世界の住人になる事や

世界に溶け込む事は

簡単だけど、一番難しい

だからいつも私は焦るのだ



一番重要な物が無い事を











Jewel.06












ポケモントレーナーになりたい、旅をしたいとナギサジムリーダーであるトムさんに相談してから、約数日後。一週間もしない内にトムさんからポケモンカードを頂いた

なんて事は無い一般のノーマルカード

青色のノーマルカード。そこに記載されてある内容は本当に簡単な内容だった。私の名前と、出身地。見た目は運転免許証と似通ったものがある。後は私が顔写真を撮影し、住所を登録すれば私は改めて本籍を得てこの世界の住人になれる、という事になるわけだ。自身の手に渡されたカードの縁を指でなぞりながらぼんやりと思考を巡らす







「仮登録は済んだ。後の本登録は君が改めて本登録を済ませた後に本部に登録される」

「…本部?シンオウリーグにですか?」

「いや、そこじゃない。シンオウリーグは支部だ。正式名称はポケモンリーグ協会シンオウ支部。まぁ、シンオウリーグは一種の橋渡しみたいなものだから合っているといえば合っているが」

「…ならセキエイリーグもホウエンリーグも支部なんですか?」

「カントーとジョウトとホウエンの所か。そうだ、あっちも全て支部になる」

「支部、ですか…」








コップを磨かす音を響かせ悠然と話すトムさんに少なからず私は驚かされる。まさかリーグに支部やら本部があると思わなかったから

あくまで私のポケモンの知識はゲームで表記された内容でしかない。リーグと聞いて頭に浮かぶのは四天王やチャンピオン達、ただそれだけ。リーグ協会は所詮主人公達の最後の山場でしか無く、操作する私にとってただの通過点でしかない。こうして改めて考えてみると、思っていた組織想像と食い違いが招じてただただ驚くばかり

あ、刹那が私の食べ物食べちゃった







「支部といっても地方別に特色が様々だ。それに本部と言っても所詮形だけだ。地方の治安を守るのは結局支部だからな」

「なるほど…」

「そもそも本部が一般市民や一般トレーナーが関わる事なんて殆ど無いと言ってもいい。それだけ本部との接触が無いからだ。現にこちらの支部…私達ジムリーダーも接触は無い。お偉いさんとかが関わりがあるだけだ。あくまで規約や規則を守ってくれればいい、という言わば自由主義みたいなものだ」

「(……大手企業が支部を各店舗設立して各自勝手にやって売上立てろよ、みたいな感じかな…)」

「唯一関わりがあるとすれば個人情報登録する程度だ。ま、一旦支部に登録されて後は本部に通るから関わりはあまり無いが」

「へぇ…」








本部がそうやって自由主義を掲げているからこそ、支部は支部で自由にしたい事を出来る。面白い方針だ。それだけ支部の責任は重く、本部も支部を信用し信頼していなければ出来ない事だ

私には絶対に無理だ。そうやって見ず知らずな赤の他人を信用し、信頼するなんて

それに仮に顔見知りだからといってもそう易々と相手に責任重大な内容を与える真似はしたくない。だからつくづく本部の方針に感心すると同時に驚かされる。いつか足下掬わなければいいけど


トムさんの話を聞く限り、今の時点で私が本部に関わりを持つ事は無い事だけは確かだ







「では後の本登録はシンオウ支部へ登録すればいいんですね?」

「あぁ。…本来であればトレーナーカードという物は年齢が10でも持っているものだ。それに登録は親がするものだ、個人で自分のトレーナーカードを発行する人を見るのは初めてだからそれくらいの事しか言えないが」

「…そう、ですか」

「…………少々言いにくい質問をするが…」

「…なんでしょう?」

「…ミリ、君の親御さんは今、」

「…………………」

「…………………そうか。すまない、もうこれ以上の事は聞かない」

「…いえ、私は気にしてませんから」









トムさんが今の私の反応を見てどんな捉え方をしたかは大概察しは付く。そちらの方がどの世界でも通用出来るし、一々説明しなくて済むから私は何も言わずに沈黙を守る

両親、家族………もう諦めた存在。別にどうも思わないし、今更どうこうもしない。忘却された記憶の中に含まれたかつての存在を追い求めるなんて意味も無い事で、雲を掴む程私にとって遠い存在。だから頭から彼等の存在を除外していかないと私自身やっていけない

それにこの手の話は相手の方が質問した内容に後悔し、一瞬であれ空気がギクシャクしてしまう。黙ってしまったトムさんに小さく苦笑を浮かべつつ、提供されたココアに口を付ける。旅に出ると暫くこの馴染んだココアが飲めなくなるから、ゆっくりと、味わって







「……とにかくシンオウ支部に行って登録をしてきます。登録をしなければ始まりせんからね、私達の旅は」

「…私も一緒に行こう。色々と手続きが大変だろうし、君は盲目でもある。書類にサインする時が一番苦労するはずだ。仮登録をした以上、最後まで付き合おう」

「心強いです。是非お願いします(まぁ本当は別に支障はないから大丈夫なんだけど)……あ、私ってやっぱり身体障害者扱いになっちゃいますか?」

「あぁ、盲目だからな。見た目全然普通に見えるから目を見なければ盲目だと分からないが。その場合はこのカードの此所に印が付く」

「あらー」







今更だけど、やっぱり盲目は身体障害者扱いになっちゃうよねぇ。分かっていたけど

まぁ特別身体に障害があって他人に迷惑掛けるわけじゃないからまだ良いけれど。それにこっちの方が融通が利くから都合が良いんだよね

え?都合?

そりゃ勿論金銭的問題でしょ←







「すぐに登録したいのなら夕方になってしまうが構わないか?それまで此所でゆっくりしていけば良い」

「ありがとう御座います。ならその間…もう一杯ココアが欲しいです」

「…」
《ミリ様〜刹那がお菓子全部食べちゃいましたよー》
《早い者勝ちだ》

「後、この子達にお菓子のおかわりお願いします」

「フッ、了解した」






―――――――
――――
――








それから数時間後、トムさんの仕事が終わるまでゆっくりと喫茶店内で寛いだ後、私達はトムさんの案内でシンオウリーグ協会に足を運んだ

やはり想像した通り、ゲーム通りで行く手を阻む大きな滝、チャレンジャーを待ち受けるチャンピオンロード、そしてその先に聳え立つリーグ協会はとても立派なモノだった。ゲームとは少々異なるも、確かに威厳ある威風堂々としたものだった。しかし、聞けばリーグ大会は私の知っているゲーム方式の直接四天王挑戦!勝ち上げバトル、ではなく年一に開催される大会で優勝した者が四天王達に挑戦できる、らしい。アニメ寄り、なのかな。アニメはあまり認知してないから分からないけれど。まぁ確かに毎回毎回何万人ものの挑戦者相手にしたら四天王達が過労死しちゃうし、大会開いて一人優勝者決めたら効率が良い。やはり私が想像するモノは所詮ゲームに過ぎない事だと改めて感じさせられる

元々一般人は本来あまり滝だったりチャンピオンロードを通ったりしないし、トレーナーも修業といって来るだけで関係者以外人は居ない。中に入ればそれは歴然で、ロビーの中はガランとしていた。今の時刻は午後の五時を回ろうとしているからしょうがないかと思うけど









「――――…ではこちらに記載をお願いします」

「私が代わりに記入しよう。この子はこれでも盲目でな、見た目分からないと思うが」

「そうで御座いましたか。そうなりますとこちらの書類にも記入する項目もありますので、あちらの席でお願いします」

「あぁ、分かった」







その後の記入しなくちゃいけない書類は本当に多く、遅い時間帯にまで付き合ってくれたトムさんには本当に感謝の言葉が尽きない。書類を記載してカードに本登録を終わらせるまで軽く一時間が掛かり、ナギサシティに帰宅出来たのが結局夜の7時を回ろうとしていた

トムさんに改めてお礼の言葉を述べれば「ジムリーダーとして当然の事をしたまでだ」と笑って言った。彼は良い人だ。見返りを求める事はせず、全て好意でやってくれたのだから。「旅を楽しんで来い。ジムリーダーとして、また君とのバトルを楽しみに待っている」と言って彼は帰路に戻って行った












《ベッドだ〜!》

《ベッド…!》





シンプルで何処にでもある白いベッドに時杜は嬉しそうにダイブをする。刹那も私の荷物を置いた後すぐさまベッドに近付いていき、時杜と同じく白いベッドに腰を降ろす。蒼華は私の隣りで何やってんだと呆れた様子で、そんな彼等に私は小さく笑う

私は早速作りたてホヤホヤのトレーナーカードを使って、初ポケセンデビューを果たす事にした。今までカードが無かったからセンターを使う事は出来なかったから本当に嬉しい。…え?だったら今まで何処に居たって?そりゃ、そこは私の力でちょちょいのちょいだぜフッフッフッ(つまり気にしたら負けよ






「他の部屋は二段ベットとかだったけど、良かったぁ個人部屋で。個人部屋だったら皆も気兼ねなくゆっくり出来るもんね」

「…」
《盲目という身体障害者とやらの言葉のお蔭だな》

《ごろごろ〜》

《しかしこのベット…ふかふかしていない》

「センターにふかふかは求めちゃいけないよ〜」







私もベットに腰を掛ければギシッとスプリングが悲鳴をあげる。身体を倒してポスンと身体を横にする。時杜が胸の上にコロリと乗って来たので頭を撫でて上げる。つい悪戯心が湧き、その身体を抱き寄せて胸の谷間にギュッと押し付けてみれば想像通りアプアプあわあわと慌て始める時杜にクスクスと声を上げて笑った。ペシリと蒼華に紐で叩かれても気にしない。しかし見事なジャストフィットだった(笑

私はコートのポケットからトレーナーカードを取り出す

出来たてホヤホヤのトレーナーカード。カードは他の人と同じくちゃんと私の顔写真が貼っていた。これがあれば私は列記としたポケモントレーナーで、この世界の住人だ。きっとこれにはお世話になっていくんだろう

これは私の存在を主張する大切な物だから







「…楽しみだなぁ」









まだ見ぬ世界に想いを馳せ、自然と呟いた言葉に皆は頷き返したのだった








(戸籍や国籍の重要さを、私は一番身に染みているから)

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