「―――――…こちらランス、指示通りあのチャンピオン達を引きつける事に成功。続いてアポロとも合流しました。次に行動に移ります」






静かに無線機に語りかける、緑色の髪と浅葱色の瞳を持つ男、ランス。彼の隣りに立つのは水色の髪と露草色の瞳を持つ男、アポロの姿

リゾートエリア全体を一望出来る山の上に―――彼等は遠くに見える戦闘を、ただ静かに眺めていた






「現在、捕獲対象は攻撃を逃れ逃走中。別荘に到着した時には消息が不明。彼女が今いる位置を―――……なるほど、そうですか。分かりました、今からそちらに急行します」





ピッ…







「――――…あの攻撃から逃れられるなんて、彼女は相当悪運が強い方ですね。それで、彼女は今どちらに?」

「リゾートエリアとファイトエリアの間にある、海に囲まれた離島に身を潜めているそうです。…まぁ、彼女があれしきの事で死ぬ方ではないと思っていましたから、特に驚きませんでしたが」






あれしきの事、そう言うランスは視線をある方角へと向ける

遠くに見える丘の上には、相変わらず激しいバトルが繰り広げられている。先程一人の人間が彼等チャンピオンと合流してバトルに加勢していたが、だからといって計画には何の支障もない。彼が放ったボーマンダも特別追い掛ける事はせずに見過ごした。計画に支障もなければ、自分達の任務は達成しているから

その丘から視線をずらし、とある場所を見る

先程までもくもくとたちこめていた黒い煙を放出していた、高級な別荘。今はその黒煙も収まり、破壊された部分がむき出しになっている


そこには、そう、彼女がいた

盲目の聖蝶姫、そして氷の女王である彼女が









「運良くあのイーブイ達が彼女の元へ辿り着き、間一髪の所へ脱出出来たのでしょう。…それに彼女にはあの【三凶】もいます。抜け出すなんて造作もない。…しかし、それにしては被害が一室だけで済んだ事について疑問が浮かびますが…まあ別にいいでしょう」

「その【三凶】ですが、先程ナズナ様の元へ任務遂行する際に私も彼等を見ましたよ。【冷徹ノ氷帝】と【紅き悪鬼】、そして【沈黙の暗殺者】を」

「っ!!……ナズナ様の元に?」

「えぇ、お前の報告書通りでしたよ。あれには圧巻、そして圧倒されました。流石に彼等を目の前に戦える術はありませんでしたからね、退かせて頂きましたが―――…何より驚くのが、彼等は我々の存在を既に知っていた事です。流石に私も驚きましたよ」

「!!!」






やれやれと肩を竦めるアポロに、ランスはその浅葱色の瞳を驚愕の色に染めてアポロを凝視した



久々の、かつての上司。彼等に警告を、そして警告とは違い命令の為に別行動をしていたアポロ。優利に立っていた立場だったが、第三者の介入によって離脱するはめになってしまった先程の出来事







《我が主が気付かないとでも思っていたのか?それは大きな間違いだ。主はカントーの船が出航する前からお前達の存在に気付いていた。何かがシンオウに潜んでいる、と。その時まではその"何"が何なのかは分からなかったが…―――我々を放った事で、我々が独自で調べた事によって発覚した。お前達という、存在を》









アポロは自分の手持ちのマタドガスのえんまくと、デルビルとヘルガーのオーバーヒートによる粉塵爆発を利用した

あれしきの技で彼等を倒せるなんて毛頭考えてもいない。むしろナズナの事だからアポロが繰り出す技の意味を瞬時に気付くだろうと踏まえて。めくらましの為に繰り出した技は逃走の為の時間稼ぎには十分だった。技を繰り出した後、戦闘を離脱し、こうして無事にランスと合流出来たというわけだ。あんなに危険な技を繰り出したのに意外とピンピンしていたのはこういう事だったりする








《精々お前の仲間に伝えるといい。我々は全て、お見通しだという事を。お前達がどんなに奇襲を掛けたところで、主はけして負ける事はない》




















「こちらに向かう際に既に彼等には連絡を入れておきました。あちらもあちらで相当驚いていた様子でしたがね。ですがあの三凶と彼女が離れ離れになっている今、彼女を捕らえる絶好のチャンス。計画には特別支障はありませんが、問題は彼女と三凶が合流してしまったら――――――……ランス、大丈夫ですか?」

「……えぇ、まあ。ただの武者震いです。気にしないで下さい」

「…武者震いのわりには余裕のない武者震いですね」






ランスの手は震えていた

否、身体を震わせていた

自嘲を浮かべるその表情はけしてただの武者震いで片付けられる表情ではなかった。追い詰められた、余裕の無い表情。震える手を無理矢理押さえ付けるランスの額にうっすらと汗も浮かんでいた


彼がこのような状態に陥ったのも、全ては氷の女王の所為だった






「―――……この震えが、今日で収まるなら…私は何でもしますよ。震えだけではありません。彼女が見せる悪夢からも、抜け出せれるなら…それこそ私は何でもしますよ」

「…………ですが失敗して今以上の悪夢を見るはめになっても私は知りませんよ」

「…覚悟の上です」

「そうですか」






肺の奥から息を搾り出し、小さく息を吐くランスの浅葱色の瞳には―――暗い影が差し、その奥に潜む黒い感情

震える手はそのままに、自嘲気味な笑みを浮かべたままランスは腰からボールを取り出してゴルバットを繰り出し、「早く終わらせましょう」と言ってゴルバットの足を掴んで飛び立つ



昔のランスならありえなかったその様子を、アポロは哀れな目を向けながら肩を竦めた















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