「あーら?随分と優しい…いえ、随分と余裕なのね。私達を前にして、一体どこにそんな余裕があるのか是非教えて欲しいわねぇ。…ガブリアス、キガインパクト!」

「ククッ…いえ、別に余裕なんて。捕獲するのが一緒になるだけで、何の支障はありませんよ」

「あら、それは私達を倒した事を想定して言っているのかしら?随分と舐められたものね。…ルカリオ、あくのはどう!」

「ボスゴドラ、いわなだれ!…お前の狙いは盲目の聖蝶姫と言っていたが、どうやってミリの事に気付いた?何故ミリを狙う?お前の目的は一体何だ?…メタグロス、ラスターカノン!」

「ガブリアス、メタグロスに続けてりゅうのいぶき!ルカリオ、よーく狙うのよ!きあいだま!」






白亜と黒恋が戦闘を脱出し、自分の主であるミリの元に駆け出してからすぐに、また戦闘が開始された



まるでランスの言いたい事が常に分かっている、いや分かり過ぎている野生のポケモン達の行動。ボールにも入らない彼等が、何故ランスに完璧なまでに服従しているのか。バトルをすぐに二人は気付いていた

このポケモン達は、この男に操られているんだと

操られていなければ、どうして戦闘不能になったポケモンがまた牙を向いてくるのか。手応えは確かにあった。二匹が従うポケモンはよく鍛えあげられているから、並大抵のポケモンはすぐに戦闘不能になってしまうが、喩えこの目の前の強いポケモンでも簡単に倒せる実力は持っているのに、何故倒れない?

ドシャリと地面に叩き付けられ、戦闘不能になったポケモンが―――本来だったら最後の一匹の筈だ。なのに回りにはまだ牙を向き、殺意を露にするポケモンの数。まだまだ四匹はやれるが、埒が明かない

クスリとランスは笑った






「やれやれ、質問が多いですねぇ。しかし、一つだけお答えしましょうか。先程の三つの内の一つ、どうやって彼女の事に気付いたか、でしたが此処最近になって知ったみたいですよ?どうやって見つけ出したかは言いませんけど」

「最近…っ、あの時か!」

「何だかその物の言い方、結構曖昧過ぎるんじゃないかしら?あなた達があの子を見つけたのに、どうして他人から聞きましたよ、な口調なのかしらね」

「まぁ、私達が見つけ出した訳ではありませんので、他人行儀な言い方になってしまいますが」






最近、ミリが初めて外出をした日があった。その日に見つけたのなら合点がいく

こうして敵がミリを狙いにやってくるなら、やはり連れ出さなければよかったのかもしれない、とダイゴは苦い思いをした






「まぁ、でも結局あそこに彼女が居る事は間違いありませんよ。一躍有名になった聖蝶姫…―――あの、氷の女王がね…」






ニタリと口角を吊り上げ、歪んだ笑みを見せるランス

視線は少し遠くにある、離れた別荘に向かれていた。そこにミリがいると揺るぎない確信が彼の中にはあった

何もかも全てお見通しな状況に、二人は平常心を装っていても、内心悪態を付いていた。こういう奴等にこそ、ミリの存在を明かしてはいけなかったのに、一番知られたくない奴等に知られ、こうして奇襲を掛けられている




此処で守らなければ、ミリの身が危ない




再度また手持ちのポケモンに指示を出そうとしたその時―――不意に、ランスが口を開いた






「――――…そういえば貴方達は彼女のお知り合いだそうですね。シンオウチャンピオン、貴方は共にライバル関係でホウエンチャンピオン、貴方はチャンピオンという上下関係…だからこそ貴方達は彼女と共に暮らしている。一番彼女の事をよく知っているんでしょうね―――…ですが、本当に貴方達は彼女の事を知っているんですか?」

「何…?」

「氷の女王、この名前は…どうやらご存じの様ですね。表で輝く聖蝶姫の名とは別に付けられたもう一つの名前……その名前が、氷の女王」

「…?確かにあの子はちょっとした事で氷の女王って呼ばれる様になったけど、あの子はあの子よ。…それが何だって言うのよ」

「ククッ……ハハハハハッ!本当に何も知らないんですねぇ、彼女の事を、女王の事を!…あぁ、そうですよねぇ…知るわけありませんよね。彼女の、裏の顔なんてね」

「…何が言いたい?」

「貴方達が見ている彼女は、本当の彼女でしょうか?彼女の笑顔は本当の笑顔?彼女は本当に貴方達が知っている彼女なんでしょうかねぇ…あの笑顔は、偽りの笑顔だったらどうします?」

「!あなた…まさか記憶の事まで!」

「記憶?あぁ…そういえば彼女、記憶が失っているみたいですね。ですが記憶の問題ではなく、貴方達が知っている聖蝶姫の事を言っているんですよ。彼女の裏の顔…女王としての裏の顔をね―――…口に出すだけでもあの時の恐怖が蘇ってきますよ…お陰様で悪夢にまで出てくれば思い返す度に武者震いが止まりません。あのダークライの技を、食らい過ぎたせいでしょうか…今となればいい思い出ですよ」






自分の手を見つめ、自分自身に呟く彼の表情は嘲笑を浮かべ―――その手は、恐怖に震えていた

それほどまでに、彼に精神的ダメージがあった事は確かだが、何故そんなに震えているのかは今のシロナとダイゴには知る術は無い



フッ、とランスは笑う







「いずれ知る事になるでしょう。彼女の本当の素顔を、あの美しい顔のの下に眠る…―――冷徹で冷酷な恐ろしい顔をね」

「「!!!」」

「ま、本当にいずれですけどね。彼女を捕らえれば二度とその姿を見る事は叶わない。ま、貴方達にはその方が良いでしょう。恐怖におののくか失望するか…ククッ、楽しくなりますねぇ」

「っ、あの子の事を悪く言う人間はこの私が許さないわ!ガブリアス、りゅうせいぐん!」






カッと顔を怒りの表情に染め上げたシロナはなりふり構わずガブリアスに命令を降す

天空に口を大きく開き、高らかと天に登った攻撃は流星群の如くに無慈悲に地面に降り注いだ。強烈な隕石は野生のポケモン達に的確に命中し、またも戦闘不能にさせる事に成功するも―――ポケモン達は、まるで不死身とばかりに立ち上がった。もはやゾンビの域だ

肩で息をするシロナに嘲笑の笑みを浮かべるランス。横目でシロナの様子に目を配らせるダイゴは―――絞る様な声でランスにまた問い掛けた






「――――…一つ、君に聞きたい」

「おや、質問には答えた筈ですが?」

「答えろ!ミリを…聖蝶姫を行方不明になった原因はお前達ロケット団なのか!?」






盲目の聖蝶姫、掛け替えのない大切な友は六年前に突然行方不明になった

原因は不明のまま、未解決となってしまった彼女の消息。その本人は記憶を無くしている為、知る術はない

ロケット団が聖蝶姫を狙っていたなら確実に消息に関与しているに違いない。ダイゴが強い口調で問い詰めれば、ランスは眉尻を下げ、やれやれと頭を振った






「残念ですが私達ではありませんよ。私達もまた、彼女を捕らえようとした一味…結局叶う事無く、彼女を捕らえる事が出来ませんでしたが」

「なら、何故今更になって彼女を狙う!?」

「ククッ…それは答えられませんよ。何せ"私達"は利害一致の関係…今の私に課せられたのは彼女を捕らえる事だけです」

「"私達"…!?何処かの組織と繋がっているのか!?しかし、ロケット団を始めとしたマグマ団やアクア団、ギンガ団は壊滅されたばかり!…他にもいるというのか!?」

「それは自分で考えて下さい。貴方達が彼女とのうのうと暮らしている間にも…―――ナズナ様達は我々の存在に気付けた様ですが」

「!!?」

「ナズナさんが…!?いえ、何故彼の事を"ナズナ様"なんて……――――まさか彼は、」

「その問いには答えられませんよ。――――…いえ、もう答える事はありません。時間になりました」

「時間…?」

「私が課せられたのは彼女を捕らえる事とありますが、実はもう一つ任務があるんですよ








貴方達チャンピオン達の―――時間稼ぎをする事ですよ」









――――ドオオォォオンッッ!!!








不敵な笑みを浮かべて言い放ったランスの言葉に続いて、一拍後





大きな爆発音が地面を揺らし、空へ轟いた









(大地が、空が、叫んだ)



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