応えてくれた


私の声に、応えてくれた





間違ない、あの方だ


あの方が私の声に、応えてくれた






《………今、あの方の元に…―――》











黒い影はゆっくりと闇に溶け込んで、消えた


(今、あの方の元へ…)


―――――――――
――――――
―――











「デンジさん、湿布換えましょう」





ちょっと起きた一騒動をなんとか落ち着かせ、遅い夕飯を済ませ各自思い思いに一時の時間を過ごしていた頃だった



ソファに座り、満腹になった腹を落ち着かせながら手は相変わらず機械を弄っていたデンジの元に、救急箱を持ったミリがやって来た。流石にもう彼女の格好は先程のイーブイパジャマでは無かったが、さっきまでの不機嫌さが嘘の様に、今度は心配そうにデンジの頬に視線を向けていた


デンジの頬には、湿布が貼られていた






「…別に必要ないじゃないか?」

「駄目ですよ。もう効果は切れているんですから、早く治す為にも湿布は換えさせてもらいますよ」

「…分かった、なら頼む」

「はい」






湿布が貼ってある左頬に面する様にデンジの隣りに腰を降ろしたミリは早速手慣れた手付きで湿布の準備を始めていく





それはデンジが帰宅をし、ちょっと騒動が起きて収集がなんとか着いた数時間前までに溯る

若干マジ顔で暴走するデンジをオーバが押さえ付け、ちょっぴり顔を引きつらせるミリを遠巻きに見て笑っていたシロナとダイゴとゲン

そんな時だった

一番最初に気付いたオーバの言葉が始まりだった






「おいデンジ。お前、その頬どうしたんだ?朝は無かったよな?何かしたのかよ」






勿論、朝に彼の頬に湿布なんてモノは貼られていなかった。だとすればきっと今日何かデンジに合ったんだろう。お節介妬きなオーバにとって、この質問はいつもの質問なのだが―――問われた彼の眉間には皺が普段以上に寄せられていたのが何よりの証拠

嫌悪する様な、邪険する様な、とにかくそんな負の感情がスカイブルーの瞳の中から読み取れた

だがすぐにデンジはバツの悪そうな顔をし、「ポケモンの攻撃に巻き込まれた」と言葉を濁した。明らか嘘を言っている事は周囲にはバレバレだったが、誰も皆それ以上の詮索はしなかった








「はい、剥しますよ〜」





細い指がデンジの頬に触れ、湿布を剥しに掛かる。ゆっくりと剥れていく湿布から覗く赤い痕に、あらあらとミリは言葉を漏らした

余程強い衝撃を受けたのが、頬は真っ赤だ。口内は切れるも歯はいっていない事が救いだった。ミリは新しい湿布を取り出し、痛みを感じさせない丁寧な作業を施してやる

冷たさを感じても痛みを感じなかったその頬は先程の様に新たに湿布が貼られた






「はい、出来ましたよ」

「あぁ…サンキューな」

「どう致しまして」






ミリは微笑を零しながらデンジの礼に応えると、テキパキと後片付けに入る

湿布を剥した感触、自分に触れる細い指、その指が新たに湿布を貼る感触を思い出しながら、デンジは徐に自分の頬に触れる。もう痛みは感じないが、妙に熱を帯びているのは蹴られた事による熱か、ミリが触れた事による熱か


デンジはミリを見た


湿布を捲り、頬の状態をその目で見ても、ミリは詮索をしてこない。ミリという人間は、疑問に思っても本人が口にしなければ無駄に詮索しない奴だ。それはミリ本人が鋭い人間だからこそ瞬時に気付き、敢えて詮索をしないのかも知れないが、逆にそれが有り難かったりするのだ。強請をしてこない人間程、懐が広く暖かく、居心地が良く感じてしまう

ミリは何も言わない。その態度が少し寂しく感じさせるが、彼女は待っているのだ。自分の口から事実を話す事を。だからミリは何も言わければ何も詮索しない。相手を思っているからこそ、敢えて何も聞いてこない



ミリは、否―――聖蝶姫もそんな人間だった










「さ〜て、と。デンジさんの頬を取り替えた事ですし、今からお茶を淹れてきますね。緑茶で良いですよね?」

「あぁ」

「了解しました。なら皆の分も…」

「ミリ、」

「はい?」

「――――……今日、レンと会った」

「―――――――…」








ピクリと救急箱を持ったミリの手が反応した





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