崖の上に、一匹の黒い獣がいた スッとしたシャープな顔 鋭さを持った眼と耳、目尻と目頭 口角に浮かぶ赤は歪んだ笑みを浮かべていた 「――――――……」 めざめいしのような神秘的な青をした瞳は、オレンジの残像を追い掛け地を走った ――――――――― ―――――― ――― ― 天に向かって伸びるのは黒煙 大きな煙が青天に向かってもくもくと登っていく様は、何処か不釣り合いだった 「――――…ふぅ、とりあえず間一髪。お陰様で嫌でも目が覚めちゃったよ〜」 「「ブィィィィ…!」」 《………》 別荘の、上空 黒銀の色の身体、光りを浴びて光沢を光らせるダークライが、その腕でミリを肩の上に抱き上げた状態で浮遊していた 「ブイ…!」 「ブィィィィ…!」 「ダイゴさんの別荘が大変な事に…!別荘だからといっても大変な額になる高級別荘が無惨な姿に…!あとで直さないと怒られちゃう…!」 「「…ブーイ」」 赤橙色のワンピースを揺らし、長い漆黒の髪を靡かせながら下界に見える惨状に冷や汗を流すミリ。状況が状況なだけに、何処か抜けた言葉を漏らすミリを、腕に抱かれている白亜と黒恋は流石にツッコミを入れる 二週間となれば見慣れたこの別荘。何か強い衝撃を食らった外壁は崩れ、半壊しそこから黒煙がたちこめていた。半壊した場所は最も端にある部屋―――つまりミリの部屋が、崩壊していた 誰かが、ミリを狙ったのだ 《―――――……本来なら巻き込まれていたところだった。主よ、一体何をした?》 「時を止めたの。君が私達の身体を抱き上げて逃げる時に、こっちに迫ってくる攻撃の時間を少しの間だけ止めたんだ。後は被害が拡大しないように…私の部屋は当たるのは確実だから、皆の部屋だけは守ろうかと思ってね」 しかしそれでも凄い被害だなぁ〜、とミリは別荘を見下ろす ダークライの言う通り、本来なら敵の攻撃が衝突し、確実に大きな被害になっていた。勿論、中にいたミリ達も巻き込まれていただろう。いくらダークライとて、打開する事は出来ない。勿論、ただの人間だけでも しかし、ミリは違う 敵の攻撃だけを数秒程停止させた後、被害の事を考えた上での被害防止の為のバリアーを張った。こうして無事に助かり、被害が部屋一室だけで助かったのは奇跡やまぐれだと思われがちだが―――ミリは先の事を見越して己の力を、敢えてそう思わせる様にしたのだ。そうすれば悪運が強いと思われるだけで済む。長年培った知恵と経験のお蔭だ 「それよりも、今の技は多分…はかいこうせん。距離もそう遠くはないから、まだ近くに敵はいるかもね」 一体、何処の誰がこんな真似を 狙いは確実に、自分だ 敵は自分の命を狙っている事は間違ない。技に迷いなんて感じられなかったから。まぁ命を狙われる事は慣れているから今更驚く事はしないけど 問題なのは相手が一体誰なのか、だ ――――…しかし、まさかこんな時に襲撃されるとは迂闊だった。折角の、自分を歓迎してくれるパーティが開催される、この日に襲撃されるなんて 「…―――――私は、ただ静かに暮らしたいだけなのになぁ…やんなっちゃう」 「ブイブイ!」 「ブイブーイ!」 「うん、そうだね。シロナさん達が心配だけど…今あの二人、出掛けているみたいだし。二人を巻き込まない為にも此処を離れた方がいいかもね。…ダークライ、この場から離れよう」 《私の名はダークライではない。私にはしかと、自分の名がある》 「…………、そういえばさっきから私の事を主だと言っていたね。…君があの夢で出て来た子だと初めて見た時はすぐに気付いたけど…―――今はこの話は後にしよう。それで?君の名前は何て言うの?」 《私の名は、闇夜だ》 「闇夜…そう、君の名は闇夜。いい名前ね」 闇夜<あんや>。ダークライは自分の事をそう言った 何故、このダークライは自分の事を主だといい、自分の隣りにいて、夢の中へ干渉したきたのか。それは今の状態じゃゆっくり理由も聞けない。とりあえず、このダークライだけは敵じゃない事だけは確かだ。金色の瞳は、強く真っ直ぐにこちらを見ている。先程からの言動、そして爆発から守ってくれた事からも、彼は味方だという事が分かる 闇夜―――暗い夜、月のない夜。しんげつじまに出没するダークライには、確かにピッタリの名前だろう。本当の由来までは、まだ分からないが 正直、今この現状はダークライの存在は有り難かった 「白亜、黒恋、そして闇夜――――行こう。もしかしたら戦う場合もあるから、そのつもりでいて頂戴」 「「ブイ!」」 《あぁ》 ミリを抱えたダークライは空を飛んだ → |