時間は流れる川の如く緩やかに進んでいき

時刻はもう、二人が帰宅する時間となった






「邪魔をしたな」

「今日はありがとう御座いました。とても有意義な時間でしたよ」

「こちらこそ、今日はありがとう御座いました」

「「ブイブイ!」」






別荘の庭先にいるのはコウダイとジンとミリ。ミリの腕には白亜、頭には黒恋が乗っている。彼等より数歩後ろにはシロナとダイゴが立っていた

時刻はもうじき午後三時を過ぎようとしている。多忙な二人はこの後も仕事が残っていて、リーグに戻る事を強いられている。大概リーグ大会の事だろう。幹部レベルの地位にいるのも大変だ。まだ陽は明るいが、此処でお別れとなる






「また遊びに来てください」

「あぁ、また顔を出す」

「その時は他の人達全員も揃っていれば良いですね」

「あはは、そうですね」

「「ブイブイ」」






その残りの人達のうち二人はタイミング良く逃げ出したのは置いといて


コウダイとジンは視線をミリから後ろに控えるシロナとダイゴに向けた






「彼女の事、しっかりと頼みますよ」

「はい、勿論です」

「シロナ、今度彼女を特設会場に連れてきなさい。そろそろ彼女にも色んなものを見させてやれ」

「えぇ、是非そうさせてもらいます」






良かったわねミリ、と嬉しそうにミリの肩に手を置くシロナに、楽しみです、とミリは笑う

その姿を暫く眺めたコウダイは腰からモンスターボールを取り出し、空へ放り投げる。ジンもコウダイに続いて腰からモンスターボールを取り出し、空へ投げた

ポン!ポン!とボールが開かれ、光が放たれた空にはピジョットとオニドリルの姿が現れた。ピジョットはコウダイ、オニドリルはジンのポケモンだ。高い咆哮を上げ、二人の前に降り立つその姿は中々の迫力があった




ボールを出し、ポケモンを出した事は会話終了を示し、彼等が帰る遠回しの報せでもある

二匹の背中に飛び乗る姿を見守っている中、ジンはミリに視線を向けた








「ミリさん、これを」






徐に懐から何かを取り出したジンは、オニドリルの背に跨がったまま、腕を伸ばしてソレをミリに手渡した

差し出されたものは一枚の名刺だった。受け取ったソレを訝しげにに両表を覗くミリ。勿論そこに書かれているのは初めて見る名前なので知らないのも無理はない。何だろう、と小首を傾げジンを見上げてもジンはただ笑うだけ。シロナもダイゴも後ろから覗き、あ…と二人口々に言葉を漏らした






「この方は…アスランさんじゃないですか」

「ダイゴさん、知っているんですか?」

「知っているもなにも、この方はミリがチャンピオンの時にいた幹部長よ?今はもう定年退職をして当時の副幹部長が幹部長を務めていらっしゃるわ」

「アスランさん…」






渡された名刺は、いつの日かゴウキがジンから受け取った名刺と同じモノで

ホウエンチャンピオンだった聖蝶姫を影から支え、ポケモンマスターへ導かせた男

その名は―――アスラン






「ジンさん、アスランさんはミリの事を…」

「勿論御存じです」

「そろそろアイツにも会わせてやってくれ。私達よりも一番彼女に会いたがっているし、…一番責任を感じている」

「分かりました。近い内にも、必ず」






責任を感じ、罪の意識をより深く感じているのは、まさに彼本人だろう

そのせいで彼の"時"が止まった。血の繋がらない娘と同様に大切にしてきた仲間を失った喪失感。六年間、彼女の記憶が無かったにしても、ただ生きているだけの友を見ていられなくて









「――――…では、後は任せた」

「ミリさん、また会いましょう」













罪が消えるわけではない

少しでも、彼を安心させて欲しい









(時を、動かしてくれ)



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