「あ!え、えっと〜……べ、別に深い意味は無くてですね…!…ほ、ほら!私最後に会話した時、失礼な事を言っちゃいましたから…………えっと、その……そのっ…」

「………………」

「………………お、怒って…ませんでしたか…?」

「………怒ってなかったぜ。そんな素振りもなかったな。あー…別の用で来ていたからな、ミリの事、特別何か言っていたわけでもなかったぜ」

「………そ、うですか……そうですよね。うん、そうですよね!なら……いいです」

「…………」






安心した様で、でもぎこちない表情を浮かべるミリを見て、デンジは眉間に皺を寄せた

嗚呼、コイツは悲しんでいる―――と

何故かなんて、そんなの、やはり好いた相手が自分の事を何も言わなかったから、だろう。よくあるパターンだ。悲しい、よりも寂しいと言った方が正しいのかもしれない。前回の事の罪悪感もあるから、暫く色々と複雑に思っていたのだろう

しかしその相手が何も言ってこなかった事は、向こうは気にしていないから大丈夫だと思う反面―――自分の事はどうとも思っていないと捉えられる

男女のお付き合いは大人のお付き合いと同じく難しい。デンジは知らないが、二人は実際遠距離恋愛まっしぐらな最中でもある。ちょっとした事で、亀裂が入ってしまう事だってあるのだ






―――――レンは最後までミリの事を想っていた




その事を教えない限り、その場に居なかったミリにはレンの想いを一切知る事は無い






「お前、任せたからには絶対にミリを守れ」

「…そんな事、言われなくても分かっている。…むしろ心配した方がいいんじゃないか?ミリの気持ちがもしかしたら傾くんじゃないかってな」

「ハッ、ほざけ」

「……どの道、俺達はミリを手放すつもりはない」

「だったら奪い返すまでだ」















「――――――………」

「……?デンジさん?」

「………ミリ、またあのパジャマ着ろよ。お、そうそう頑張って人間捕まえられるボール造るから楽しみにしてろよな」

「おっとそういえば私これからお茶を入れるという使命を忘れかけてましたよ!」

「逃がさねぇよ」

「逃げる!」










このまま、すれ違ってしまえばいい


そう思う事は、悪い事だろうか?



(俺にはもう、分からない)







―――
―――――












「―――――…そうだったんだのか。だから今日、そんな頬にして帰って来たんだね」

「デンジ、痛かっただろ?彼の蹴りは巨漢でもクリーンヒットしたら吹っ飛ぶくらい威力強いからね」

「うわー…まるで昼ドラみたいじゃねーか。きっと噂だけじゃすまねぇと思うぜ。…特にお前のファンなんかには」

「知らねぇ」

「私も昼ドラ見たかったわ〜」






時刻は過ぎて、現在の時刻は深夜を回った

もうポケモンも人間も寝静まっている時間に、此処の別荘に住む所謂大人組はリビングにてそれぞれ椅子やソファに腰を落ち着かせていた。その手には缶ビールやワイングラスを持っていて、机の上には何缶か呑み終わらせた物が置いてあった

詰まる所、この時間は大人の時間

彼等は互いに晩酌し合っていた






「昼ドラ…ハハッ、確かに昼ドラみたいだね。僕も是非その場に居合わせたかったよ」

「本当よねぇ。こっちはコウダイさんのお孫さんの写真を見せられていたっていうのに。本当ミリったら優しいから最後まで付き合ってあげちゃってさー」

「最後は上機嫌だったね、あのコウダイさん」

「そうそう!あのコウダイさんの顔が緩んでいるんだからね!やっぱり孫馬鹿ってね〜」

「そっちはそっちで大変だったみたいだね。……それにしてもレンが殴られた所とかも見てみたかったよ。倍返しが恐ろしいけど」

「あークソッ、仕事が早く終わっていりゃそっちに顔出せたっつーのに。二人のレントラー同士のバトルとかマジ見たかったぜ」

「そうだね。僕とすればゴウキさんのバトルの実力も気になるなぁ」

「それだったらナズナさんも言えるわよ?だってあのゴウキのお兄さんよ?ツバキ博士の息子だもの、きっと知能戦を得意としてそうよ」

「ハハッ、いつか彼等と一戦交えてみたいものだよ」

「ボッコボコのギッタギタにしてやらなきゃ気が済まねぇ」

「デンジ、顔が悪どいぞ」

「いつかレンと此処でキッパリケリつけてやらねぇとな。蹴りの分…倍返しに返してやるぜあの白髪頭め…!」

「言うなぁデンジ!よし、なら手始めにアイツに白髪染めでも贈ってやろうぜ!白髪にはもってこいなプレゼントだな!」

「ハハッ、それこそ彼からの仕返しが凄いんじゃないかな?」

「楽しみだわ〜、レンガルスの髪が真っ黒に染まるなんてね。プッ!」

「それかヘアカラーでも贈ってやるといい。選り取りみどりで喜ぶんじゃないか?」

「ハハハッ!そりゃいいな!染めた髪を拝んでやりたいぜ!」






アルコールが体内に入っている事からか、何処か皆の調子が高い気もする。ほろ酔い気分だろう、皆楽しそうに静かに笑っている

グラスの中に少量のワインを傾けながら貴賓溢れる仕草で口に含めるダイゴ、同じくグラスの中にあるワインを揺らすシロナと、グラスの中で揺れるワインの香りを楽しんでいるゲン。三人がワインを呑む一方、デンジとオーバの手には缶ビールが握られていた。ビールの方が好きな二人は一つ、また一つとビールを開けていく。明日はまだ仕事があるのに二本(机には四本のビール)も呑んで大丈夫なのだろうか


此処にいないもう一人の住人は、今頃高級ベッドに包まれながらのスヤスヤと眠っている


普段朝早く起床し、夜遅くまで皆に付き合って来たミリ。家事もやってくれた事から、休む暇も無く、しかも寝不足が続いていた事でそろそろ限界が来ていたのだろう。夜遅くまで付き合う事は無い、とゲンが遠慮と抵抗をするミリを無理矢理ベッドに押し込んだ

やはり眠気を欲していたミリの身体はすぐにベッドに包まれた事で夢の中に旅立っていった。どこぞのの●太君の如くおやすみ三秒と寝始めたミリの姿に安堵し、この時の為の高級ベッドなんだなと改めて実感したゲンだった。寝顔を見に来た彼等全員は気持ち良さそうに眠るミリの姿に静かに笑った







「けどあのレンガルスが団体で行動するなんてねぇ」

「俺はそこにゴウキさんがいる事に驚きだぜ…呑気に観戦とかちょっとおまっ…」

「ナズナさんを見掛けないと思っていたけど、まさか二人と行動を共にしていただなんてね」

「アイツらなんかいつか感電死すればいい。いや感電死させる。オーバの頭の様に」

「させんな!つーか俺の頭の様にって何だよ!?」





「―――…けど、彼等の動きは正直気になるね」











皆の手がピクリと止まった






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