「ハピハピ、ハッピー」

「ミルミル、ミルー」

「あぁ、悪いね君達。…よし、これならパーティに行っても恥ずかしくない恰好だ。とりあえず時間になるまでタンスに掛けておくとして、だ…。次は忘れ物がないかを確認して、あぁそういえば薬も持って行かないと…」

「こぉー」

「ハハッ、すまないね。楽しみな事があると早めに準備したがるんだよ。年寄りの悪い癖さ。…さて、待ち合わせまで後一時間…喫茶店の中で迎えを待とうか、皆」

「ハッピー!」
「ミルー!」
「こぉー!」








亀裂が生じるまで、あと少し


―――――――
―――――
―――










高級ベッドに眠る人間の身体の上には薄い毛布が掛けられていた。毛布に包まれた身体は規則正しく呼吸で上下に動いている。ふわふわの毛布に全身を包み込まれている人間は、身体は気持ち良さそうに眠っているも、その顔はけして良いものではなかった。何かを耐えている様な…とにかく不釣り合いな表情を浮かべていた


人間の寝ているベッドの隣りには、一つの黒い影が人間を見下ろしていた


真っ黒い肢体、しかし影にしてみれば黒になりきれていない色をしている身体。光沢でキラリと全身が光るその色はまさに銀色…黒銀の色をしたその身体。首には青い色を、その金色の瞳はただ静かに目の前の人間を見下ろしていた



このポケモンは―――ダークライ

黒銀色の、ダークライだった







《………―――――》







ダークライは知っていた

今この人間の意識は、何処に向かわれているのかを


人間の影に潜り込んでから―――否、それより随分と前からこの人間の行為の意味を知っていた。知っていれば、実際に自分が人間の"眼"となって戦場を駆け巡った事もある。視界を失ったこの人間にとって必要不可欠なもので、この"眼"が無ければ自分達は此処まで強くなれなかったに違いない

しかし、今となれば過去でしかない






《―――――…起きろ、》






そして過去に感傷している場合なんかではない

ダークライは気付いていた



この人間を狙う、不届き者の存在に







《起きるんだ。このまま此処で"ソレ"をしていたらお前の身が危うくなる》






バリトンの声色で、ダークライは囁く







《起きろ。我が―――…主よ》







黒銀の大きな腕を伸ばし、人間の頬に触れる

まるで壊れ物を扱う丁寧さで、けれども何処か不器用にスルリと頬を滑らせる。目を細める金色の瞳には、昔の栄光が駆け巡っていた。懐かしむ様に触れていた頬が、ピクリと反応を示した







「……ん……?」

《おそよう。随分と長い昼寝だったな》

「んー、なんじ…?」

《少なくとも予定していた三十分以上は眠っていたぞ。しかも眉間に皺を寄せた、けして気持ち良く眠っている表情ではなかった》

「あー、ん〜まぁそんな細かい事はきにす…







 ……るよぉおおおお!!??」






フカフカの布団にまどろみ、二度寝をしようとした人間―――ミリはパチクリとその漆黒の瞳とダークライの金色の瞳がかち合った瞬間、マッハの勢いで飛び起きた

しかし足場を崩してしまったらしく、ベッドから転げ落ちてしまう。ドテーン!とまるで漫画の効果音の様な転び方をしたミリを、ダークライはただ静かに見つめていた






「ダダダダ、ダークライイイイイイ!?は、初めて見た超カッコいい!じゃなくて何でこんな所にダークライが!?え!?嘘でしょ!?握手して下さい!」

《テンパっているな》

「いやいやそりゃ誰だってテンパ…おおお喋った!テレパシー出来るんだね!声カッコいいね!いや存在がカッコいいね!」

《…。そんな事よりも早く此処から出るぞ。敵がすぐそこまで迫っている》

「は、敵って…」


「「――――ブイブイ!」」






ミリが何かを言う前に、扉からロケットの弾丸の如く白と黒の物体が飛び出してきた






「あ、白亜と黒恋。おはよう、ちょっと見てよこのポケモン!ダークライっていうんだけど超カッコいいよねー!刹那ちゃんと並んだら超絵になっている事間違ないって!」

「ブイブイ!」

「ブイ!ブイブイ…ブイ!」

「え、今それどころじゃない?…え、ごめん今すっごく寝起きで君達の声がブイブイしか聞こえない。ブイブイだけど」

「「ブイブイ!ブイブイ!ブイイイイ!」」

「あだっ!!?ちょっ、グフッ!?………くっ…見事なとっしんありがとう今のでちょっと目が閉じ掛けたかな逆に…!」

《―――…その二匹の言う通り、今は遊んでいる場合ではない。早く此処から脱出してこの場から離れなくてはならない》

「!、一体何が…」

《お前を狙う奴等が、すぐそこにいる》







そうダークライが言うや否や、

キラリと、窓に何かが光った



ハッとミリが窓に視線を向けるも―――時は既に遅かった








ドゴオオオォォンッッ!





















爆音が、轟いた






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