「…前々から思っていたんだけどさぁ」 「ん?何だい?」 「レンがレントラーって、どう考えたって狙っている様にしか聞こえねーんだよなぁ」 「「(Σごほっ!!!!)」」 「やめろオーバ…んな事言っちまったら俺のレントラーの名前に抵抗を覚える」 「だってよー、レンの奴が『行けレントラー!』ってボール投げるんだぜ?レンなだけに。いくら本名がレンガルスって名前でもこう…プッてくるっていうか」 「ちょ、止めてくれオーバそんな話聞いてしまったら気になって彼とのバトルが出来なくなるじゃないか…!」 「ミリが聞いたらきっと笑うわね〜」 「………何故だろうな、今無性に虫の居所が悪い」 「ガルル…」 「「「こぉー?」」」 ――――――― ――――― ――― ― けして居心地が悪い訳では無い。初めは勿論警戒や遠慮もあり緊張する日々だったが、次第にこの不可思議な日常に適応していき、一週間もすればこの生活に慣れ、親しみさえも覚えた。住めば都とはまさにそれで、大変この生活に不自由を覚える事なく過ごせてこれた 元々、様々な世界に赴き、数多な土地に足を踏み入れ、不慣れな土地に過ごしてきた事があるミリには、むしろ今の生活は充分過ぎる程だった。欲しい物が簡単に手に入り、寝る場所があり、食べ物があり、寝首を狩られる心配すらない平穏な生活。これ以上を望むなど、どれだけ傲慢な事か。寝る場所が無くても食べる物が無くても、欲しい物が手に入らなくても、どんなにこの身の命を、身体を狙われようとも安心出来る居場所さえあれば充分なのに―――此処での生活は、自分には勿体なさ過ぎた。それは勿論、此処ではなくマサラタウンの自宅やエンジュシティのマツバの屋敷やカツラの研究所だって同じ事。過酷な日々を送っていたミリにとって、帰る場所さえあればそれだけで充分だった 「―――――……やはり私には、この微温湯の生活に浸かってはいけないのかな…」 不自由無く過ごせ、充実さえ覚え、充分過ぎるこの生活を、けして有意義で満足だとは到底言えない理由がミリにはあった それは、自由だった 彼女は満足な生活を与えられた代わりに、自由を奪われ、束縛された 動きたくても動けない歯痒さに、ほとほと参っているのかその表情には苦笑を浮かべていた 「…前々から感じていたけど…どうやら私は、一人に慣れ過ぎたのかも知れないね…」 元々、ミリは常に一人だった 【異界の万人】として彼女は世界に赴く一方、彼女は一人の人間として世界にひっそり紛れ、様々に暮らしてきた。郷に入っては郷に従え、その言葉をモットーに彼女は世界に馴染み、恰もその世界の住民だと言っても良いくらいに過ごしてきた。数多くある世界で過ごしていく内に、世間一般に知られる仲間という枠に入る人間や友と呼ばれる人間と出会う機会があったものの、結局ミリは一人だった ミリは人間であっても人間ではない【異界の万人】 異端者でもある彼女には、同業者でもない限り、本当の仲間など存在しない ずっと、彼女は一人だった しかし逆を言えば、彼女は自由だった 悠々気儘に蒼空を翔び、なにものにも囚われない蝶の如く、彼女には自由があった。誰にも無い自由を、誰もが欲しがる自由を―――宿命しか何も無い彼女の、唯一の褒美だった しかしその自由は、苦しくも奪われつつあった 人間の、手によって 「何か一つ、行動を制限させられると人は多大なストレスを感じてしまう。…笑える話ですよ、こんな充実した生活にストレスを感じているなんて」 『―――…貴女は歴代の万人の中で、最も特殊な部類に入る御方。…確かに今の現状では不自由だと感じざるおえないのでしょう』 「大切な人と出会い、共に想いを打ち明け、互いに手を取り合う時点で自由は奪われたのも同然。多少の不自由は致し方ありません。認めていますし、彼と一緒に居られるならむしろ居心地が良かったから苦も感じませんでした。……前まではそんな事微塵も思えなかったのに、ね。私も随分と変わりましたよ」 『フフッ、人は常に変わっていくのですよ。ですが、今回ばかりは……』 「……えぇ。疲れますね、精神的に」 『…………』 今の状況を簡単に例えるなら、見えない柵に覆われた箱庭に居させられている様な、そんな感じ もっと簡単に、且つ率直に言えば、まさに今の生活は軟禁生活と言われてもおかしくない 団体生活となれば、勿論団体行動もあるので致し方ないが、それでも個人の自由はしっかりと保たれている。なのに此処にはソレがない。誰か必ず一人自分に監視を付けているらしく必ず側にいるし、出掛けるにも必ず誰か付き添いだし、しかも断られる事さえあった。とにかく単独行動厳禁指令発動継続中。原因は聖蝶姫だとはいえ、我慢出来る部分はあるにしても、だからと言って混乱回避にしては度が過ぎていた。そろそろ駄々を捏ねてもいい気がする。いやまあそんな幼稚な事はしないけど。しないけど とにかく束縛し過ぎている。自分の事に関しては鈍い一面があるミリでさえ気付くくらいに。彼等に束縛される第一の理由は聖蝶姫の件だけにしても、何故、彼等はあのような眼やオーラでこちらを見つめてくるのか。ミリには分からない。いや、分かりたくも無い 慈愛、敬愛、友情、愛情、様々な感情が混ざる一方―――その瞳の奥には手放したくないとばかりに蠢く負の感情の意味なんて 手持ちの白亜と黒恋も何も言わずに遊んでくれているが、そろそろまだ見ぬ世界に足を運ばせたいとうずうずし始めているのは誰よりも主人であるミリが良く分かっていた それにいい加減此処にはいない大切な仲間とも再会したいし、本格的に動き出したいところ。こんな場所で足止め食らっている暇なんてないのだ 「…………」 此処に来る前、そう、船の中から感じていた嫌な予感は間違っていなかった。蒼華、時杜、刹那の三匹と再会して、話を聞いて更に疑惑が強まった じわじわと浸蝕していく、説明の仕様がない悪寒。見えない手が、ゆっくりと首を絞めていく様な―――そんな圧迫感をひしひしと感じるばかり 嫌な予感はそれだけじゃない 「―――…デンジ、あなたの帰りが遅かった理由は…」 「…あぁ。アイツらに言われた通り、発電所に行って少し点検をしてきた。確かにアイツらの言う通りだ。…妙に消費が多い」 「消費電気量が、か…」 「気のせいとかじゃねーのか?大体、何処の街にも消費量は様々だぜ?何で妙に多いだなんて事、お前はともかく何でアイツらが気付けたんだ?」 「いや、ナズナさんがあの中にいるんだったら考えられる。彼は博士だ、前は科学者だったと聞く。そういった分析は誰よりも長けている筈だ」 「仮に彼が得意な分析を駆使したとしても、そもそも何故着目した点がナギサ発電所なんだろうね。それに、彼等がどうしてわざわざ独自で調べている理由が分からない。彼等が手を組んでいる理由も分からないしね」 「手を組んでいる理由は少なくてもミリが絡んでいるのは間違いないわ。けどミリと発電所に繋がりは無いのも事実よ。特に消費電気量だなんてミリには無縁な話だし…何でかしらね、気になるわ」 あの三人が、動いている どんな理由で行動しているかは、まだ明かされていない。話を聞く限り、彼等は独断で動いている事だけは確かだ ―――それだけは、駄目 そもそも、ミリが此処に来た第一の理由はZの証言を調査する為だ。彼等を巻き込ませるなんて毛頭ない。しかし彼等は鋭い。きっと何かに気付いてしまったに違いない 気付いたら小さく溜め息を零していた 「…本格的に、動いた方が良さそうね」 彼等には悪いけど、いつまでも箱庭の中だけで飛び回っている訳にはいかないのだから 皆を、守る為にも 『…………大変な事にならない事を、祈るしかありませんね…』 彼女は悲しそうに、言った → |