ふと感じた、あの波動





忘れられない、あの波動に混じる感情の正体は、













「……………」

《気になりますか、ゲン様》

「あぁ…」

「ガルル…」






コトブキシティの上空を飛ぶ、青いシルエットが一つ

それはボーマンダの背に乗るゲンの姿があった






「ルカリオ、お前も感じたか。喫茶店で感じた、あの波動を」

《えぇ。ボールの中でしかとこの目で見て、感じました。シロナ様のルカリオも同様に気付けた様ですが、シロナ様は気付いていません》

「無理も無い。彼女は波動使いではないし、何より―――彼、眼鏡を掛けている事で感情を露にしない様にしている。…しかし、私達の前には全て筒抜けだ。波動使いである、私の前ではね」






ボールの中にいるルカリオと波動で会話を交わしつつも、その鋭い目は下界にある広いコトブキシティの―――あの喫茶店を真っ直ぐ睨み据えている






「どうぞ。ご馳走様でした」

「「ブイ!」」

「――――ありがとう御座います」







普段、ゲンはあまり波動を読み取る事はしていない

波動というものは便利だ。しかし、相手の嫌な感情さえも読み取ってしまう。知りたくも無い事まで波動で読んでしまうのだ。便利だけど、不便なこの力。その事に関しては何も言わないし、波動使いとして当然の事。波動が読めるからこそ、他人と一線を引いてしまう癖もついてしまったのも事実。今更、どうこう言うつもりはない

波動の波長を読み取る事によって、人の感情に気付く故に、人の感情に敏感になる

だからこそ、ゲンは気付いたのだ







「…―――またの御来店、心よりお待ちしております」








些細な波動から読み取れた感情

アレは、一言では言い表せられない程に、様々な感情が入り交じった波動



―――…深い深い、黒い愛情







《彼はミリ様の事に気付いています。盲目の聖蝶姫である、ミリ様を》

「…勘がいい、と一言で片付けられるにしても……何故だろうか、この胸の内にある嫌な予感は」

《私も同じです、ゲン様》






あの波動を感じたから、もある

たかだか一人の波動、波打つ感情の波長など人様々だ。自分が介入する必要はないし、自分には関係無い話だ




しかし、あの波動は確実にミリに向かれていた




あの波動は、感情は…危険だ。だからこそ、気になってしょうがないのだ。彼が、もしミリの害や敵になるのではないのか、と

そしてこの思考を便乗するかの様に―――嫌な予感が止まらない







「―――…彼に関しては暫く様子をみよう。無駄な動きをして皆に迷惑は掛けられない。悟られない様にしよう」

《心得てます》

「今は私達の与えられた事をしよう。…ボーマンダ、ミオシティまで宜しく頼んだ」

「ガルルッ」






嫌な予感なだけで止どまってくれればいい

そう、思うしかない


ボーマンダは悪魔の翼を大きくはためかせ、踵を返したのだった



















「――――…彼は要注意ですね」






何処かで誰かが、空を見上げて嘲笑っていた








* * * * * *









六年前、忘却してしまった記憶の中には確かに"彼女"は存在して、彼女は自分達にとって眩し過ぎる太陽だった

届きそうで届かない光の先にいつもいた彼女。誰もが彼女の背を追い掛け、彼女の様な凄いトレーナーになりたいと切磋琢磨した。この世に様々な凄腕のトレーナーがいて、尊敬出来るトレーナーは山ほどいても、身近な存在を喩えればやはり該当するのは彼女しかいなかった

何故なら彼女―――盲目の聖蝶姫は、ポケモンマスターだから

ポケモンマスター、プロ以上の存在。ポケモンマスターこそ夢に目指す頂点だとしても実際説明してみせろと言われても上手く説明出来ない架空の王者。それが、彼女なのだ。しかも聖蝶姫という人間を、少なくとも自分達は知り合いの仲だった。知り合いだからこそ、彼女を尊敬し、憧れた。それはずっと今も変わらない


そんな彼女と、今日は初ご対面

盲目の聖蝶姫ではなく、聖燐の舞姫の彼女と






「―――…うーん、大体こんな感じってところかな?」

「流石ナタネさん!お花の装飾品を使う辺りナタネさんらしいし師匠にピッタリの飾りですよ!」

「やるわねぇナタネ!私も負けちゃいられないわ!見てよコレ!グレイシアと一緒にミリさんの小さな氷像を!凄いでしょー!」

「うわ細かく師匠が描かれていますね!流石スズナさんですね!氷の技を駆使出来るのはまさにスズナさんですよ!」

「やるわねぇスズナ!私も負けられないわ!」

「なにおう!?こっちだって!」

「二人とも熱いですね〜」

「ねえねえちょっとー、そんな事はいいからさー椅子って何脚必要だったっけー?」

「要らなくなーい?」

「要らなくなくなーい?」

「要らなくなくなくなーい?」

「「「要らなくなくなくなくなくなーい?」」」

「Σちょっとそれどっち!?」

「からかわれてんな」

「だな」

「はいはい、そこの二人もこちらを手伝って下さいね」

「「へーい」」






此処は、サバイバルエリア

サバイバルエリアにある、誰も知らない隠れた喫茶店。別名、勝負所言われる気兼ねなくバトルを楽しみながらゆっくり出来るトレーナーにとってうってつけの穴場に、彼等は居た

会場となる部屋は花をモチーフとした装飾品が綺麗に飾られ、リーグから持ち出したであろうホワイトボートには「おかえりなさい、ミリさん!」と豪華に描かれている。部屋の中には沢山のポケモン達がトレーナーの指示を受け、トレーナーと共に楽しくセッティング姿があった。どの人やポケモンも、夜のパーティが楽しみだと言わんばかりのテンションだった






「にして楽しみだな〜、早く夜にならないかな〜!早く聖蝶姫に会いたい!」

「だよな!俺も早く会ってみてーぜ!クソッ、兄貴達マジでズリィよな…!」

「本当だよね!世の中不公平だ!」

「日頃の行いが良いからだろ」

「「それはありえない」」

「…んだとこの餓鬼共がッ」

「「やーいやーい!」」

「こらこらそこの三人。口を動かす前に手を動かしなさい手を」

「へぇ、マジ凄ぇなこの氷像」

「あ!ちょっとオーバさん!その氷像に絶対に触らないで下さいよ!オーバさんが触ると解けちゃいますから!」

「いやいや、溶けねぇしそこまで燃えてねーよ!」

「(お腹減った…美味しそう)」

「ちょっとスモモ、つまみ食いは駄目だからね」

「Σ」






この勝負所にいるのは、ナタネとスモモとスズナとバクとリョウとデンジとオーバとゴヨウの八人の若者組が勢揃いしている(一人若者とは言い難い人は居るが

予定されている残りの参加者はまだ仕事がある関係、少々遅れている。本当だったら全員でセッティングをする話だったのだが、仕事だったら致し方ない。不在の大人組もつくづく大変だ。しかし、その内になったらやってくるだろう

はいはい皆さん、と年長者であるゴヨウは手を叩いた






「楽しむ気持ちも分かりますが、今はこちらに集中して下さいね。時間に間に合う様に、かつ素晴らしい歓迎会になるように頑張りますよ」

「「「「「はーい」」」」」

「「おー」」










空はまだ、青い






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