その表情は多少の驚きを含めていたが、けどやはりと言った様子で小さく苦笑を零していた

やっぱりミリは気付いていた

何も言わずに救急箱を持って立ち上がろうとしたミリの腕をデンジは掴んだ。そのままゆっくりと引き寄せて、自分の隣りに座らせた。話はまだ終わっていないとばかりに。簡単に引き寄らせたミリはそれこそ驚いた表情を見せるも、抵抗はせずにデンジの隣りに腰を落ち着かせた


暫く、沈黙が広がった






「―――――…ミリ、」

「その、」

「?」

「……その頬は、まさかレンに?」

「……まあ、な」

「っ…―――――」

「…俺もアイツに一発殴った。つまりおあいこだ。別にこんなの、屁でもねぇよ」

「…………」








「俺は絶対に認めねぇ!俺達からミリを奪ったお前を!お前らを!絶対にミリを―――渡してたまるかッ!」







今更だが、つくづく自分は馬鹿な事をしたと思っている

許せないばかりに爆発した己の嫉妬心から始まり、引き金となって爆発した昔から抱いた憎悪、そして嫉妬。まるで自分じゃないみたいにどんどん感情が溢れては、歯止めが効かずに―――気付いたらレンに一発殴っていた。今だからこそ見つめ返せれる自分の滑稽で醜態な姿につくづく嘲笑するばかり

殴る事には後悔はしていない。殴った事で妙にスッキリしているし、感情が爆発した事で逆に清々しい気分でもある。唯一後悔するとしたら、殴るんだったら別の場所にすればよかった。テレビ中継の事を忘れていた為、殴る行為はまだしも蹴られた姿はあまり見せられるものじゃない。しかも互いにあんな台詞を言い合っていたから、昼ドラみたく、三角関係疑惑浮上な中継に妙な噂が流れなければ良いが…と心配してしまう。こっちは真面目の大真面目だったが。もしミリとナギサの街を歩いていたら大変な事になりそうだ。やはり場所を選ぶべきだったと盛大な溜め息が零れた






「―――――…ずっとアイツを想ってきた?ずっと信じて待っていた?…聞いていりりやぁ何甘ったれた事をつらつらとほざいてやがる。ざけんな!その言葉自体が甘ぇんだよ!」


「何でテメェは此所で止まって動こうとしねぇんだよ!待っているくらいならテメェの足で探しに行け!好きだったら見つけるまで諦めんな!何もしなかったお前に色々言われる筋合いがなけりゃテメェに言われる資格すらねーんだよ!それこそ奪うだとか許せねぇとか、こっちにとっちゃあ迷惑極まりないんだよッッ!」







自分を睨み付けたピジョンブラッドの奥に潜む憤怒の感情。レンが自分に言った言葉が繰り返しリピートされる

言い返せれなかった

奴の言った事はまさに正しかったから




想い焦がれても、自分から動こうとはしなかった

ジムリーダーだから、と理由を付け、絶対に帰ってくると信じた。想うだけで、何もしなかった。したくてもジムリーダーがあるだなんて、ただの言い訳に過ぎない。だったらまだダイゴの方がマシだ。チャンピオンの職をミクリに任せ、ホウエンの皆の代わりとしてミリを探していた。ホウエン大災害で故郷を心配していても、ダイゴはミリを選び、その足でこの最北にやってきた。まだダイゴの行動には、好感は持てるはず



少なくとも、あの台詞とあの瞳の感情を見て、レンに対するデンジの印象が変わった事は確かだ

憤怒の裏に見えた感情に、喪失と悲しみが見え隠れしていたレンの瞳。何故、彼がそんな瞳を宿していたはデンジには分からない。分からなくて当たり前だ。だが唯一分かるとすれば、きっとレンにもレンの事情があるんだ、と






「―――ミリの優しさに甘んじて漬け込むな。アイツは優しい奴だからお前らを突き放す事はしないが、だからってお前らの身勝手な感情に付き合わせるなんざお門違いだ馬鹿野郎」

「……」

「ミリはお前らの約束を守る為に戻って来た訳じゃない。―――忘れるな。俺達の約束の為に来たって事をな」

「……約束って、なんだよ」

「お前に言う必要は無ぇ。………が、強いて言えばお前らと聖蝶姫が交わした約束と同じ様なものだ」

「…………」







「分かっていると思うが、一つでもミリに手を出してみろ…氷結よりも恐ろしい恐怖をテメェに刻み付けてやるから覚悟しやがれ」














「――――……デンジさん?」

「!…あぁ、悪い」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。悪いな、少しトリップしていた」

「フフッ、トリップって面白い事を言いますね」

「そうだな」

「……あの、デンジさん」

「何だ?」

「………レン、何か言っていませんでしたか?」

「―――――――………」















デンジは言葉に詰まった





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