突然現れたのは

此所に居るはずのない存在



―――緑色のミュウツー、刹那だった








「――――…こ、れは…驚きましたよ。緑色のミュウツー…あの試験管に眠っていたミュウツーが意思を持って独自に行動し、テレパシーで会話を成し…私の前に立っている。いや、驚くのはそれだけではありません。緑色のミュウツー…別名【沈黙の暗殺者】。何もない場所から姿を現わすその脅威は、どうやら報告書通りというわけですか」






アポロが刹那を見るその露草色の瞳には、驚愕の色が見えるも歓喜の色もちらついていた。感嘆の言葉を漏らすアポロと、突然の登場に警戒を露にするポケモン達の姿を刹那はただ静かに見返すだけ

無表情はそのままに、ブゥゥンと手に具現化されたスプーンが現れた。スプーンが現れた事は刹那が戦闘体勢に入ったという表れ。平和主義者な刹那がすぐに戦闘に持ち込む事は事態は深刻なのだろう

刹那の登場をまだ飲み込めていないナズナは、眼前に立つ刹那の後ろ姿に叫ぶ様に言葉を投げた






「刹那、お前…どうして此所にいる!?ミリさんの元にいたはずじゃなかったのか!?」






刹那はミリのパートナー。刹那がミリと一緒に居る事は当然の事

なのでてっきり、ゴウキもレンも刹那はミリと一緒にリゾートエリアの別荘でのんびりと過ごしているとばかり思っていたのだ。なのに、何故






《ナズナ、ゴウキ、麗皇。元気そうでなによりだ。その姿を見ると、どうやら主が作った服を着てくれているらしいな。きっと主もお前達の姿を見たら喜ぶに違いない》

「刹那、事態は一刻を争う。再会を喜んでいる暇はない。…早々にナズナの問いに答えろ、刹那!」

《お前達が戦闘を始める前から既に姿を消して様子を見させてもらっていた。勿論、私だけではない―――蒼華と時杜もいるぞ》

「「「!!!!」」」







ビュゥウウゥウウッ―――!!!!




突如、強い強風が森の樹々を揺らし、彼等の髪や服を強く吹かせた

あまりの強い風に全員が顔を腕で覆ったり地に足を踏み締めて耐える中―――風が収まり、改めて刹那に視線を向けて、驚愕



刹那の隣りには―――色違いのスイクン、蒼華

海色のたてがみを靡かせながら優雅に佇んでいた







「「蒼華!!?」」

「お前までどうして…!?」

「…」

「つーか時杜は何処に…」

「キュー!」






今度は可愛らしい鳴き声が一つ

ソレは蒼華の"たてがみ"の中から現れた。キラキラ淡く輝く海色のたてがみから不意にもぞりと何かが蠢いたと思いきや、紅い二本の触覚が現れ、次には見覚えの顔が現れた

何故たてがみの中から現れるんだ、時杜よ

たてがみの中から抜け出した時杜は三人の姿を見ると、嬉しそうに宙を舞った。時杜が宙を舞う度に紅く淡い光りが名残を残していく

行き着く先は、蒼華と刹那






「キュー!」

「…」

「蒼華、時杜…お前達まで、何故こんな場所にいr……時杜!呑気に手を振っている状況ではない!」

「キュー、キュ!キュー!」

「…」
「ゴ、ゴォウ…」
「フー…」

「…麗皇、時杜は何と言っている?」

「いや…アイツら二匹だけは声が分からねぇ。様子からして"元気そうで良かった"って言っているくらいしか…」

《外してはいないな》






感動の再会だなんて、そんな事を喜んでいる場合なんかじゃなかった。むしろ今は再会してはマズい状況でもあり、再会したくない状況で

三匹が登場した事でこの場の空気が変わった。それは良い意味でもあり、悪い意味でもあり―――今まで沈黙を守っていたアポロが、歓喜の声を震わせた






「……フフ、…ハハッ、ハハハハッ!まさか!まさかこんな日がこようとは思いもしませんでしたよ!スイクンだけでも驚いたところを、まさかその色違いのスイクンを見れて、ミュウツーも、あのセレビィもこの目で垣間見る日がこようとは!」






本来ならばこの場に居る筈のない第三者の乱入。"噂をすれば影"とはまさにこの事で、【三強】達本人のご登場。アポロにとって、なにより嬉しい事だろう

伝説の三聖獣の一匹であるスイクンの他にも、色違いのスイクンや色違いのミュウツー、そして幻だと謳われていた色違いのセレビィをその目で見れたという事を






「道理で妙に引っ掛かるところがありました。『S-Siro』と『S-kuro』の存在は確認出来てもお前達の存在まで確認出来なかった。推測でお前達は故郷に残したのか、それかずっとボールの中にいたのかと思っていましたが…そうですか、別行動をとっていましたか」

「…ナズナ…『S-Siro』と『S-kuro』ってまさか、」

「…あぁ。白亜と黒恋の名前だ」

「しかし改めてよく見ると圧巻しますよ。スイクンが二体、あのミュウツーに幻のセレビィ……つくづく女王は凄いお人だ。―――…まあ、その女王も私達の仲間が捕らえている頃だと思いますが」

「「「――――!!」」」






時計を見て、空を見上げて言うアポロに全員は戦闘体勢に戻る

そうだ、忘れてはいけない。刹那達の登場で驚き、緩んでしまうが―――ミリ、そうだミリの事があるじゃないか!ピンと張り詰める空気の中、刹那と蒼華と時杜はただ静かにアポロを見つめ返していた






「…」

「キュー」

《…そうか。なるほど、主との通信が途絶えたのはそのせいだったか》

「!通、信…?」

《主は今、身動きが取れない状況だ。主の代わりに私達は主の"眼"となってシンオウの土地を見通してきた。活火山が活動する山、吹雪きが荒れる山、広い大地…―――全てはそう、主直々に命令があったからだ》

「命令…!?それは一体何の命令だ!」

《我々が主の元から離れ、別行動をしている本当の理由…―――







 お前達、『彼岸花』の存在を暴く為だ》

「「「「!!!」」」」











これにはアポロも耳を疑った







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