シロナとダイゴが戦闘に転じた丁度その頃


こちらもまた、森全体に雄叫びが響き渡っていた






「先陣を斬れ!ハッサム、シザークロス!エルレイド、サイコカッター!」

「キノガッサ、きのこほうし!ジバコイル、いやなおと!ハッサムとエルレイドの補助に回れ!」

「奴等の動きを封じろ!アリアドス、くものいと!デンリュウ、ほうでん!くものいとに巻き付いた奴等もろとも感電させるんだ!」

「お前達、彼等に容赦は無用です。好きなだけ暴れてきなさい」

「「「「グオオオォォオ゛オオッッ!!」」」」






普段、シンジ湖からフタバタウンまでの小道は平穏で穏やかなポケモン達が身を隠してひっそりと活動をしていたのに―――見渡すばかりのこの、とてつもなく凶暴で凶悪なポケモン達は、一体何処から現れたというんだ

相手の存在に驚愕し、相手の話す内容にも驚愕し、会話に集中し過ぎたせいもあるかもしれない。気付いたら自分達の回りには、確実に此処に住むポケモンではない、否、ありえないポケモン達が牙をむき出しにして、自分達を囲んでいたのだ。確かに、確かに百歩譲って会話に集中し過ぎた自分達の失態だと言おう。だが―――だからと言って殺気ただ漏れで、この数のポケモンに、どうして気付けなかったのだろうか



開始された戦闘。四方八方から無慈悲に繰り出される相手の攻撃。窮地に立たされた三人は互いに背を預け、それぞれ自分の手持ち二匹のポケモンで持ち込んでいた。凶暴なポケモン達より実力や実戦が勝っている彼等のポケモン達の方が押しているも、倒しても倒しても敵は止まらずに彼等に牙を向け続けた。一匹倒れたら後ろに控えるポケモンが、また倒れたら後ろのポケモンが、と―――逃げるつもりは毛頭ないが休む暇もなく繰り返されるバトルに内心舌打ちをするばかり






「――――…キリがないな、一体此処には何体のポケモンが隠れているんだ。アリアドス、動きを封じろ!ナイトヘッド!」

「俺の方はこれで軽く十匹は倒したんだがな。終わりが見えん。ジバコイル、広範囲にでんじはだ!」

「エルレイド、連続してサイコカッター!…つーかコイツら、さっき倒した奴までまた倒している気がするんだが、これは俺の見間違いだと思うか?」

「奇遇だな、こちらも同じ事を思っていた。戦闘不能になった者達が、何故かまたこちらに迫っている。キノガッサ、やどりぎのたね!」

「しかもこの者達、操られている。やはり奴等が発生していた電波のせいだろう。すると…麗皇、このポケモンは神隠しにあったポケモンか?」

「あぁ。アイツらの話だと主に実力が断然高かったり、群れの主だったりしたらしいぜ。…だが、野生のポケモンにしてはコイツら無駄に強いな。電波で何かされてんのか?」

「そう考えてもいいだろう。あの装置が発動されているなら尚更な。効果に関しては詳しく調べなければ分からないが…しかしこれ以上戦うとこの者達の身体が悲鳴を上げて、やがては命を落とす。その前にも片を付けないと。…デンリュウ、でんじほう!」

「これ以上戦い続けたらエルレイド達にも負担がくる。ちんたらとやっている場合じゃねーか…エルレイド、もう一度連続してサイコカッター!」

「ジバコイル、ちょうおんぱだ!混乱している隙にキノガッサ、マッハパンチ!」

「アリアドス、足下をもう一度狙え!くものいと!デンリュウ、かわらわり!それからアイアンテール!」






バトルは激しく、あくまでも冷静に戦う彼等の目には目の前に立ち塞がる敵の違和感を見抜いていた。戦っても戦っても、どんなに急所を打ち込んだり効果有利な技を食らわせても、戦闘不能になってもおかしくないはずなのに―――倒れてもまた立ち上がるその不自然さ。不死身なのか、はたまたゾンビなのか分からないしぶとさである






「―――――…やれやれ、この数でまだ此処まで粘れるその根性は呆れを通り越して尊敬しますよ。一筋縄ではいかない事を改めて上に報告するべきですが…まぁ、あちらが先に殺られるか、こちらに限界がくるか―――何処まで持ち堪えられるか見物ですね」






少し離れた岩の上、足を組んで悠長に燦然たる光景を眺める―――このバトルを仕掛けた張本人であるアポロがクスリと笑いながら観戦していた


上、とは一体誰なのだろうか


しかし今の彼等にはアポロのしみじみとした呟きの意味を考えている暇はない。いや、むしろアポロの呟きも雄叫びや爆発音等で耳にすら入っていない。攻撃がぶつかる鈍い音、金属音、迸る電流の雷音、叩き付けられた音、攻撃と攻撃がぶつかる爆発音、そして雄叫びという悲鳴を上げ続けている野生の凶暴なポケモン達――――…様々な音が、空気を揺らし、地面を揺らした








"―――――……て"



"―――――…けて"








ドサリと、また一匹のポケモンが地面に倒れた。エルレイドの鋭いサイコカッターを食らった、野生のチャーレム。苦痛の表情を浮かべて地面に倒れたチャーレムの身体はもうボロボロで、限界だった。ボロボロなのは回りのポケモンも同様に、彼等全員攻撃によってボロボロになっていた

倒れたチャーレム。ピクリとも動かなくなったと思いきや―――また立ち上がるその姿。身体の軋みさえも厭わずに立ち上がるチャーレムの表情には、先程の様に苦悶の表情は見られない。またもや攻撃に転じて己の拳を振り上げるチャーレムを、今度はキノガッサのマッハパンチを食らい、飛ばされていく

彼等に、痛覚というものは存在しないというのか








"―――いたい、いたいよ"



"―――いやだ、たたかいたくない"




"―――くるしい、くるしい"






"―――だれか、だれか…"











た す け て …… …













「――――……エルレイド、ハッサム。一度ボールに戻れ」

「「!」」

「おや、躍起が回ったのですか?白銀の麗皇という者が、この状況で試合を放棄するなどと」

「馬鹿野郎、誰が試合を放棄すると言った。いい加減こんなくだらねぇバトルをちんたらとやっているつもりはねぇ――――…コイツらには、コイツ一匹で十分だ」






突拍子のない行動を突然し始めるレンに驚くゴウキとナズナ、そして目を細めるアポロをそのままに、戦っていたエルレイドとハッサムをボールの中へ戻し――…腰からまた、一つのボールを取り出す

開閉ボタンを押し、空高らかと投げ付け開かれたソレは光りと共に敵の前にその姿を現す。パアァアッ、と光りが弾かれたそこに現れたのは―――――…淡く煌めく光、波打つ紫色のたてがみ、美しい肢体、額にある輝かしいクリスタル


そう、スイクンだった


優雅に威風堂々と現れたスイクンは、目の前に立ち塞がる敵に負けない咆哮を上げる。伝説のポケモン、強者として放たれた咆哮は特性のプレッシャーと共に威圧を与えた。スイクンの登場に攻撃を止めるポケモン達、そして岩に座っていたアポロは思わぬスイクンの登場に目を張るも、品定めするかの様にクスリと小さく笑った






「四年前姿を現し、また姿を消したジョウト地方伝説の三聖獣の一匹…―――噂では誰かの手持ちになったと聞いていましたが、そうですか、貴方だったのですね。ですが今更になってスイクンを出して来たところで、勝敗は決まった様なものですが?」

「さぁて、どうだろうな。その余裕こいたツラが一体どんな風に歪むのか、見物だな」

「おい白皇…」

「お前ら、ポケモンを戻して下がっていろ。巻き添えを食らいたくなければ尚更な」







スイクンの額にある大きなクリスタルが光り出した

咆哮が、また一つ上がる




パチン!とレンは指を鳴らした







「スイクン、ぜったいれいど」

















ピキィィイイィイッ、と世界が凍った







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