってくれ


夢だったら、醒めてくれ


こんな悪夢はもう―――見たくない






大切なものが、消えてしまう夢なんて











「なら、ちょっと束縛めいた台詞を一つ」

「ん?」

「この腕輪、絶対に外さないでね。絶対の絶対の、絶対。私の代わりにレンを守ってくれる。どんな時でもきっと役にたってくれるはずだから。」

「…それ、全然束縛にもなんねーし、むしろそれ忠告だろーが。…一体どんな言葉が出てくるのか期待してたんだけどな。まだまだだな」

「お願い。…ね?」

「…守られるのはガラじゃねーが、言われなくてもそのつもりだ。…だったらミリ、お前も絶対に外すなよ。絶対、亀裂を入れる真似もするな。…いいな?」

「…大丈夫。だって、レンから離れなければいいだけの事だから」

「フッ、そうだな」












腕輪はもう、色を失い黒色に変色してしまっていた――――…
























リーン…


リーーーーン……








鈴は鳴る

警告を鳴らす


最初の鈴の音は、いつ鳴った?











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