ミリを早く寝させたのは、彼女の身体を気遣っている為でもあり、この本題に突入する為にある



今の自分達の空間に、ミリの意識を妨げる要素を出来るだけ排除しているつもりでいた彼等にとって、まさにレン達という"部外者"は邪魔でしかならない。手放したくない気持ちが強い分、ミリが彼等の事を考えるだけでも嫉妬を感じてしまい、喪失感を感じさせる

此処の一週間、共に生活をする度に執着と束縛がどんどん強まっていくばかりで

ミリには何も考えず、楽しくシンオウを満喫してもらいたい。それこそ昔の様に共に楽しく共有していきながら過ごしていきたい。だからこそ、彼等という"部外者"自分達にとって邪魔者でしかなく、不安要素でしかない

この場にミリが居たら、それこそ意識は自分達ではなくあちらに向けられてしまう。しかも正義感の強いミリなら、きっと彼等との再会を望み、彼等と共に行ってしまう可能性もある。もしくは勘の鋭い彼女の事だから、彼等の話を聞いた後、単独で行動するかもしれない

それだけは、絶対に避けたい






「―――…デンジ、あなたの帰りが遅かった理由は…」

「…あぁ。アイツらに言われた通り、発電所に行って少し点検をしてきた。確かにアイツらの言う通りだ。…妙に消費が多い」

「消費電気量が、か…」

「気のせいとかじゃねーのか?大体、何処の街にも消費量は様々だぜ?何で妙に多いだなんて事、お前はともかく何でアイツらが気付けたんだ?」

「いや、ナズナさんがあの中にいるんだったら考えられる。彼は博士だ、前は科学者だったと聞く。そういった分析は誰よりも長けている筈だ」

「仮に彼が得意な分析を駆使したとしても、そもそも何故着目した点がナギサ発電所なんだろうね。それに、彼等がどうしてわざわざ独自で調べている理由が分からない。彼等が手を組んでいる理由も分からないしね」

「手を組んでいる理由は少なくてもミリが絡んでいるのは間違いないわ。けどミリと発電所に繋がりは無いのも事実よ。特に消費電気量だなんてミリには無縁な話だし…何でかしらね、気になるわ」

「うーん…」

「「…………」」






デンジから、レン達から言われた事や今日あった出来事を改めて全てを語られても、肝心な部分はまだ闇の中だ。彼等が重大な部分を語ってこないから、一体彼等が何を企んでいるかも分からない

憶測で彼等の事を判断しようにも、あまりにも情報が少な過ぎた

デンジはビールを口に含めながら、改めて数時間前の彼等を思い出す。全てを見通している眼、けして開かれる事のない口、意味深な言葉…――――

気付けば小さく舌打ちが出ていた






「なぁデンジ、アイツ等他にも何か言っていなかったか?」

「……"混乱を招きたくない"ってゴウキさんが言っていた。それ以上何も言わなかったぜ」

「混乱を、か…」

「混乱ねぇ…物騒な言葉だこと」

「…………」

「どういう風の吹き回しか知らねぇが、アイツら暫くミリを預けるだなんて言ってきやがった。俺達は忙しいから、ってな」

「はあ?なんだそりゃ?何様のつもりだよアイツ。返せって言ったり預けるって言ったりどっちかにしやがれってんだよ」

「まぁいいじゃないか。向こうが動くつもりが無いなら無いで、こっちには好都合さ」

「そりゃ、そうだけど…」

「しかしそれが私達に影響がもたらされるなら、話が違っていくだろう。……三人が手を組んでまで調べている理由…妙な事にならなければいいが…」

「そうね…」

「「…………」」







仮定が成り立たず、憶測だけでも限界がある今、自分達の出来る事は何一つ無い

唯一出来るとすれば、愛しい蝶をこの手で守るだけ。守る為なら、それこそ籠の中に閉じ込めても構わない




――――それが歪んだ感情だとは、まだ気付かない









「とにかくこの件についてはミリに悟られない様にしましょう。あの子自分の事は鈍いのに他人の事だと目敏い所があるし。それから、絶対にミリを危険な目に合わせない事を第一に、絶対に目を離さない事。目を離した隙に大変な事になっちゃったら、私達がこうしてあの子と共にいる意味が無くなっちゃうわ」

「何か一つでも分かったら互いに報告し合おう。彼等の動き読んで、慎重に行動していかないとね」

「そうだね」
「「あぁ」」






彼女は何も知らなくていいんだ

何も知らず、無邪気に笑って欲しい

自分達の側にいてくれる為ならどんな障壁にも立ち向かおう。この日常を崩さなければ、それでいい







「―――俺がミリを見捨てるだと?冗談はよせ。悪いが、生憎俺はアイツを手放すつもりはない。残念だったな」








手放すつもりは、こちらもない

もう失ってたまるか


愛しい蝶と、共に歩む為にも―――



























「………――――」






五人は気付かない



人間も、ポケモンも、誰も気付かない気配の消し方を駆使しながら

一人の女が、静かに彼等の会話に耳を傾けていた事を――――…







(その眼は悲しくて、鋭かった)



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