「へぇ、カリまんじゃねーか」

「カリまん?」

「カリントウ饅頭の略だ。俺これ結構好きなんだよな…ミリ、お前分かってんじゃねーか。俺の好物何も聞かずに当てるなんて。よしよし、礼にオーバのカリまんお前にやるぜ」

「こらこらちょっと待ちやがれデンジ!」






時刻は午後の七時を過ぎ、夕飯を終わらせた時間帯。空はもう真っ暗で、星が綺麗に輝く夜空の中に蛍ポケモン達が仲良く空を飛び回っている

外は暗いが、別荘の中は明るい。庭や部屋の中には住人のポケモン達が思い思いに過ごしている。その中にあるリビングに、彼等は居た

テーブルの上に広げられているのは、お昼に喫茶店で受け取ったお土産の品。美味しそうなカリントウ饅頭、略してカリまん。少し時間が経っていても香ばしい匂いが鼻をくすぐる。夕飯を食べ終わったにも関わらず、喫茶店に行かなかったデンジとオーバは美味しいそうにペロリと平らげていた






「あーあ、いいよなぁ皆は。こうして美味しいモノ食えに行けるんだからよぉ。クソッ、爆発しやがれダイゴさん」

「そうだ爆発しやがれダイゴさん。一人だけ狡いぞ爆発しやがれ」

「ちょ、何で僕だけ!?」

「だってよ、アンタはこの一週間自由だったんだろー?事情は分かっていても、なあ?」

「爆発しろ」

「えええええ…」

「ハハッ、言われているなダイゴ」

「そうねぇ」

「あはは」






自分達はこうして労働して貢献しているのにアンタだけは許さん。爆発しろと恨めしそうに他の人の分のカリまんを頬張る二人に、そんな事言われてもと顔を引きつらせるダイゴを笑うゲンとシロナ

確かに振り返ってみると、この五人の中で誰が一番ミリと過ごしているかと言われれば、何も縛られていないダイゴ一人だけ。いや、裏チャンピオンの肩書きを持ち、デボンコーポレーションの副社長の名前も持つ彼も此処一週間ちゃんと仕事があるわけで。その事は重々良く理解しているも、やはりジェラシーを感じるばかりで。まだまだ遊び足りない二人には一緒にいるだけでも羨ましいのだ

ジェラシービームとばかりに恨めしそうにダイゴをチクチク突き刺す二人を苦笑しながら、ミリは手にしていたカルピスを口に含めていると、視界にあるものが入った







「あれ…なんだろ、コレ」






ミリが見つけたのは、お土産が入っていた手提げ袋に入ってあった、ソレ

透明な袋に丁寧に入っていた、蝶の形をした小さなヘアピン

アゲハントをモチーフとした、繊細で綺麗な色をしたヘアピンだった






「…アゲハントだ…」

「…?おや、それは何だい?」

「あら、可愛いヘアピンね」

「こういうシンプルで繊細な柄、結構好きだったりするんですよね〜」

「あらあら、確かにミリが好きそうな柄ね。それにアゲハントはあなたの手持ちにもいたからね。ミリにぴったりよ」

「………それは何処にあったんだい?」

「喫茶店から頂いたお土産の手提げ袋の中に入っていました」

「良かったじゃないの、きっとあの店長がオマケしてくれたのよ」

「それは嬉しいですね〜」

「……………」






嬉しそうに笑みを浮かべるミリに、中々あの店長もやるわねぇと含んだ笑みを浮かべるシロナ。しかし、対するゲンは意味深な視線を、否、鋭い眼でヘアピンを見つめ、考え込む仕草をしていた。ゲンの視線に気付いたシロナはどうかしたの?と問いて見るも、本人は何でもないよとはぐらかす

ミリも視線に気付いていた様で、二人で首を傾げる中、ミリの膝にピョンと白亜が乗ってきた






「ブイ!」

「白亜、どうしたの?何か食べる?」

「ブイブイ、ブイ、ブイブーイ!」

「…え?あぁ…このピンが気に入ったんだね?」

「ブイ!」

「そのヘアピンの大きさなら白亜にも付けてあげる事が出来るかもね」

「ですね。はい白亜ちゃんお行儀良く座ってねー」

「ブ〜イ」

「?ブイブイ?」

「あらあら黒恋駄目よ〜今白亜はおめかし中なんだからね。あなたはこっちに座りなさい」

「ブ〜イ」






何処からか取り出した櫛で白亜の頭を梳かし、慣れた手付きで耳付近にヘアピンを付けてあげる。気持ち良さそうに喉を鳴らす白亜と、ワクワクしながら見守る黒恋に、「完成」とミリは言う

白くて艶のある毛並みに、ワンポイントに付けられたアゲハントモチーフの蝶のヘアピン。またもや何処からか取り出した手鏡を見せてやれば、白亜は嬉しそうに飛び跳ねた







「ブイブイ!」

「うーん、可愛い!やっぱり白亜ちゃんは何しても可愛いよ〜!」

「あらあら似合っているわよ白亜〜!もうミリが親バカになっちゃうくらい可愛らしいわ〜」

「ブイ!」

「ブイブイ!」

「――――…お?白亜お前似合ってんじゃねーか」

「へぇー、やっぱ白亜も女の子だもんな〜」

「ハハッ、それじゃ今度色々なアクセサリーを付けてあげさせるのもアリかもね。可愛いよ白亜」

「ブイブイ!Vv」

「良かったねぇ」

「………………」









キラリと、輝く蝶のヘアピン

皆から褒めて貰って嬉しそうに尻尾を振る白亜を、ゲンはただ黙ってヘアピンを見つめていた










それは、何を意味する?






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