元々レンはやられたらそのまま受け止める優しい性格をしている訳ではない。むしろやられたらやり返し、半殺しの勢いで実力の差を見せつける程に、奴はやる。やりかねない。それで一体何人もののトレーナーが犠牲になり涙を流したか。それくらい奴はやるのだ。ボッコボコのギッタギタに

そんなレンがデンジの一方的の鬱憤晴らしに付き合う義理は無く、ましてや一発自分の頬を殴られている事からデンジに三倍返しは確定事項になっている。否、殴られても状況が状況なら流石に倍返しはしないのだが、どうやら今回はレンの癇に触れてしまった様だ






「…麗皇、彼に手を出さないと先程聞いたばかりだが?」

「手は出してねぇよ。代わりに足は出たが」

「意味は同じだろ」

「俺はやり返すと踏んでいたが、こうもアッサリと的中するとはな」

「…いいのか、それで」






振り上げられた長い足は見事なまで綺麗に弧を描き、その勢いのままデンジの頬へと命中した

体術の中でレンが最も威力が強く最も得意とするのが足蹴りだ。実際にゴウキとの修業でまた一段と威力が上がったその力は、容易くデンジを吹っ飛ばした。デンジ自身、まさか腕では無く足が飛んでくるとは予想外だったらしい。身構える事なく、もろに攻撃を食らってしまっていた

流石に手加減はしてくれたらしいが、威力が強い事には変わりはない。しかも質が悪く、その眼光は本気と書いてマジなくらいマジだった。無抵抗で吹っ飛ばされたデンジは床に叩き付けられ、やはり口内で切れたのか形の良い唇から血が漏れていた


何をしやがる、と口元を拭い、痛みに呻くもそのスカイブルーはギロリとレンを睨み付けた。そんなデンジにレンは、これでおあいこだな、と無様な姿のデンジを嘲笑した






「ハッ、無様な姿だなデンジ。ちったぁ冷静になれたかよ」

「テメェ…!」

「そこで地べたに這いつくばって腐っちまえ。テメェにはそれがお似合いだ」

「ッ!んだとテメェ!」






デンジが立ち上がってレンに掴み掛かろうとする前に、レンの腕が今度はデンジの胸倉を掴んだ

グイッと身体を無理矢理動かされ、胸倉を締め上げられた事の圧迫感。目の前にはハッとする端整な顔に、デンジを鋭く睨むピジョンブラッドの瞳。あまりの鋭さと瞳の奥に潜むその光に、デンジは息を飲みレンを凝視した






「―――――…ずっとアイツを想ってきた?ずっと信じて待っていた?…聞いていりやぁ何甘ったれた事をつらつらとほざいてやがる。ざけんな!その言葉自体が甘ぇんだよ!」

「っ…!!」

「何でテメェは此所で止まって動こうとしねぇんだよ!待っているくらいならテメェの足で探しに行け!好きだったら見つけるまで諦めんな!何もしなかったお前に色々言われる筋合いがなけりゃテメェに言われる資格すらねーんだよ!それそこ奪うだとか許せねぇとか、こっちにとっちゃあ迷惑極まりないんだよッッ!」






デンジを睨むピジョンブラッドの瞳は怒りに燃え上がり、胸倉を掴む手はキリキリと震えている。先程のデンジと同じように

レンはキレていた。デンジの言葉に、デンジを含めた此所には居ない他の奴等に

レンは幼少の頃、双子の兄と生き別れになってからというもの、兄を見つける為にその足で色んな地方へ向かい、捜し、途方な毎日を歩んできた。仲間を失った喪失感に関しては兄の事があるので共感出来る部分はあるが、自分から動こうとせずにいる彼等が心底許せなかった

現にレンは自分の元から(訳アリで)行方を眩ませたミリを見つけ出し、捕まえた。それはレンが諦めないでミリを捜し出せたから。いきなり行方を眩ませたミリに怒り、理由を突き詰め様とした行動でも、それでも諦めなければ見つけ出せれるのだ。そしてレンは見つけ出す事は叶わずとも、兄ゼルジースの生存は確認出来た。それだけでも、レンにとっては報われていた


動かなければ、欲しいものは手に入らない。レンはそれを知っている。裏の顔である情報屋として情報を得るのも、全ては自分で動いてきたから。その重要さも重々理解している


だからこそデンジ達の姿はレンにはただの甘えでしかない。親鳥の持ってくる餌を、ただ待っている雛鳥の様に

一番気に食わなくて、一番許せない

しかも自分が勝手に横取りしたとばかりに言ってくるその発言には本当に迷惑極まりないばかり。身体を硬直し、微動だにせずただこちらを凝視するデンジを、盛大な舌打ちと共に突き放してやった






「―――ミリの優しさに甘んじて漬け込むな。アイツは優しい奴だからお前らを突き放す事はしないが、だからってお前らの身勝手な感情に付き合わせるなんざお門違いだ馬鹿野郎」

「……」

「ミリはお前らの約束を守る為に戻って来た訳じゃない。―――忘れるな。俺達の約束の為に来たって事をな」

「……約束って、なんだよ」

「お前に言う必要はねぇ。………が、強いて言えばお前らと聖蝶姫が交わした約束と同じ様なものだ」

「…………」






誰かさんのせいで無理矢理交わされるハメになったけどな、と憎しみを込めてギロリとある人物を睨み付ければ、当の本人は知らんとばかりに肩を竦める

その白々しい態度にこれまた不機嫌そうに盛大に舌打ちを噛ますレン。やっぱりまだ根に持っていたらしい。拳を作って今にも殴り掛かろうと殺気立っている


とにかく、とレンは髪の毛をかき上げながら嫌そうにデンジに視線を向けた







「俺からしてみりゃ、お前らも俺達からミリを奪った様なもんだ。胸糞悪い。奪い返すにも、生憎俺達は忙しいんでな。暫くお前らにミリを預ける」

「…どういう風の吹き回しだ?」

「こっちはこっちで色々と忙しいんだよ。俺の優しさに精々感謝するんだな」






だがな、とレンは言葉を切る






「分かっていると思うが、一つでもミリに手を出してみろ…氷結よりも恐ろしい恐怖をテメェに刻み付けてやるから、覚悟しやがれ」








絶対の、忠告






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