ヒヤリと肌を擦るのは目の前に広がる氷結された山々から放出される冷たい冷気。ただでさえシンオウは寒いのに、冷気のせいで何度か気温が下がり、肌を差した。キラリと輝く、広範囲に凍りついた巨大な氷の山はけして自然で出来たものではなかった 目の前で、淡く光るスイクンの姿。自分の記憶にある、あのスイクンとは違った色をしたスイクン。これがスイクン本来の、優雅で高々しい姿 その後ろに控えるのは――― 「よくやった。この数を相手によく此処まで耐えたな」 「「「ゴウキさん!!」」」 「ゴウキさーーーーんッ!アンタ仕事休んで何してたのさでもここぞって時に現れるゴウキさんちょーカッコいいよ憎い!」 「おおおッ!本物の鉄壁の剛腕じゃん!マジで!?うっほーマジかよサインくれサイン!いや違うなバトルしてくれよ!」 「…ま、何がともあれ無事でなによりだ」 「レンさんんん!?」 「てか白銀の麗皇!?ええええ嘘でしょ!?行方不明だって聞いていたあの麗皇!?マジ!?」 「ス、スズナがいたら凄まじいテンションだったわ…!」 「ススススイクン!?」 「テメェこの野郎レン!ここぞって時に現れんなよこの野郎!何テメェおいしい所持ってってんだよ!」 「そうだ死ねこの野郎!」 突如現れた、第三の介入 レンとゴウキの存在に、全員は驚きを隠せなかった 突如北風と共に目の前に現れた二人。そして従えるのは、本来言い伝えられている本物のスイクン。二人の登場に驚くのに、まさかスイクンまで、そしてスイクンから放たれたぜったいれいどの技で強制的に停止させた惨事に驚かされるばかり 助かったとばかりに羨望の目差しを向けられるゴウキの反面、お化けを見た様な反応を見せられるレン。多種多様な反応を示す彼等を、二人は見向きもせず彼等全員を見渡す しかしゴウキは眉間に皺を寄せ、レンは舌打ちをした 「………」 「…………舞姫の姿が見当たらないが…アイツは無事、だろうな?」 「!!そうだよミリの姿が何処にもねーじゃねぇか!」 「そういえば先輩の姿が見掛けませんね」 「何処かに既に避難しているとか」 「いや、アイツの事だから此処にいて一緒にバトルしているはずだ」 「ダイゴさん、シロナさん、ゲンさん…ミリさんは?」 「………」 「っ……それは、」 「………っ」 「…?おいお前ら、」 「―――…ミリは此処にはいねーよ」 「「「!!?」」」 「…残念だが此処に来る前、お前が住う別荘を見させてもらった。既に襲撃に遭ったのか別荘は半壊。舞姫の姿が見当たらなかったからお前達の元にいると踏んでいた。…そうであって欲しいと思っていたがな」 「「「―――!!?」」」 「ちょ、ちょっとそれ本当何ですか!?あの高級別荘が半壊!?嘘でしょ!」 「おいおい…!それってマジやべーんじゃねーか…!?」 ゴウキの言葉に後から加勢した彼等は息を飲み、どんどん表情を真っ青に変え、驚愕の色に染め上げる。デンジとオーバは堪らずにバッと別荘のある方角へ顔を向け、視線を向ける。ありえない、そんな馬鹿な、と 此処からは別荘は見えない 黒に染まり薄く星明かりが見える景色だけ 一体何があった、そう二人は言葉無しに視線で訴えるとダイゴは苦汁を飲んだ顔をしながら先程あった出来事を語った。ロケット団が現れ、今はもう氷になった凶暴なポケモンを使い自分達を足留めし、戦っている最中に別荘が爆発 全員愕然としていた。苦く、そして疲労を浮かべたダイゴは自分の無力さにただただ拳を握り締めるばかり。シロナも憔悴しているのか地面に膝を着いたまま、動こうとはしない。余程堪えてしまったのだろう。守りたくても結果が結果。氷から放つ冷気が無慈悲にも二人の肌を刺した。とても冷たかった 諦めるのはまだ早い、そう言葉を言ったのはゲンだった 「ミリは無事だ。私が彼女の波動を見失う訳がない。私が必ず、彼女を見つけてみせる」 「そ、そうだ!ゲンさんは自称波動使いだ!聖蝶姫の居場所なんてちょちょいのちょいだぜ!」 「こらバグ、自称は要らない自称は」 「ゴウキ、君も気付いているんじゃないか?私は波動、君は"気"…遠くにいても彼女の気を気付かないわけがない」 「………」 ゲンは空を見上げた 空はもう、暗い。自分達を照らしているのは淡い光、キラキラと輝く星々と燦々と輝く三日月の光が唯一世界を照らしている。海を見れば光に照らされ海原がまるで宝石箱の様に静かに輝きを放っていた 空と海は綺麗で美しい判明、どんどん冷え込んできている。シンオウはただでさえ寒い。海からくる吹き曝しの風は本当に身を刺す以上に冷たい とにかく早くミリを見つけなければ 沈黙が広がった 「――――…ダイゴ、シンオウチャンピオン。お前らうなだれてないでさっさと立ち上がれ」 今まで黙っていたレンが口を開いた 「―――…レン、」 「まだお前らのポケモンは動けるはずだ。さっさと移動出来るポケモンを出せ。お前らがそんな様子だと他の奴等に示しがつかねぇだろ」 「レン…っすまない、全ては僕の…」 「…気持ちは分かるが、今はミリを救出する事だけを考えろ」 「…………」 「ミリは無事だ。ミリは生きている。ミリの手持ちにはアイツらもいる。アイツらは別れ際に俺達に約束した、『絶対にミリを守る』ってな。…俺はアイツらを信じている。勿論、ミリもな」 「「………」」 レンは左手首に煌めく腕輪に触れる オレンジ色をしたソレ。距離がある為かまだ淡い光は見せてこない。しかしレンは感じていた。ミリがまだ無事な事を、ミリがまだ生きている事を。腕輪にヒビが入っていないのが何よりの証拠 あぁ、そうだ、とデンジも声を上げた 「俺はアイツを信じる。俺達の知っているミリは誰よりも強い奴だ。そんなアイツが、ロケット団なんかに負けるはずがない。絶対に」 「あぁ、ミリはチャンピオンだ、ポケモンマスターだ!アイツが強い事は俺達が一番知っている!」 「そうですよ!あの聖蝶姫がそんなロケット団だかポケット団なんかに負けませんよ!」 「だよな!だってあの聖蝶姫だからな!ちょちょいのちょいでボッコボコだろーな!」 「先輩ならきっと無事です。信じましょう、先輩を」 「シロナさん、ダイゴさん、皆の言う通りですよ!お二人こそがミリさんの無事を信じないとミリさんが悲しみますよ!」 「……えぇ、そうだったわ。私ったら本当に情けないわ。ミリを信じてこそ、私達は仲間よ。くよくよなんてしていられないわ!」 「…あぁ、そうだね。そうだったね…後悔するなら後ですればいい。今は目の前の事だけに専念しよう」 レンの叱咤、そして仲間からの励ましに瞳の光を戻した二人を見て、ゲンとゴウキは目線を合わせ静かに笑う それからゲンはまた空を見上げ、瞳を閉じた 波動でミリの居場所を探り始めたのだ。ルカリオと同じ能力を持っている彼だからこそ出来る事。彼の瞼の下にはどんな光景が映し出されているのだろうか 暫くするとゲンの瞳が開かれた。早速「どうだった?」と答えを聞くゴウキに、ゲンは頭を振った。ミリのいる方角は察知していても、距離が離れ過ぎていた。波動は最高一キロ圏内…それよりも遠くにミリがいる。それだけは確かだ 十分だ、そう言ってレンはスイクンの背に跨がり、ゴウキは腰からボールを取り出してフライゴンを繰り出した 後に続いて残りの彼等も腰からボールを取り出し、空へ投げる。放たれたボールからは自分達の手持ちのポケモンで、飛行移動が可能なポケモン達。ボロボロだったダイゴのエアームドやシロナのトゲキッスもいたが、どうやらまだやれる気だ。彼等はそれぞれの手持ちに掴まったり跨がったりなどして、レン達の後に続いた 目指す場所は―――ミリの元 バサリと羽ばたく音が大きく響いた 「ミリがいる方角は此処から北西…ファイトエリアの方角だ!その道中に必ずミリはいる!絶対に!」 「よーしだったら誰が一番早く聖蝶姫見つけられるか勝負だ!」 「その勝負乗った!負けないもんね!」 「全員遅れをとるんじゃねーぞ!」 「行くわよ皆!必ず、必ずミリを救うのよ!」 「「「「あぁ!!」」」」 「「はい!」」 しかし、そのひたむきな思いと揺るがない希望が呆気なく打ち砕かれるまで あと、すこし――――… (お願い、無事でいて) |