小さくもアポロの指から零れた音はこの沈黙の中では嫌に響いた 草むらから、岩陰から、海から続々と降って湧いて出て来る野生のポケモン。巨体なポケモン、小柄なポケモン様々に、どのポケモンもギラリと眼を鋭く光らせ、牙をギラつかせていた 狙う先は勿論、ミリ達へ 彼女達に牙を向けるのは、230番水道に生息する野生のポケモン達だった。彼等もまた、『彼岸花』の魔の手によって操られてしまっていた。ミリは形良い眉を寄せ、続々と自分達を囲む彼等を静かに見つめていた クスリとアポロは笑う 「お前には後でゆっくり話がしたいものですよ。お前が何故、そのミュウツーを従えているのかを。お前とナズナ様との関係もね。…美味しい紅茶なんかと一緒にね」 「あら、お茶のお誘い?嬉しいですねぇ、ですが気持ちだけ受け取っておきます」 「おやおや、遠慮深い方ですねぇ」 「「ブィィィィ!」」 「…」 「キュー」 《やはりこの者達も操られているか》 「………」 「それから……あぁ、お前にこの者達の説明はしなくてもいいですよね。先程そのミュウツーから意味深な話を聞きましたし、お前の事だからこの者の状態などすぐに気付いているでしょう」 「…………」 ランスは腰からボールを取り出し、夜空へ放り投げる。アポロも同様に腰からボールを取り出して夜空へ放り投げた リズム良く放たれたボールから、五つの光りが現れる ランスから放たれたボールは二つ、現れたのはゴルバットとマタドガス。アポロから放たれたボールは三つ、デルビルとマタドガスとヘルガー ランスは笑う アポロも笑った 不敵に、笑った 「―――…女王、必ず貴女を倒しますよ。覚悟しなさい!」 ポケモン達はミリ達に飛び掛かった * * * * * * ボーマンダを戦闘にして現れたのは デンジとオーバ、―――そしてヒョウタとナタネとリョウとバグの計六名の仲間達だった 「こいつらは俺達が引きつける。ヒョウタ、ナタネ、三人を避難させろ!サンダース、エレキブル、動きを封じろ!でんじはだ!」 「ブースター、ブーバーン、デンジに遅れを取るなよ!かえんほうしゃだ!」 「俺達も兄貴とデンジに負けねーぜ!ヨノワール、シャドーボール!ネンドール、すなあらしで閉じ込めちまえ!」 「僕の事も忘れないでよね!へラクロス、つばめがえし!ビークイン、ぼうぎょしれい!そしてこうげきしれい!」 「「「グオオオォォオ゛オオッッ!」」」 ダイゴとシロナとゲンの前に立ち、率先してバトルに加勢するデンジとオーバとバグとリョウ。彼等もまた二体のポケモンを繰り出し、その実力を存分に奮い始める ヒョウタとナタネ、そしてボーマンダは彼等三人の元へ駆け寄った 「皆さん!大丈夫ですか!?」 「皆…よく来てくれた!ボーマンダもよくやった!」 「ガアアッ!」 「助かったよ、いいタイミングで来てくれた!」 「ゲンさんのボーマンダのお陰です。ボーマンダが来てくれなかったらどうなっていたか……今さっき父さん達に連絡しました!父さん達もこちらに向かっています!後は僕達が戦います!」 「シロナさん、ダイゴさん、ゲンさん!回復薬を持ってきました!今の内にポケモン達の回復を!」 「ありがとう、でもまだ…私達は戦えるわ。早めにこのバトルを終わらせて、ミリを助けに行かないと…!」 「「!!」」 「おいチャンピオン!ミリは今何処にいる!?一緒じゃなかったのか!?」 「っ、ミリは…」 「ミリは今、…別の場所にいる!とにかく今は此処を乗り切るんだ!」 空はもう、暗い これ以上バトルを続けてしまったら、奴等の思う壺だ 心配の矛先はやはり此処にはいないミリの事。波動で無事だと分かっているとはいえ―――あのロケット団がいる。ミリを捕らえる為にシロナとダイゴの足留めをさせた彼。もしかしたら今、ロケット団の襲撃に遭っているかもしれないのだ ―――急がなくては ゲンは目の前で戦う仲間の背中に向かって叫んだ 「皆!聞いてくれ!そのポケモン達は何度倒しても立ち上がってくる!ロケット団に操られているんだ!」 「っだろうな!こいつらまた立ち上がったぞ!」 「ロケット団?…あぁ、あのお騒がせ集団か。また妙な事をし始めやがったのかよ。道理でこいつらの様子が違うわけか。…サンダース、ミサイルバリ!」 「っおいおい!こいつら俺のネンドールの技食らってもまだ立ってんぞ!?クソッ!ネンドール、サイケこうせん!」 「ウヘェなんかまるでゾンビみたいだよ!ビークイン、パワージェム!!」 「しかしこれ以上戦ってしまうと彼等の命の危険がある!操られているとはいえ、先程からダイゴ達の技を食らい続けた!身体には相当の負担がある!…無暗に強い攻撃は控えるんだ!」 「Σってマジかよ!流石にこれだけの数に攻撃しないで防御しろってか!?ちょっと無理あるんじゃねーか!?」 「でもやらなきゃこのポケモン達が駄目になるんでしょ!?ならそれこそやらないと!」 既にこの時点で仲間のポケモンは敵のポケモンを戦闘不能にさせ、勝利を収めていた しかし彼等もまたポケモンの様子がおかしい事に気付いたのだろう。地面に叩き付けられてピクリと動かなくなったポケモンが、またムクリと起き上がっては自身の身体を顧みずにまた飛び掛かってくるポケモン達に、リョウはヒクリと口を引きつらせる。さながら最近ゲームで遊んだゾンビゲームみたいだ そもそもシロナとダイゴのポケモン達の攻撃を受け続けてまだ動けるなんて。いや、だったら二人のポケモンもよくこんな数を相手に戦えたなと逆に感服するが デンジは舌打ちをした 「最善は尽くしてみるが…そんな事をちんたらやっていたらミリは勿論俺達のポケモンの体力がやべーぞ。エレキブル、でんじは!」 「ヨノワール、ナイトヘッド!…なぁ、操られているなら操られている元を倒した方が手っ取り早いんじゃねーか?」 「だけどソレは何処にあるんだ!?」 「俺が知るかよ!」 攻めのバトルではなく、守りのバトルをしろ つまりはそういう事だ。しかしそういう戦法ほど難しいのだ。相手はまさに自分達を殺さんと殺気立っている。技の一つ一つにも勢いがある。長いバトルも限界がある バグの言う通り、操られているならその元凶を壊せばいい。そう、その方が手っ取り早いし、こんな残酷なバトルもしなくて済む―――…しかし、壊したくてもその元凶が見当たらなかった。そもそも彼等ポケモン達は―――何に操られて、どうやって操られたのか 今の自分達には、彼等を止める術は無い 苦渋を強いられた状況。戦場を乗り切る方法が無い今、バトルでしかない。ヒョウタとナタネ、そしてシロナとダイゴとゲンもバトルに望もうとした ――――…その時だった 「―――…いや、方法なら一つある」 「そいつらを止めるには、全ての機能を封じるしかねぇ」 強い一陣の風が、吹いた 二つの声の後から押し寄せた、北風 あまりの強い風に全員は驚き、おもむろに顔を腕で庇ったり地に足を踏み締めてなんとかやり過ごす そして風が止み、全員が前を見て―――驚愕の表情を浮かべた 「「「「「!!!!」」」」」 「え!?」 「嘘っ!」 「どうして此処に!?」 「お前らは…!!」 「詮索は後にしてくれ。今は奴等の解放が先だ」 全員と敵の間に庇う様に現れたのは、二人の男 風で白銀色の髪と漆黒の髪が、靡く そして二人の前に優雅に、そして堂々と立つスイクンもまた―――クリスタルの額を輝かせながら、咆哮を上げた 「白皇、」 「あぁ、分かっている …―――スイクン、ぜったいれいど!」 ピキィィイイィイッ――… また世界が、凍った → |