「―――――…結局無駄な足掻きなのだよ。どんなに守りたいと思った所で、力が無ければ守りたいものなど何も守れない。その事に気付かない彼等はなんと愚かで滑稽な姿だろうか。…いやはや、本当、見ていて飽きなくて良い。腹が捩れるくらい憐れでしょうがない」 巨大なモニター画面に写る、様々な映像 薄暗い部屋、怪しく光る画面を前に立つ一人の男 胸元に光る、赤い彼岸花のブローチ 「そして気付いた時にはもう手遅れ。その事実に気付いた時は―――絶望というどん底に叩き落とされ、自分の無力さに嘆き、悲しむ。さて……彼等はどんな色を見せてくれるか、見物させてもらおう」 男は、嘲笑った ―――――――― ――――― ――― ― 水色の髪、露草色の瞳 白い服に、「R」の刺繍 首元には、赤い彼岸花のブローチ アポロは含んだ笑みを浮かべた 「――――…警告だと?」 「えぇ、警告ですよ。お前達二人だけなら別にどうなっても構わないんですが…この三人の中に、ナズナ様も含まれている。精々ナズナ様に感謝するといい、お前達という敵に特大サービスをする私をそうさせた事をね」 「「「……………」」」 敵に塩を送る発言を堂々としてくるアポロに、警戒しつつ訝しげな目を向ける コイツは一体、何を考えているのかと 話を聞く限り、ナズナとアポロの関係はロケット団絡みは勿論、親しい間柄だったのは必然。故に当時の上司の為に警告という助言をしてこようとするこの男。意図が読めない。こちらの出方を楽しんでいるのか面白がっているのか随分と余裕そうに見える レンはちらりと隣りに立つナズナを盗み見た ナズナは今もなお沈黙を守っている。だが、その灰色の隻眼は動揺の色と浮かべるも―――瞳の奥には憤怒の感情がちらついていた アポロは悠々とした態度で話を進める 「お前達はどうやら14年前に烏によって壊滅された犯罪組織『彼岸花』の調査を進めているみたいですが、私が此処で存在を現した事で疑問が確定され、断定された事でしょう。間違いはありませんよ、正解です。『彼岸花』は存在します。光在る世界の中ではなく、暗い影の中でひっそりとね」 「……なら何故今になって存在を現す?尻尾も見せない奴等だったらこのまま影の中に居続けても誰も気付かないはず」 「残念ながら彼等と手を組んでからあまり日が過ぎていない間柄、詳しい事は聞いていませんが――――ナズナ様、貴方なら私の言うこの先の言葉がお分かりになるかと」 「……盲目の聖蝶姫か」 「「!」」 「えぇ、その通りです。何故彼等が聖蝶姫の存在を求めている理由は存じませんが…つまりはそういう事ですよ。彼等は彼女の存在を知った。知ったから動き出した―――…まぁ、彼等が何故彼女を狙う理由も分からなくもありませんよ。我がロケット団も、彼女を狙って何度かホウエンまで足を運びましたからね」 「「――――!!?」」 「なん、だと…!?…ロケット団はホウエンとシンオウには活動の幅は広げていなかった筈だ!」 「おや、ナズナ様、愚問な事を聞いてきますね。確かに貴方が脱走する七年前までは南の拠点は広げていませんでしたが、時の流れで人も企業も変わるものです。サカキ様は興味を持たれませんでしたが…直属に指示をしたのはこの私です」 「っ!!」 「ランス、を覚えておりますか?彼がリーダーの小部隊でホウエンまで行って彼女の身柄を抑え、ゆくゆくはその実力を我がロケット団の為、その輝かしい【三強】達を実験体へと思っていましたが―――彼女は噂通りの実力者、結局彼女を捕らえる事は叶わなかったんですがね」 「……やはり『彼岸花』はその頃から復活をしていたのか」 「そうらしいですが、これ以上の事は黙秘します。私の警告とは別の内容になっていきますので」 これでも結構喋ったんですがね、と三人の顔の表情を楽しみながらアポロは言う 三人共苦々しい表情を浮かべていた やはり烏によって壊滅された犯罪組織『彼岸花』が存在していた自分の推測は正しかったが―――まさかロケット団までもが聖蝶姫を狙っていただなんて 盲点だった しかも―――まさかミリの存在まで知られていただなんて 「…ロケット団を抜けた今、今更どうこう言うつもりはない。しかしアポロ…お前をそんな奴に育てた覚えは無い。…見損なったぞ、呆れてものが言えん」 思わぬ衝撃が一番重く貫いたのは、やはりナズナだった。今度こそばかりはその隻眼の眼は鋭く、灰色の瞳は憤怒を露に宿した。ナズナは憤る気持ちを押さえ付けるも、アポロを睨み付け、吐き捨てる様に言い放つ 余裕だったアポロの表情が、ナズナの言葉で歪んだ 「―――…見損なった?それはこちらの台詞ですよ、ナズナ様。……私は正直幻滅しましたよ…私達を捨て、呑気に過ごしている貴方を……私達の苦労も知らず、のうのうと過ごしていた貴方を、ね」 「……………」 「ですが貴方を尊敬し、敬う気持ちは今も昔も変わりません。いくら牙を失っても、貴方が私の上司だった事は事実ですので」 一瞬見えた露草色の瞳の奥に見えた感情、それは紛れもない憎悪の感情だった。口調も苦々しいとばかりに呟くその姿、しかしその姿は一瞬だけですぐに調子を戻し、先程の余裕を見せつけた アポロは何も知らない 知らないからこそ、捨てられた喪失感や絶望感が彼の中に憎しみを生み出した。今の一瞬で、尊敬と崇拝の裏に彼がずっとナズナを憎んでいたのは一目瞭然だった 「…まぁ良いでしょう。この話はまた後ほどゆっくりお話をしましょう。私達とお前達は、いずれ対面する機会が訪れる。…いずれ、ですが」 「…どういう意味だ?」 「そのままの意味ですよ。そして、これが私が最もお前達に言い残すべき本当の警告… 我々…否、『彼岸花』はお前達の行動など全てお見通しなのだという事を」 「「「―――――…!!?」」」 全て手の内という、衝撃 → |