「…君達は、ミリ君をどうするつもりなのかい?」

「どうもこうも、私達は彼女を守る為に共に行動しています。もうじきスズラン大会を控えています。騒動回避の為にも、私達は―――…」

「あぁ、その話は既に耳にしている。ふむ、そうだね…言い方を変えよう。――――君達は、彼女を束縛してどうするつもりかね?」

「っ!」

「っ、束縛なんて!そんな、…そんなつもりはありません!私達は、私は…あの子の事を第一に考えて!」







自分の脳を何度も何度もリピートされるアスランと交わした一部の会話

温厚な彼からは想像出来ない相手を見抜くその鋭い眼光を、今でも脳裏から離れられない







「第一に、か。…彼女の自由を奪ってまで?」







今はその眼が、恐ろしく感じる

















「―――――…シロナさん、こんな時間にそんな所にいると風邪をひいてしまうよ」

「!ダイゴ…」

「はい、ココア。此処は夜になると極端に冷え込むからね。温まるよ」

「あら、ありがとう。気が利くのね」

「帰ってきてからずっと君の様子がおかしかったからね。大方、夕方の事だろうなって思ってさ。…当たっているだろ?」

「…参ったわ、降参。あなたに見抜かれているなら勿論ゲンやミリにはバレバレって事ね。迂闊だったわ」

「ちなみにオーバ君とデンジ君にはバレていないから安心してもいいよ」

「それこそあの二人に見抜かれたら落ち込んじゃうわ」






リゾートエリアの別荘の庭のベンチに座るシロナの元にやってきたダイゴ。手に持っていた暖かいココアが注がれたカップを差し出し、軽い会話を弾ませながらカップを受け取ったシロナの隣りに腰を落ち着かせる

カップに揺らめくココアの湯気と香り、そしてカップから伝わる熱を感じながら、ココアに口を付ける。美味しいと静かに呟くシロナを横目に、ダイゴは空を見上げた

真っ暗な空。ホウエンとは違った、でも綺麗な意味では同じ夜空。今日は天気も良く雲一つもない空だったから、夜空の星々がよく綺麗に輝いていた。少し遠くに光の群れが見えるが、きっとアレは蛍ポケモンだろう

カップを口に付けココアを味わいながら、不意にダイゴは自嘲的な笑みを浮かべた






「―――…百歩譲って、僕らがしている事はミリを束縛していると認めても…まさかアスランさんに言われるとは思わなかったよ。それほど僕らは盲目になっていた、って事だね。…笑える話だ」

「………私、ミリの為だと思ってやってきたわ。でも、それが本当にミリの為になっているのか…ちょっと分からなくなっちゃったわ…」

「君は本当にミリの為に動いている。それは僕らが一番分かっている。ミリとこうして一緒に暮らせる理由を作ってくれたのも、こうして平和に過ごせてくれているのも、ね」

「でもアスランさんの言っている事は本当よ。……束縛、か。無意識って本当に恐ろしいわ」






フフッ、と。小さく笑うシロナの笑みは嘲笑で、無理矢理作った笑みは泣き出したい顔にも見える。ココアをゆっくり飲む事で、不甲斐ない気持ちを無理矢理押し込んでいる様にも見えた

束縛、名の通り縛り付けて自由にしないこと

もし自分達のやっている行いが彼女を束縛しているのであれば、自分達はなんて浅はかな事をしてしまっていたんだろう。自分達に、彼女を縛り付ける理由なんて初めから存在しないのに






「……オーバ君が、言っていたよ」

「え?」

「ゴウキ君に言われたそうだ。蝶は人の心を奪い、魅了していき、奪うだけ奪って手が届かない所まで去っていく。蝶に魅了された者の末路、蝶を手放したくないが故に、自分が籠になって押し止どめる。それが歪んだ感情だと気付かないまま、ね――…彼らしい容赦ない拙論だ、間違っていない」

「…全くね」







「―――…君達が彼女を大切にする気持ちは十分に分かる。六年前の過ちから、大切に想うからこそ手放したくないと躍起になる。彼女はいい子だからね、それに一緒に居て居心地が良いから、執着関係無しに一緒に居たい気持ちがあるかもしれない―――…」








想う気持ちは人それぞれ違うも、ミリの事を好きな事には変わりはない。友として、きょうだいとして、仲間として、愛する者として、そう、積もる感情は人それぞれ。勿論、此処にいる五人はミリを想う気持ちは様々で違うが、好きな事には変わらない

その、大切な気持ちが、気付かない内に裏目に出てしまった

そして、アスランの言う言葉はまさにその通りだった。だからこそ、また消えない様にと、消えて欲しくないと思いに思った末の―――他人からの、指摘。アスランが言わなければ、きっと気付く事は無かっただろう






「ミリは…どう思っているのかしらね」

「…僕が見る限り、至って普通にしていて、逆に気を使ってくれているけど…………僕らの行いをを振り返ってみれば、きっといい思いはしていなかったんだろうね。特にあのイーブイ達を見れば一目瞭然さ、あんなに楽しそうな姿は初めてだ」

「そうよね、あのイーブイ達って空気読めるし賢い所もあるから…私達にずっと気を使ってくれていたって考えると…パートナーのミリは、それ以上にストレスを感じていたのかもね。…あの子は優しい子だから」

「……………」






ミリの性格を知っているからこそ、何故、どうして何も口に出してこない彼女の心情も、察せれる

まさかその優しさに、今まで以上に漬け込んでいただなんて

漬け込んでいる自覚はあるにしても、まさか知らない内に予想以上に漬け込んでいた事にびっくりするばかり。何か一つ言ってくれたら良かったのにと、思ってみるも、実際言われてもそれを叶えさせれるかどうか

本当に笑える話だ。彼女の為なのに彼女の為にもなっていないなんて






「……言われて気付いても、もう遅いかもね…」

「……いや、まだ諦める事はないよ。パーティがあるじゃないか。パーティが終わってからでも、彼女を解き放しても遅くない。元々、パーティを開く理由はジムリーダー達のお披露目でもあるけど、彼女を自由にさせる為でもあるし。…まぁ、色々条件付きもプラスされちゃうけどね」

「…そうね、パーティが終わっちゃうと私も仕事に戻らないといけなくなっちゃうからね。…その時に、謝れば…ミリは許してくれるかしら?」

「シロナさん、君の知っているミリを思い出してごらん。…彼女は、どう言ってくれると思うかい?」

「……フフッ、そうだったわね。無粋な質問だったわ」






今度こそ、自嘲気味な笑みでは無く、いつものシロナらしい笑みで、小さく笑う

段々冷めつつあるココアに口を付け、グイッとまるで風呂上がりのビールを飲む勢いでカップに入っていた残りのココアを飲み干した彼女の表情は、先程の憂鬱気味を一変させるものだった。ご馳走さま、と言いながら席を立ち、んー!と背伸びをした






「さて、と!もうこの話は終わりにしましょう!うだうだ言っていたらきりがないわ!…ありがとうダイゴ、お陰様で自分の気持ちに区切りが付いたわ」

「それは良かった。やっぱり君は元気でいてくれた方がいいよ。…それで?これから君はどうするつもりだい?」

「そうねぇ…パーティが無事に終わるまでは、今のままがいいわ。後の事はパーティが終わってから考えようと思っているわ。……結局、私のわがままになっちゃうけど」

「いいさ。…一緒に居られる日数も限られてくるし、リーグ大会も迫っている。…今の時間を有意義に過ごそう、シロナさん」

「えぇ、そうね」






そうと決まれば今日はミリと一緒にベッドにダイブ☆インよーー!と、意気揚々に家の中に戻っていくシロナを、ダイゴはやれやれといった様子で席を立ち、後を追う



不意に、空を見上げた







「―――…アスランさん、彼等は一体何が目的なのでしょうか」

「目的、とな?」

「彼等は今、私達でも把握出来ない行動を取っています。ゴウキとナズナさんはともかく、あのレンガルスまでも一緒に行動している。彼等三人が手を組んで、一体何を企んでいるのか……アスランさんなら、ご存じでしょう?」

「企み、か……企みかどうか分からないが、確かに彼等が今どういう目的で共に行動している理由は耳にしている」

「では、」

「しかしね、二人とも。残念だが今の私には彼等の事は一切話すつもりは無い。…いや、話せない、と言った方が正しい」

「……彼等に口止めを?」

「口止めではなく、これは私の判断だ。それに安易に言ってしまい、君達に不安と誤解を招きたくないからね」

「「…………」」

「まぁ安心しなさい。少なくとも君達に危害を加えるつもりはない。…ミリ君を引き取りにくる事は今のところ考えてないからね。とにかく君達は自分達の出来る行動をすればいい。彼等が何故、不可解な行動をしているか―――それはもうすぐ明かされるはずだ」





















「(一体…何が起きようとしているんだ)」








胸の内にざわめく、この不安は何?







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