かくして時は着々と過ぎていき、

時計の針はもうじき正午を指そうとしている




――――此処はカンナギタウンにある、カンナギ博物館





今日もまた、一人の初老が博物館に足を踏み入れた







「――――おやおや、アスランさん。今日も元気そうだねぇ」

「ハハッ。お互い元気そうでなによりですよ、カラシナ博士」






カンナギ博物館の館長でもあり、シロナの祖母でもあるカラシナ博士の元に近付いて来る男、アスラン

カラシナ博士は訪れたアスランを笑顔で出迎え、アスランもまた目尻を緩めて歓迎された







「久し振りだねぇ、ここんところ見掛けないからどうしたのかと思っていたよ」

「えぇ、色々用がありましてね。折角持って来た大福が台無しになるところでしたよ」

「おやおやまぁ、それは嬉しいじゃないの。後でお茶をしようじゃないかい」






ハハハッ、と二人の笑い声が館内に静かに響いた

アスランはよく、此処のカンナギ博物館に足を運ぶ。元々アスランはその人柄の良さから友好関係が広く、勿論カラシナ博士とは知り合いで、彼がシンオウに来てからよく博物館に足を運ばせていた

なのでこの会話は彼等にしてみれば日常の一部。館内にいる警備員も見慣れた様子で通り過ぎるアスランに頭を下げていた






「そういえばアスラン、身体の方は大丈夫かい?病院帰りなんだろう?」

「えぇ、まあ元気な事には代わりはありませんよ。若い子にはまだまだ負けられませんからね」

「それは頼もしい言葉だねぇ。その調子でいつかまたアンタのバトルを拝見したいものだよ………おっと、すまなかったね。失言だったよ」

「…ハハッ、気にしてませんよ」

「……アスラン、アンタ墓参りには行っているのかい?墓はおくりびやまにあるんだろう?こっちに持って来てないのかい?」

「…えぇ、ホウエンは彼等の故郷ですからね。彼等には疲れを癒す為にもゆっくり眠ってもらいたいので」

「そうかい…」






アスランと共に切磋琢磨し、アスランと共に歳を重ね、アスランを共に絆を深めあった彼の手持ちであり仲間だったポケモンは―――もう既に他界していた

病気、事故、老衰…様々な死を迎え、彼等とアスランは逃れられない運命に呑まれながら別れを強いられた。それは生きている生物には必ず訪れる、死の別れ

元々、寿命の短いポケモンだったり、身体が弱いポケモン、怪我が耐えない荒くれ者のポケモンだったりと、少なくとも死の予想が出来るポケモンが多く、一匹また一匹とこの世を去った。いつしかアスランの手持ちは誰も居なくなり、結果、アスランは一人になり、トレーナーを辞めた

それが、約二年前の事だった






「私にはこの子達が居れば充分ですよ。この子達と比べると私の寿命など全然短いものですが、今を共に歩めば私は満足ですよ」






そう言ってズボンのポケットから取り出したのは、二つのボール

開閉ボタンを押し、軽く投げてやればボールが開き、中から眩い光が放たれた。二つの光はやがて形を成し、光が解き放たれた時、ポケモンの姿が露になった

現れたのは、ハピナスとミルタンク

おやおやまぁ、とカラシナ博士は目尻を緩めて、元気良く現れた二匹のポケモンを歓迎した






「アンタにしては可愛らしいポケモンだねぇ。ハピナスとミルタンクだなんて」

「ハッピー」
「ミルゥ〜」

「まぁ老後を一人で暮らす分にはもってこいのポケモンね。この二匹、シンオウでも数が少ないのによくゲット出来たじゃないの」

「この子達はあるトレーナーから譲り受けた大切なポケモンです。…白銀の麗皇、といえば分かりますか?彼が譲ってくれたんですよ」

「白銀の麗皇?はて、誰だったっ………あぁ、シロナとの対戦を放棄したあのトレーナーねぇ。最近めっきり耳にしないから忘れていたよ。そうかいそうかい、アンタ達あのトレーナーのポケモンだったんだね」

「ハッピー!」
「ミルミル〜」






「―――アンタにこの二匹をやる。俺が手塩にかけて育てた奴等だ。バトルも強いし、日常生活でもきっと役にたってくれるはずだ。持っておいて損はねーぜ?」






そう言って、自分の手に二つのボールを渡してきた男を思い出しながら、アスランは弾力性のあるハピナスの頭を撫でる

彼は見た目に寄らずお節介なところがある。ポケモンも持たずに一人で寂しく暮らす自分を見兼ねてこの二匹をくれたんだろう。現にこの二匹はよく動いてくれる。家政婦なんて必要ないくらいにせっせと働いてくれる。確かに一人暮らしのアスランにはもってこいのポケモンだろう






「すまないね。大事にするよ」

「そうしてくれ。コイツらもアンタの世話をする事を望んでいるしな、育て屋の所でのんびりするよりアンタの元に居た方がコイツらの為だ」

「ハハッ、なら遠慮なくお世話してもらおうか。老後を共にするにはうってつけのポケモンだ」

「なら俺からも餞別に一つ」

「こおー」

「ゴ、ゴクリン?………またしても顔に似合わないポケモンを……」

「………お前、そうやってゴクリン配るの止めとけ…」

「仕方無いだろう。いつの間にか増えてしまっているんだ」

「…悪かったな。どうせ俺のせいだろ」

「…ツバキの家は一体どうなっているんだ…?」

「こほぅ」







ちょっぴり最近の出来事を回想中なアスランを横目で見つつ、しかしまぁ顔に似つかないポケモンを持っていたんだねぇ、とボンヤリ浮かぶその例のトレーナーを記憶の中から探り当てるカラシナ博士。…うん、はっきり言って似合わない。意外すぎる

自分の孫であるシロナとのチャンピオン戦を放棄した異例のトレーナーで、六年前辺りから行方を眩ませた凄腕のトレーナー。白銀の麗皇に対するカラシナ博士の認知程度はそれくらいでしかない

最近なんて全然噂すら聞かないから忘れてしまっていた、白銀の麗皇。そうか、彼は無事か、いやいやそれよりもよく彼からポケモン譲ってもらえたねぇ、とカラシナ博士は口には出さずに心の中で呟いた






「ハピハピ、ハッピー」
「ミルミル」

「おぉ、そうだったね。折角持って来た美味しい大福を是非とも食べてもらわないと。もうじきお昼の時間だから食後のお茶ウケにはもってこいだね。それじゃ…――」

「そうそう、アスラン。お昼の前に悪いけど―――アンタに見せたいお客人がいるよ」

「え?」







「―――――こんにちはアスランさん。お久し振りです」

















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